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主な登場人物
耳塚 伊吹…男性。勝矢と幼馴染。保守的な性格。
大鼻 勝矢…男性。伊吹と幼馴染。少し冷たい印象を持たれがち。
久目 颯…男性。壱歩と勝矢とは大学で再会した。野球をやっていた。
手柳 佐環…女性。嗣乃と仲が良い。努力家で真面目な性格。
古味山 嗣乃…女性。佐環と仲が良い。瞬間記憶能力を持っている。
失感情症。
精神科医が僕に下した診断結果は、漢字四文字の病名だった。小学生高学年ともなれば漢字から意味を推測するのは簡単だった。感情を「感じなくなる」のがこの病気の症状なのだと。しかし、医師の話と僕の認識には若干のズレがあった。本来の症状は、喜びや悲しみなどの感情を「感じなくなる」のではなく「気づきにくくなる」ことでるらしい。
僕は未だにこの違いを分かっていない。
▽▲
大衆居酒屋の隅の席に、僕を含めた十名のメンバーが座っていた。満席の店内では多くの店員が駆け回っている。
今日は毎年恒例の忘年会。普段、飲み会などの集まりに顔を出すことを控えていた。今回参加したのは情報収集のため。P市死亡ひき逃げ事件から三年が経過した今、世間の注目がどれほどのものか知りたかった。
「ねぇねぇ、大鼻くんって彼女いるの?」
僕よりふたつ年上の女性社員が上目遣いで訊いてきた。
「いませんけど。それ前にも言いませんでしたっけ?」
「えー? そうだっけ?」
彼女はわざとらしく首を傾げた。瞬きする度にアイシャドウのラメがぎらつく。僕が独り身であるゆえ、何年か前からアプローチともとれる言動を受けてきているが、対応にはもう慣れていた。それに、彼女からどんな言葉をかけられようとも心が動くことはない。
「ちょっと、ちょっとー。それセクハラじゃない? 大鼻くん、困ってるよ」
斜め前に座っている男性社員が僕をフォローする。
「何よー。彼女いるかって訊いただけじゃない」
女性社員は大袈裟にため息を吐く。お礼の合図としてウーロン茶の入ったコップをこっそり上げた。
「今は何でも厳しい時代になってるんだよ。いい加減学ぼうぜ。それより料理食べてる? 特に大鼻くん。ほら、君は肉をつけないと」
「あ……どうも」
男性社員は唐揚げと枝豆を別皿に盛って渡してくれた。料理なら豆腐と刺身と漬物を食べたばかりだ。だけどこうして僕の体型を心配して世話を焼いてくれる。
「時代と言えば、すごいバズってるよね。あの動画配信者。私より稼いでるみたいで羨ましいなぁ。この時代ならではって感じよね」
「あぁ、熊猫パンダだっけ? P市で起こったひき逃げをずっと追ってるあの人ね。元々炎上系で成り上がってきたみたいだし、羨ましいとは全く思わないよ。まぁ、あそこまで人生振り切って生きていけるっていう意味でなら羨ましいかな」
「それより、ひき逃げ犯がまだ捕まってないってあり得ないよねぇ。警察は何やってんだか」
「熊猫の話によると、P県内で起きた強盗殺人の方に人員を割かれているらしい。目撃者がいないのも関係してるんだと」
ひと粒の枝豆を奥歯でかみ砕く。僕は女性社員と男性社員の会話を黙って聞いていた。
熊猫パンダは犯人たちにとってだけでなく、警察からしても目の上の瘤のような存在だろう。実際に彼の動画を観たことがある。きっかけは颯だった。
——こいつの言うことは信じるな。
忠告じみたメッセージと共に熊猫パンダ氏の動画のリンクが送られてきた。それをタップすると、黒地に黄色い文字で『巴海沙は元少年Aだった⁉ 犯人は被害者遺族の可能性も……?』と書かれたサムネが表示された。
内容は、ひとりの男性が画面に向かって事件の詳細や巴海沙の生い立ちを淡々と語るものだった。これといって目を引く演出はないのにコメント件数がけた外れに多い。違和感を覚え開いてみると、「また無実の人を犯人だとでっちあげるんですか?」という不穏な文言が目についた。
「大鼻くんはぁ熊猫パンダの動画ー、観たことあるのぉ?」




