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震える指で画面をスクロールする。「これ、私たちのことじゃない?」というメッセージとともに、ある画像が目に留まる。発信者は嗣乃だ。そこには、俺たち全員の顔写真が本名と共にSNSに投稿されているスクリーンショットが……。いや、それだけではない。消したはずのあの事故映像まで。
体中の毛穴から汗が吹き出す。コンクリートの壁が迫ってくるような錯覚を覚えながら、暴露元となっているSNSアカウントのプロフィール画面に飛んだ。
アカウント名は『P市死亡ひき逃げ事件の真相』。最初の投稿は今日の正午過ぎだった。
——十年前に起きたP市死亡ひき逃げ事件。未解決事件として風化しつつあるこの事件。あの時起きた出来事を、私たちは知っています。ひき逃げ犯の車や容疑者の声も聞いています。それなのに、当時の私たちは通報しないで見て見ぬフリをすることに決めました。その私たちとは、耳塚伊吹、大鼻勝矢、久目颯、手柳佐環、古味山嗣乃の五人です。
頭が真っ白になった。この文章を、俺たち以外の誰が書けるというのだ。
全ての投稿文をざっと読む。どの文章にも改行を入れておらず、句読点のみで淡々と綴られていた。
同時に、最も恐れていた事態に陥っていることにようやく気づいた。投稿に対して、五人に対する誹謗中傷のコメントがすごい勢いで増えていた。
——被害者が亡くなっているのに、加害者たちはのうのうと生きていることに憤りを感じる。犯人もそうだけど、時効まで黙っていた目撃者たちにも制裁が必要。
——私、耳塚って人にセクハラされた。よく覚えてる。この顔、一生忘れない。
——どこかで聞いたことあると思ったら、古味山嗣乃と同級生だった。当時から羽振りがよかったから、パパ活していても驚かない。気持ち悪い……汚らわしい女。
全身が怒りで震えた。事実でないことを好き勝手に書く奴らに、この上ない怒りと吐き気を覚えた。俺はセクハラなんてしていない。何の恨みがあってこんなことを……。
——みんな、とにかくどこかへ避難して! ホテルでもどこでも。自宅にいては危険だ!
勝矢からのメッセージを読んでスマートフォンを叩きつけたい衝動を何とか抑える。
そうだ、今するべきことは他にある。大急ぎでスーツケースを引っ張り出し、目に入る衣類を詰め込んでチャックを閉めた。
「もう……訳わかんねぇ」
マスクと帽子で最低限の変装をして勢いよく飛び出した。
知らない間に追いかけてきていた。埋めてきたはずの過去が、すぐそこに。
▽▲
十年間、同期の誰とも遊んでこなかった。定期的に集まると決めた日以外、顔も見なければ連絡もしていなかった。だから、それぞれがどういう時間を、どのように過ごしてきたかなんて知らない。ネズミが裏切りを決めたのは、よほど大きな何かが起こったからなのかもしれないし、良心の呵責に苛まれての結果なのかもしれない。
俺だって、能天気に過ごしてきたわけじゃない。ストレスからか、何を食べても苦みを感じてしまい、満足に食事が出来るようになったのは最近のことだ。だけど、それもまた逆戻り。
俺には裏切る理由なんてない。ただ平穏に暮らしたいだけだった。そのためには、見て見ぬフリをする必要があったんだ。




