第8話 隔離施設 ー 監視対象としての扱い
移送車のエンジン音が、南條の耳に重くまとわりついていた。
背に感じるシートは硬く、身体を預けても安らぎはない。
窓の外を流れる基地の景色は、どれも見慣れたはずなのに、
まるで別世界の風景のように感じられた。
(……どこへ連れて行かれるんだ)
隔離。
保護。
監視。
佐伯三佐の口から聞いた言葉は柔らかかったが、
その裏にある現実は鋼のように冷たい。
胸の奥で、白い光の残滓がふっと揺らめく。
耳の奥で響いた声――“選ばれた”。
そして自分の意思で動いたボールペン。
(……あれを誰かに見られたら終わりだ)
車が減速し、わずかな揺れのあと完全に止まった。
「南條二尉、到着しました」
無機質な声。
扉が開いた瞬間、湿度の低い冷気が肌を刺した。
外観は古びた研究棟――だが、配置された警備員の数、監視カメラの角度、電磁ロックの黒光りが“ここは普通ではない”ことを雄弁に物語っていた。
(……これが、隔離施設か)
中へ入ると、白い廊下がどこまでも続いていた。
壁は新しいのに、空気だけが何年も閉じ込められているような淀みを感じる。
照明は病院よりも一段青白く、足音だけがやけに鮮明に響いた。
「こちらへ」
案内された部屋は、ベッドと机、それに――ガラス越しの観察室。
二重防音らしく、扉が閉まった途端、外界の気配が完全に遮断された。
(完全に……“監視される前提”の部屋だな)
ガラスの向こうに白衣の男が姿を現した。
五十代前後、中肉中背、落ち着いた目元。
だがその瞳には、研究者特有の“何かを測る視線”があった。
「初めまして。私は横山といいます」
声は穏やかだが、温度がない。
人間というより現象を観察しているような声だった。
「しばらくの間、こちらで身体の状態を確認させていただきます。
撃墜時の状況が特殊でしたので、念のための観察です」
「……俺は、どれくらいここに?」
「現段階では未定です。ただ、あなたの安全が最優先です」
安全――その言葉が金属片のように胸の奥で引っかかる。
横山は淡々と書類を整え、軽く会釈して去っていった。
扉が閉まると同時に、部屋に静寂が落ちる。
その静寂は、まるで音そのものを吸い込むようだった。
(ここで……何をされるんだろうな)
答えはない。
ただひとつ確かなのは――
ここで異変を知られるわけにはいかない。
小さく息を吐くと、部屋の空気がわずかに震えたように感じた。
気のせいだと思いたかったが、胸の奥でざわつく感覚がそれを否定する。
◆
二日後の午後。
居室の扉をノックする音が響いた。
「南條二尉。移動の準備をお願いします」
警備隊員が二名。
その肩には緊張が張り付いていた。
「どこへ?」
「……上層部からの指示です」
嘘は言っていないが、真実も語らないタイプの声だった。
エレベーターで最上階へ。
扉が開いた瞬間、空気が変質する。
重く、厚く、情報と権力の匂いが漂っている。
廊下にはスーツ姿の男たちが並び、誰一人として南條を“パイロット”として見ていない。
ただの“特異事象の観測対象”を見る眼だ。
(……ここで、何が始まるんだ)
隊員が重々しい扉の前で立ち止まった。
「どうぞ」
扉が静かに開いた。
南條は一歩、足を踏み入れた。
自らの運命が、もう戻れない地点へ足を踏み入れたと理解しながら。
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