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受験勉強はそこそこに、地元の公立高校へ入学。偏差値は中の上で、ほとんどの生徒が大学へ進学する。卒業後は就職する気でいたが、元担任教師の強い勧めもあり受験することにした。進路に関して父からは「行きたければ好きにしろ」と放任され、新しい母親からは「いいんじゃない? 嗣乃ちゃん頭いいからね」と知ったようなことを言われた。そんな経済的余裕、ないくせに。
何にしても親には頼れない。大学へ入学するには、授業料を全額免除してもらえる特待生制度を狙うのみ。
最悪な家庭環境とは反面、高校生活は結構楽しかった。本来の自分を上手く隠すことにも慣れ、周りの環境のおかげで勉強も捗った。振り返れば人生で最も普通の女の子でいられた期間だったかもしれない。
のちの親友となる佐環との出会いもこの時だった。彼女はかつての同級生、マリアさんのようだった。美しくて頭が良くて、周りにはいつも友だちがいた。ただひとつ、マリアさんとの大きな違いは、佐環との友情はお金で繋がったものではないということ。
「古味山さん、人数足りないからバレーボールチームに入ってくれない?」
昼休み。図書館で本を読んでいた私に、佐環は困ったような表情をして声をかけてきた。毎年校内で行われているチームの振り分けについてだった。
「みんなバスケがいいみたいで……」
私は本を閉じ、差し出されたプリントを見る。「バスケ」と「バレー」のふたつの欄を見比べると、確かに「バレー」の方の空白が目立っていた。さらに「バスケ」にあった数名の名前が丸で囲まれ「バレー」へ矢印を引かれている。私は迷うことなく返答した。
「うん、バレーでいいよ」
「ホントに? ありがとう、助かったよ!」
「いいって。私、運動が大の苦手だから役に立たないと思うけど」
「大丈夫、誰も気にしないよ」
「そうかな……。うちのクラスって負けず嫌いっていうか、熱い人が多いような」
「あぁ、言われてみれば。文化部の人たちほとんどいないもんね。古味山さんは何か部活入っていたっけ?」
「ううん、どこにも入っていないよ」
「そっか……。あの、もしよかったら今度一緒にバレーの練習やらない? 嫌なら断ってくれて大丈夫! 少しでも楽しめた方がいいかなってだけで」
「私はいいけど、手柳さんは大丈夫なの? バレー部って毎日練習してるでしょ?」
「う、うん……。というか、言ったっけ? 私がバレー部に入っていること」
「なんとなく分かるよ。雰囲気とか、髪型とかでね」
私は短くカットされた彼女の髪を指差して言った。
「なるほど。それもそうだね」
彼女は笑いながら片手で頭を触った。バレー部員は全員、前髪は眉毛の上、後ろ髪は襟にかからないぐらい短く切るのが伝統だった。
「私、帰宅部でいつでも空いているから、学校に来た時にでも声かけてよ。まだスマートフォンとか持っていないからさ」
「オッケー! バレーやろうね、約束だよ」
「うん。約束」
私たちは指切りの代わりに掌を合わせた。私の手はとっくに汚れていて、佐環の手に触れてしまえば彼女を染めてしまいそうだった。だけどその手は、神秘のベールで守られているように美しくて温かかった。
佐環との特訓のかげで球技大会は充実したものになった。それだけではなく、彼女の影響でバレーボールに興味を持ち始め、生で試合を観てみたくなった。それを知った佐環は、「今度ウチの高校で練習試合やるから観においでよ」と言ってくれた。「弱いからつまらないと思うけどさ」と苦笑いを付け加えて。それでも他のことをしているより断然よかった。




