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主な登場人物
耳塚 伊吹…男性。勝矢と幼馴染。保守的な性格。
大鼻 勝矢…男性。伊吹と幼馴染。少し冷たい印象を持たれがち。
久目 颯…男性。壱歩と勝矢とは大学で再会した。野球をやっていた。
手柳 佐環…女性。嗣乃と仲が良い。努力家で真面目な性格。
古味山 嗣乃…女性。佐環と仲が良い。瞬間記憶能力を持っている。
——パパ活じゃなくて売春って言ってほしい。しかも未成年からやってたらしいじゃん……。気持ち悪い……。汚らわしい女。
——古味山って女、たいして美人じゃないのにパパ活でかなり儲けているらしい。人生イージーモード。
颯から裏切り者だと決めつけられ、見知らぬ人たちから汚れた頭の悪い女だと嗤われた。
「P市死亡ひき逃げ事件の真相」なるアカウントの投稿が、こんなに多くの人たちの関心を集めるとは。正直、暇な人たちだなと思った。わざわざ勤め先に嫌がらせの電話や荷物を寄越してきたり、賃貸だと言うのに部屋の鍵穴にボンドを詰めてきたり。
十年前のあの事件、私たちは「黙認すること」を約束し過ごしてきたはずだった。それなのに、私以外の誰かが口を割った。
避難先に選んだ場所は、海と工場夜景が見渡せる駅前のタワーマンション。今夜、この部屋の主と過ごすことになっている。彼は多数の不動産を所有する富豪。オトナを要求され、十二回目にして合鍵をもらった。そういった行為は苦ではなかったし、こうなってしまった以上、住民票の置いてある場所に住むことはできない。
ぬるい風を巻き込みながら、私の真横を高級車が走り抜けていく。十年前のあの日と季節は変わらないはずなのに、都会はやっぱり空気が悪い。人が多くて金もかかる。それでも、しがみついてでも都会で生きていくことを望んでいる。
細いヒールで大理石を踏む音がエントランス中に響いた。今のところ誰にも気づかれずにここまでこられた。あと少し。オートロックを解除してエレベーターに乗れさえすれば、というタイミングでオートロックドアが開いた。ひと組の親子がこちらへ歩いてくる。ペースを落としスマートフォンを操作した。たとえ声をかけられても無視をすればいい。相手は子どもを連れている。余計なことはしないはずだ。
マスクから荒い息が漏れる。すれ違う。母親が私の方を向いた。
「こんばんは」
「あ……どうも」
かけられたのは、ただのあいさつ。考え事をしていたせいで返事が遅れた。
親子は私の心配をよそに外へ出た。どうやら杞憂に終わったようだ。
あの子どもはきっと、俗に言う勝ち組だろう。所詮、人は産まれた家によって全てが決まる。私の人生、まったくイージーモードじゃなかった。
カツン、カツンと虚しい音を鳴らしながら再び歩き出し、鍵を開けた。自らの力だけで勝ち取った鍵。エレベーターに乗って最上階まで行けばしばらく安全に暮らせる。
インターフォンを鳴らすと、中年男性が笑顔で迎えた。
「お帰り、マリアちゃん。大変だったでしょう、早く入って」
細長い目に広い額、私と変わらない身長。何ひとつ惹かれるところがない。ヘアワックスの強い匂いで、鼻の奥がツンとした。
「あの、ありがとうございます。匿ってくれて……」
「いいんだよ。ネットで炎上してること、全く興味ないからさ」
リビングは、白を基調としたシンプルで洗練された家具が揃えられている。
「どうしたの? 座りなよ」
彼はソファーをポンと叩く。
「うん」
少し隙間を開け、座った。この革のひんやりとした質感が苦手だ。
彼は私のパパだ。もしくはパトロン、援助交際相手……。言い方は様々だが、マッチングアプリで知り合って以降、長期の太客となった。愛情や友情などない割り切った関係だから、煩わしい思いをせずラクに稼げる。私は彼から相当気に入られている。その証拠に、炎上騒動の真っただ中でも、ふたつ返事で引き入れてくれた。私が「マリア」ではなく、「古味山嗣乃」であることは承知の上で。
「半年もすれば忘れ去られるよ。大丈夫。それより、ずっとこっちにいてもいいんだよ? お手当もはずむしさ」




