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「『Anywhere』。これから名を馳せる予定の、実力派バンドだよ」
「そんなにすごいの?」
「うん、すごいよ」
声のトーンが一段階低くなる。その言葉に静かな自信がみなぎっていた。
「よければ来週ライブやるから、観に来なよ。今回僕は出ないけどさ」
「行きたい行きたい! ね、嗣乃」
「ごめん、今回は遠慮させてもらってもいい? 予定が詰まってて」
私はスマートフォンを操作したまま返事をする。
「そっかぁ。それは残念。最近バイトで忙しいね」
「うん、まぁ」
昔から無暗に希望を追いかけて努力する人たちを見るのが苦手だった。それに、予定があること自体は嘘ではない。佐環や伊吹にはパパ活していることを隠し、「家庭教師のバイトを始めた」ということにしてある。
それからも私たちは定期的に会う仲になり、最後に加わったのが颯だった。
「野球で全国まで行ったことがあるんだ。スゲーだろ? 同じ中学校だったからよく覚えてるんだ」
なぜか伊吹が胸を張る。その横で「すぐ負けたから、大したことないよ」と本人が付け加えた。
「今はもう完全に野球を辞めたんだ。そんで暇してたら伊吹が誘ってくれたって感じかな」
言葉を交わさなくても分かった。この人、苦手なタイプだ。「直感って案外当たるんだよ」と、顔も覚えていない男性たちの言葉が浮かんだ。
颯は長年運動部に入っていたせいか、仕切りたがりなところがあった。
「先にジェットコースター乗った方がいいんじゃないか?」とか「メシはその辺で済ませようぜ」とか。
五人で遊ぶことが当たり前になっていったが、佐環がいるから我慢していただけだった。
そして、ついにあの事に巻き込まれてしまった。
発端は颯の発言だった。
「卒業前にみんなで旅行へ行かない? 日帰りで行けるような近場かつ穴場。俺、そこに住んでいたことあるから詳しいんだ」
彼が指定した場所。それがP市だった。
P市のことを熟知していたのは嘘ではなさそうだった。庶民価格で食べられる美味しいお店や、地元の人しか知らないような秘境にある温泉……。若い人たちが遊ぶ場所というより裕福な人たちのためのリゾート地という印象だったから、十分満足できていた。途中までは。
夕食を済ませ、最後に花火をやってから帰ろうと提案したのは伊吹だった。よさそうな場所に来たのだから、と。街灯の灯ははるか遠く、私たちは真っ暗な浜辺へ花火セットとバケツと袋を持って向かった。近所から苦情が来ないか心配だった。この時、既に日付を超えていた。
花火が終わったタイミングで帰ればよかったものの、今度は颯が「じゃんけんで負けた人が近くの神社まで肝試しに行く」なんて言い出すから。まるで、この後起きる事を知っていたんじゃないかと疑ってしまう。
伊吹が浜辺を離れて七、八分程が経過。メッセージにいち早く気づいたのは颯だった。
「何だ、伊吹のやつ。もうギブアップか?」
——緊急事態! 誰か来て! ヤバいことになってる!
伊吹からのメッセージを読んだ時、ガラの悪い人たちに絡まれているのかと思った。
「不審者に襲われるとかかな? 訊いてみよ」
私の代わりに佐環がメッセージを送る。この段階で、私たちはまだ深刻に考えていなかった。だけど、勝矢は違っていた。
「一応伊吹の所に行ってみるよ。みんなはここで待っていて」
私と佐環は互いに顔を見合わせる。待っていてと言われても、夜の海に置いてけぼりにされるのは心細くて怖かった。すると颯が「行くならみんなで行った方が良くないか? 何があったか分からないけど」 と珍しく気の利いたことを言った。




