表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
75/79

第75話 包囲網 ー 待ち伏せの2機も動き出す

水深五千二百メートル。


《しおなぎ》は深海の闇を降下し続けていた。

艇内に緊張が満ちている。


先ほどから続く敵の攻撃は明らかに本気だった。

追跡している二機。

それが自分たちを沈めるために送り込まれた敵であることは、もはや疑う余地がない。


誠は目を閉じて周囲を探った。

二つの反応が位置を変える。

一定の距離を保ちながら左右へ展開している。

まるで《しおなぎ》の動きを試すように。


「また来ます」


由理が緊張した声を上げた。


誠も同時に感じ取る。


次の瞬間だった。


「左!」


高科が即座に艇を滑らせる。


直後。

右舷側を猛烈な水流が通過した。

轟音が船体を震わせる。


「今のは近かったな」


高科が低く呟く。

その声こそ落ち着いていたが、余裕があるわけではない。


相手の攻撃精度は確実に上がっていた。

最初の一撃は牽制だった。

今のは違う。

当てにきている。


「外殻応力上昇」


由理がモニターを見つめる。


「まだ大丈夫です」


「まだ、か」


高科が苦笑する。

誠は再び反応を追った。

二機は数百メートル離れた位置から攻撃を繰り返している。

直接体当たりしてくるわけではない。

高圧水流で船体を損傷させ、行動能力を奪おうとしているのだ。

敵もこの深度の恐ろしさを理解している。

攻撃そのものよりも、水圧に仕事をさせるつもりなのだろう。

深海では小さな損傷が致命傷になる。


「来る」


誠が呟く。


「上昇」


高科が即座に操縦桿を動かした。

《しおなぎ》がわずかに姿勢を変える。


その瞬間。


艇の下を高圧水流が突き抜けた。

船体が持ち上げられるように揺れる。


「きゃっ!」


由理の悲鳴が漏れた。


「大丈夫か」


「は、はい」


答えたものの、声は強張っている。


誠は由理を見た。

顔色が少し悪い。

無理もない。

深海の圧力。

見えない敵。

そして閉ざされた空間。

彼女にとって最悪に近い状況だ。

それでも端末から目を離さない。


誠は小さく頷いた。

本当に強い人間だと思う。


だが、感心している余裕はなかった。

敵の攻撃はさらに激しさを増していく。


左右。

上下。


圧縮された海水の塊が次々と襲いかかる。

まるで巨大な見えない拳だった。


「右後方!」


誠が叫ぶ。

高科が回避する。


「左!」


再び回避。

水流が脇を通過する。

衝撃波だけで艇が震える。


誠は敵の動きを追い続けた。

追い続けているはずだった。


しかし。

頭の奥に違和感が走る。

嫌な感覚だった。

視界の奥が白くにじむ。

海中の情報と別の情報が重なってくる。


混線。

誠は無意識に眉をしかめた。


「誠さん?」


由理が気づく。


「なんでもない」


そう答えるが、自分でも分かっていた。

なんでもなくはない。

症状は少しずつ悪化している。

敵を追うことに神経を使うほど、頭の中の負担は増していく。

それでも今は止めるわけにはいかなかった。


深度はさらに深くなる。


五千四百。

五千五百。

五千六百。

海底が近づく。


その時だった。


誠の表情が変わる。


「高科さん」


「どうした」


「下が動き出した」


高科の表情も険しくなる。


誠の意識は海底方向へ向いていた。

ずっと動かなかった二つの反応。

それがわずかに変化している。

長い間沈黙を守っていた何かが目を覚ますように。


「何か変化があったの?」


由理が尋ねる。


「下が……」


誠はそれだけを言うと海底側へ意識を集中する。

違和感が大きくなる。

嫌な予感が確信へ変わり始める。


ここまで敵の行動は不自然だった。

二機だけで攻撃するにしては慎重すぎる。

まるで何かを待っているようだった。

そして今、その理由が見え始めていた。


追跡している二機は狩人ではない。

追い込み役だ。

獲物を決められた場所へ誘導するための。


「まさか……」


誠が呟く。


その瞬間、船体が激しく揺れた。


ドンッ!


今までで最も重い衝撃。


回避がわずかに遅れた。

艇内に警告音が鳴る。


「外殻応力上昇!」


由理が叫ぶ。


「一部に歪み発生!」


高科が歯を食いしばる。


「チッ」


誠は思わず舌打ちをした。

さっきの一撃。

以前ならもっと早く読めていたはずだ。

だが感覚が鈍っている。

敵を捉える線がわずかにぶれている。

混線が進んでいた。


その事実が頭痛と共に重くのしかかる。


だがさらに悪いことに、海底側の反応がはっきりと動き始めていた。

ゆっくりと。

しかし確実に。

こちらへ向かって。


由理が息を呑む。


「誠さん……」


「ああ」


誠は低く答えた。


もう間違いない。

あれは待機ではなかった。

待ち伏せだったのだ。

海底近くで息を潜め、《しおなぎ》が射程に入るのを待っていた。


そして今、その時が来た。

暗黒の海の底から二つの反応が浮かび上がる。

追跡していた二機と合わせて四つ。

誠の背筋に冷たいものが走った。


敵の包囲網が完成しようとしていた。


お読みいただきありがとうございました。

「続きが気になる!」「誠頑張れ!」と思ってくださった方は、ページ下部にある「ブックマーク登録」と「評価の☆☆☆☆☆」をポチッと押して応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ