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何人かの生徒が靴箱の影から僕の反応を冷やかしていた。わざと聞こえるような音量で。
普段からそんなことを思っていたのか。毎日あいさつをして、たまにサッカーをして遊んでいた友人が別人のように思えてきた。
潰され平べったくなった虫を拾い集める。くだらないことに付き合わせてしまったことが申し訳なくなって、せめて学校の花壇の土へ埋めてあげようと考えた。
「勝矢。こんなところで何してんの?」
パンジーが敷き詰められた花壇の隅の土を掘っていたら、ランドセルを背負った伊吹が声をかけてきた。
「虫たちを供養するところ」
「え? クヨウって何?」
「……それより、僕とあまり仲良くしない方がいいかもよ。知ってるんでしょ?」
「んー、まぁ一応」
「なら尚更、帰る時も別々の方がいい」
手に着いた土を払う。伊吹だって態度を翻すに違いない。それなら最初から距離をとっていた方が楽だ。
「と言われても、今日家来てゲームする約束してたじゃん?」
「そんな約束してた?」
「うん。してたよ」
僕の強がりに反して彼は八重歯を見せて笑った。
「早く行こう。時間なくなっちゃうよ」
「……うん。ありがとう……」
気を利かせてついた嘘に、胸の辺りがじんわりして今まで抑え込んでいたものがあふれ出した。
人並みより笑顔が少なかったり、感情を露わにすることは少なかったかもしれない。それでもこの時はちゃんと自分の感情に気づけていた。
その日の夜は久しぶりに安眠できた。すぐに日常へ戻れるのだと、漠然とした希望を抱きながら。
翌朝、通学路を歩いているとパキッという乾いた音と共に、何かが後頭部に当たった。と思ったら、うなじ辺りにぬるっとした液体がなだれ落ちてきた。手で触ってみる。黄色と透明の液体がまとわりついた。生卵だ。
ふたり乗りのバイクが真横を駆け抜けると甲高い笑い声が耳に残った。犯人はさっきのライダーたちだ。彼らがどうやって僕の顔を知ったのか、知る由もなかった。
髪と服がべたべたして気持ちが悪かった。着替えたかったが、戻るにしても登校時間に間に合わない。着いたらとりあえず担任に事情を話すしかない。
下を向き、再び歩き出した。すると、ランドセルを背負ったふたりの女子が早足で僕を追い越した。よく見たら、同じクラスの生徒だった。彼女たちもまた下を向いたまま、何も言わず去っていった。見ていたのだろうか、卵を投げつけられた瞬間を。
学校へ着き、まっすぐ職員室へ向かった。事情を聞いた先生はすんなりと僕を帰してくれた。腫れ物を触るかのような対応と眼差しだった。
祖父母宅は遠いから久しぶりに自分の家へ帰ることにした。
「殺人犯出ていけ」
目に飛び込んできたのは赤いペンで殴り書きされた紙。
同じものが乱雑に玄関の扉に貼り付けられていた。
恐怖に足が竦んだ。家を間違えたんだ。ここは僕の家じゃない。だって、ここに殺人犯なんていないのだから。
一歩、二歩とゆっくり後ろへ足を動かす。
間違えるはずがない。であれば、誰がなぜこんなことをした?
全力で祖父母の家へ戻った。自分でも不思議なくらい足が速く動き、息苦しさを忘れて走った。
原因はデマの拡散だった。知らない間に父の罪状が「公務執行妨害」から「殺人未遂」へすり替わっていたのだ。一度広まった噂を修正することはほぼ不可能だった。




