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「じゃあそうしよう。とにかく早く駆けつけないと」
そうして全員で伊吹の元へ急いだ。階段の途中まで上がると、体調でも崩したのか、なぜか伊吹が体を丸めて座っていた。
「事情を訊きに行ってくる。みんなはここにいて」
勝矢から指示され、その場に待機した。だけど、ふたりのやっていることは少々大袈裟な感じがして、何にビクついているのか気になっていた。だから様子を見ようとこっそり立ち上がった。その時見たのは複数人の人影。伊吹は、ひき逃げ犯の中に女の人がいたと言っているが、性別までは認識できなかった。
車の走り去る音がした後、伊吹はひとり階段を登りきった所で立ち止まった。颯が駆け寄り事情を聴いた。
目の前でひき逃げが起きて、偶然カメラに映像を収めてしまったという。
「カメラの映像を確認した方がいい」と提案したのは勝矢だった。
「そっか。もし、このカメラに事故の一部始終が映っていたら、これが重要な証拠に……」
見間違いの可能性があるから観たほうがいい、という意味だと解釈したが、佐環は警察へ提出することが前提のようだった。
カメラに注目すると、妙な違和感に気づいた。
「これ、録画止まってなくない?」
「あ、本当だ」と、伊吹は慌ててボタンを押した。
収められていた映像はまさに決定的瞬間。
「もしかしたらまだ生きているかもしれない」
佐環らしく真っ先に声をあげた。もう手遅れだから行く必要なんてない。そう思っていた。
「嗣乃も行くんだよ。私たちが目撃者なんだから、自分は関係ないとかなしだからね」
彼女の瞳が揺らいだ。私の記憶力が優れていることに、多分気づいている。この先のことを考え五人の立場は対等であるべきだと考えたのだろう。促され仕方なく現場へ向かった。だけど、この行動をひどく後悔した。事故を起こした黒っぽい車を見ると、血の海に横たわる被害者の姿が形状記憶のように蘇ってくる。
人生で最も最悪の日。事情聴取は受けるのだろうか。通報なんてしなくていいから早く帰って寝たい。ストレスで勝手に涙が流れてきた。
すると次に、颯の焦る声が響いた。
「俺、知ってる。……まだ通報はしないで! 詳しいことは後で話すから!」
そこへ案の定、佐環が止めに入った。正しい意見だ。その正しさで、何ができる? 彼女を止められるのは私しかいない。
ゴミをまとめた後、颯からこの事故について「見て見ぬフリをするべきだ」とする理由が語られた。意外だったのは、勝矢も同様の意見を持っていたということだ。SNSでは彼のことを「犯罪者の息子」と揶揄する投稿があり、それがあの態度に繋がっていたのかもしれない。
私も賛成だった。颯の言う通り、被害者が元少年だったのなら尚更。マスコミはこのニュースを大袈裟に報道するだろう。万が一、目撃者であるはずの私たちに疑いの目が向けられたら……。
何はともあれ、お金で解決できないことほど面倒なことはない。余計なノイズは排除するべきだ。それでも佐環は食い下がってきたから、つい強く言い返してしまったが、効果はあったようだ。
高校の時からそうだった。私たちは互いに依存しながら過ごしてきた。
ネズミはどの段階で裏切ることを決断していたのだろうか。仮に私が個人情報の共有を提案しなかったら、ネズミが言うつもりだったのか。少なくとも、この時点で裏切ることを考えていたに違いない。P市死亡ひき逃げ事件の真相アカウントに、消したはずの事故発生直後の映像をアップロードしているからだ。
これだけは誓って言える。車の中で仮眠を取っていた時、アクションカメラは颯たちの車にあった。




