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第77話 再設定 ー すべてが光に

次の瞬間

《しおなぎ》は正面から殴られた。


――ドンッ!


艇が、内側に押しつぶされる。

由理の体が前にたたきつけられた。

息が抜ける。


金属が悲鳴を上げる。

どこかが、はっきりと歪んだ。


間を置かず、横から衝撃。

船体がねじれる。

骨格が軋む。


――ドンッ!


さらに一撃。

回避が間に合わない。


《しおなぎ》が、全身で悲鳴を上げる。


キシッ。

キシッ。

キシッ。

その音だけがやけに鮮明だった。


誠の呼吸が浅くなる。

頭が重い。

敵の位置が掴み切れない。

世界が歪む。

海底と海中が重なり合う。

ノイズが広がる。


読み取る。

処理する。

追いつかない。

苦しい。


視界が白く削れていく。


(……無理だ……)


意識が沈み始める。

深海より深い場所へ。


ドンッ!!


今までで最大の衝撃。

艇全体が震えた。

金属があちこちで悲鳴を上げる。

嫌な音が船内へ響く。


「応力限界!」


由理が叫ぶ。


「次で圧壊します!」


その言葉が妙にはっきりと聞こえた。


高科は操縦桿を握ったまま動かない。

動かしても意味が無いことを理解している。


「南雲さん……」


それは、確認ではなかった。

祈りだった。


圧壊。

死。

その二文字が頭に浮かぶ。


誠は目を閉じた。

意識が沈む。


(……ここまで、か)


力が抜ける。

指先の感覚が消える。

音が遠くなる。

視界が暗くなる。


深海の闇ではない。

もっと深い、何もない場所。

沈んでいく。

すべてが遠くなる。


「誠さん!!」


声が響いた。


由理だった。


「誠さん!!」


もう一度。


強く。

切実に。

恐怖を押し殺した声。


震えている。

だが諦めていない。


「お願いです!」


声が届く。

沈みかけた意識を掴むように。


肩をつかまれる。


「戻ってきて、誠さん!」


暗闇の底で。

由理の声だけが鮮明だった。


「誠さん!!」


その呼び声が。

頭の奥へ流れ込んでくる。

沈み書けた意識が揺れる。


(……由理……)


暗闇の底に、

ほんのわずか、輪郭が戻る。

由理の声が、つなぎ止める。


そして。次の瞬間――


カチリ。

頭の中で、何かが噛み合う音がした。

小さな音だった。

だが確かに聞こえた。


歯車が噛み合うような。

鍵が外れるような。

そんな音だった。


世界が揺れる。

暗闇が崩れる。

混線していた情報がほどけていく。

痛みが消える。

ノイズが消える。

ばらばらだった情報が整列していく。

沈みかけていた意識が一気に浮かび上がる。


誠は目を開いた。

だが。

そこに闇はなかった。


海も。

艇も。

敵も。

すべてが光だった。


無数の線。

無数の輝き。

それらが複雑に絡み合いながら世界を形作っている。


応力。

構造。

流れ。


あらゆるものが見える。

今までとはまったく違う形で。


誠は息を呑んだ。


世界そのものが。

光となって見えていた。


お読みいただきありがとうございました。

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