10
ボールの叩きつけられる音、無駄のない連携からの得点。ただただ圧倒された。佐環はバレー歴が長く、部員も少なかったためレギュラーで出場していた。彼女の身長は平均より少し高いくらい。高さで劣る相手に粘り強さで対抗する姿はとてもカッコよかった。何度もジャンプして、床へ滑り込んで……。表情の中にバレーを心から楽しんでいる気持ちがこちらに伝染してくるようで、私の視線はコートから離れられなかった。
窓から差し込んだ白い光がコートに注がれる。青春を絵にかいたような光景。だけど、憧れはしなかった。憧れたものになれなかった時虚しいし、私はもう覚えてしまったから。純粋に努力してもどうせ叶わないこと。大抵のものはお金で買うことが出来るということを。
▽▲
「ちなみにさ、君は誰がネズミだと疑ってるの?」
ベッドに寝転がったまま彼が訊いてきた。
一瞬ネズミが何のことなのか分からなかったが、そう言えば伊吹の告発ブログで裏切り者のことをネズミと書いていたと思い出す。私は乾かしたての髪をくしでとかしながら訊く。
「……興味ないって言ってなかった?」
「マリアちゃんが炎上していることに関してはって意味。パパ活していたところで文句言ってる人の人生に関係ないのに。あ、君がネズミでも俺は構わないよ。ただ、理由が気になっちゃって」
「それが誰なのか知らない。強いて言うなら、ひとりだけ怪しいと思ってる人物はいる」
「へぇー」
体を起こし、「誰なの?」と急かした。
「自分は本当のことを言っていると主張しているけど、彼が正直者なら私は裏切り者ってことになる」
「彼って?」
「久目颯」
「どうしてそう思うの? 何か恨みでもある?」
「なんとなく。ただ、私や伊吹のことを裏切り者扱いしようと必死になっているところが逆に怪しく見えるから、かな」
「なるほどね。そんで、その久目くんってどんな人?」
途切れない質問に私はため息をつく。私を家に呼んだ理由の半分はこのためだったのか。
「……そんなに知りたいなら話すよ。私たちの出会いからP市死亡ひき逃げ事件に至るまで」
▽▲
秋風にスカートがなびいた。
晴れてQ大学の特待生試験に合格。佐環とも同じ大学へ進めたのはラッキーだった。第一志望の大学にいけなかった彼女には悪いけど。高校時代、まともに遊ぶ暇がなかった分、たくさん思い出を作りたかった。
——ごめん、嗣乃。まだ熱が下がらなくて行けそうにない……。チケット代払うから、本当にごめんね!
——大丈夫、大丈夫! 気にしないでよ。
佐環からのメッセージに肩を落とす。午後からミュージカルを観る予定だったのに、楽しみがなくなってしまった。急に暇になった午後をどう過ごそうかと考えた。勉強はもう飽きたし、バイトもしていない。今のところする必要がない。パパ活だけで生活費は足りている。
踵を返し、食堂へ向かう。近所のレストランの味には飽きてしまった。
構内にいる人たちはまばらだった。混みすぎず騒がしすぎずでちょうどいい。気づけば午後一時になろうとしていた。
メニュー表を見ながら、どれにしようか迷っていると「あの、もしかして古味山さん?」と男性の声がした。
「あぁ、やっぱり。俺のこと覚えてる? 演劇サークルで一緒の耳塚だけど」
どこにでもいそうな平凡な顔立ち。学ランを着れば中学生に見えるくらい垢抜けていない。そして、いつもシャツと黒のジーンズを着ている。サークル加入時、自己紹介をしていた姿と同じだ。
「覚えてるよ。確か名前は……耳塚くん」
「よかった、覚えていてくれて。あ、名字じゃなくて伊吹って呼んでよ。同期でしょ?」
「分かった。じゃあ伊吹で。私のことは嗣乃でいいよ」
話してみればフランクな感じで、結構良い人かもしれない、というのが第一印象だった。
「それにしても、偶然だね。こんな所で会うなんて。ご飯まだ食べてないならどう?」
「いいの? じゃあ遠慮なく」




