第7話 友の訪問 ー 親友はやっぱり味方
──コン。
医務室の扉が、控えめに叩かれた。
佐伯三佐から告げられた“隔離”の言葉が胸の奥に沈み込んだまま、
南條はわずかに身体をこわばらせた。
(……もう来たのか?)
夕方だと言われていたが、黒川なら時間を早めるくらい平然とやるだろう。
気配を読み取ろうと耳を澄ませるが、胸のざわめきが邪魔して判断がつかない。
息を吸ったそのとき――
「おーい……南條。起きてるか?」
聞き慣れた声だった。
「……三浦?」
カーテンがゆっくり開き、三浦二尉が顔を出した。
いつもより少しだけ疲れた顔をしていたが、南條を見ると一瞬で笑顔が戻る。
「よかった……本当に生きてたんだな」
その言葉が胸に刺さる。
怒りでも哀れみでもない、ただの“安堵”。
思わず目頭が熱くなるのを感じた。
三浦は椅子を引き寄せ、当然のように南條の隣へ座る。
距離も、空気も、昔と同じだ。
「見たんだぞ? お前の機体。白い光ん中で……一瞬で消えた。
あれは……マジで終わったと思った」
南條は息を呑んだ。
三浦は続ける。
「俺だけじゃない。基地のやつ全員だ。
なのにお前……なんで無傷で座ってんだよ」
責めているわけではなかった。
ただ、“理解できない現実”をどうにか言葉にしているだけ。
南條は視線を落とし、言葉を探したが……出てこなかった。
三浦はため息をつき、天井を見上げる。
「あー……悪い。喜ぶべきなんだけどよ、正直混乱してんだ。
正面からミサイル食らったやつが、こうして会話してるなんて
……どう考えてもおかしいだろ」
「……分かってる」
そう呟くと、胸がひどく痛んだ。
言えないことが増えすぎた。
三浦にだけは嘘をつきたくないのに。
南條の沈黙を見て、三浦は表情を柔らかくした。
「まあ……話したくねぇならいいよ。
こういうのは、話したくなる時に話しゃいい」
(……こいつは、本当に優しい)
無理に聞き出そうとしない。
それが逆に胸を締めつける。
しばらくして、南條がぽつりとつぶやいた。
「……すまん」
「何がだよ」
「分からないことだらけなんだ。俺にも」
三浦は目を細め、ゆるく笑った。
「なら、それでいい。分かんねぇことは“分かんねぇ”って言っとけ。
無理に答え出そうとすると、ろくなことにならねぇからな」
軽口のようでいて、芯がある。
南條の胸のこわばりが、少しだけ緩んだ。
沈黙。
蛍光灯の微かな唸りだけが天井に溶ける。
三浦がふっと言った。
「……俺、本気で泣いたんだぞ? お前が死んだって聞いた時」
「泣くなよ……」
「泣くわ、バーカ」
南條は苦笑した。
この数日で初めて息が軽くなった気がした。
(……言わなきゃな)
これから起きることを。
隔離措置のことを。
今日で三浦と普通に話せる時間が終わるかもしれないことを。
「三浦……実は、俺——」
──カチ。
医務室の扉の電子錠が作動する音がした。
二人同時に顔を向ける。
「……なんだ?」
三浦が眉をひそめる。
扉の向こうで、複数の足音が近づく。
硬い靴底が床を叩く音。
一定のリズム。
軍靴の音だ。
(……来た)
足音が止まる。
扉の前で、静かに呼吸を潜めている気配がする。
──コン、コン。
ノックは軽かった。
だが、その音が医務室の空気を完全に凍らせた。
三浦が不安げに南條を見る。
視線が揺れていた。
南條は、かろうじて頷く。
「……大丈夫だよ」
自分で言っておきながら、胸の奥は氷のように冷たかった。
扉がゆっくり開く。
運命が、静かにその入り口を見せた。




