↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
71/79

第71話 決裁 ー 潜航の決定

会議室の空気は張り詰めていた。


スピーカーから官邸の担当者の声が流れる。


『……お待たせしました。

 深海潜航について、官房長官の決裁が下りました』


高木が息を呑む。

誠は無意識に拳を握った。


『潜航を――許可します』


室内に、静かな安堵の息が広がった。


榊原室長が短く答える。


「ありがとうございます。

 ただちに準備に入ります」


通信が切れた。


三枝主任が誠たちを見渡す。


「……決まった。

 《しおなぎ》は本日中に出せる。

 南雲さん、高木さん、――準備を。

 高科君、よろしく頼む」


誠は深く息を吸った。


(行くしかない)


◆


ブリーフィングルーム。


三枝主任、榊原室長、白石医師、そして乗員3名が揃った。


榊原が資料を開く。


「まず、潜航中の護衛について説明する。

 昨日の外力――おそらくAUVによる接触だが、所属も目的も特定できていない。

 深海では“何かがいた”以上の情報は得られない」


高科が頷く。


「深海ではソナーも限定的です。

 AUVの種類や数を識別するのは難しい」


榊原は続けた。


「そこで、防衛省として潜水艦の派遣を検討した」


誠と高木が顔を上げる。


「しかし――今回は見送られた」


三枝主任が理由を問う。


「距離か?」


「それが一つだ。

 南鳥島は日本の潜水艦基地から最も遠い。

 出港準備を含めれば、到達まで最低二日はかかる」


高科が小さく息を呑む。


「……間に合わない」


「それだけではない」


榊原は資料をめくる。


「南鳥島周辺は水深六千。潜水艦の活動限界を大きく超えている。

 AUVのような小型目標を探知するのも難しい。

 護衛としての効果は期待できない」


誠は静かに理解した。


(……潜水艦を出しても、深海では役に立たない)


榊原はさらに言葉を重ねた。


「そしてもう一つの理由は――国際問題化のリスクだ。

 敵AUVの所属は特定できていない。

 この段階で潜水艦を派遣すれば、日本が軍事行動に踏み切ったと誤解されかねない」


高木が息を呑む。


「……だから、出せないんですね」


「そうだ。

 潜水艦は“出したくても出せない”というのが現実だ」


榊原は資料を閉じ、乗員三人を見た。


「だが、何もしないわけではない。

 《あまぎ》の警備体制は強化する。

 陸自の警備班を追加し、海自の護衛艦を外周に配置する。

 船上の安全は我々が責任を持つ」


誠は深く頷いた。


「……ありがとうございます」


三枝主任がまとめる。


「南雲さんたちは深海に集中してくれ。

 戻ってくる場所は、我々が守る」


◆


格納庫。


《しおなぎ》は最終点検を終え、静かに待っていた。

整備員たちが最後の締め付けを確認し、工具を片付けていく。


高科が誠に声をかける。


「生命維持系、通信系、姿勢制御……全部問題なし。

 深度六千、行けます」


誠は頷いた。


「頼む」


高木が端末を抱えて近づいてきた。


「誠さん。

 “線”の補助データ、全部まとめました。

 潜航中は私がモニターします」


誠は高木の目を見る。


「由理さん……本当に大丈夫か?」


高木は小さく笑った。


「怖いです。でも、覚悟は決めました。

 誠さんを一人で行かせるわけにはいきません」


誠は言葉を失い、ただ頷いた。


◆


午後四時。


《しおなぎ》のハッチが開き、内部のライトが白く灯る。


高科が先に乗り込み、操縦席に座る。


「二人とも、準備できてるか?」


誠は頷き、ハッチの縁に手をかけた。


高木が隣に立つ。

その手はわずかに震えていたが、目はまっすぐだった。


「誠さん……行きましょう」


誠は深海の“線”を感じようと目を閉じた。


(……揺れが強い。

 時間はない)


目を開け、言った。


「行こう」


二人は《しおなぎ》の内部へ足を踏み入れた。


ハッチがゆっくりと閉まり、金属音が格納庫に響く。


外では三枝主任と榊原室長、そして追加派遣された陸自の警備班が見守っていた。


榊原が静かに言う。


「――必ず戻ってこい」


格納庫の照明が落ち、潜水艇の外殻がわずかに振動する。


《しおなぎ》は、深海へ向かう準備を整えていた。


潜航開始は、次の瞬間に迫っている。



お読みいただきありがとうございました。

「続きが気になる!」「誠頑張れ!」と思ってくださった方は、ページ下部にある「ブックマーク登録」と「評価の☆☆☆☆☆」をポチッと押して応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。