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第63話 防衛省 ー 国家の悲願

 案内された会議室には、すでに数名が揃っていた。


JAMSTIKの三枝主任。

防衛省海洋安全保障室の榊原室長。

そして、官邸資源戦略担当の大隅審議官。


誠と高木が席に着くと、榊原が静かに口を開いた。


「南雲さん、高木さん。まずは沖縄での任務、お疲れさまでした」


誠は軽く頭を下げた。


榊原は資料をめくり、スクリーンに海底地形図を映す。


「今回の任務は――南鳥島沖の海底レアアース泥の採取です」


高木が息を呑む。


三枝主任が説明を引き継いだ。


「採取方法は、

JAMSTIKが開発した“ホース方式”です。

長大なホースの先端に、自走式吸引ユニット 《DS-01》が取り付けられています」


スクリーンに《DS-01》の図面が映し出される。


「《DS-01》はセンサーで海底を自律走行し、泥を吸引します。

ただし、海底は巻き上がった泥で視界が悪く、センサーが正常に働かない可能性が高い」


榊原が誠を見る。


「そこで、南雲さんの“誘導能力”が必要になります」


誠は静かに頷いた。


(……深海の“線”を読む力)


三枝主任が続ける。


「沖縄トラフに比べれば、環境変化は少なく、熱水噴出もありません。

深度は深いですが、南雲さんの負荷は沖縄より小さいと予想されます」


誠は資料を閉じ、短く息を吸った。


「……やってみます」


高木も小さく頷いた。


榊原は資料を切り替え、海域図を映した。


「次に、安全対策について説明します」


その声は、先ほどより明らかに引き締まっていた。


「深海作業は、どの国にとっても“狙われやすい”。

特定の敵を想定しているわけではありませんが、妨害の可能性は常にあります」


高木がわずかに姿勢を正す。


榊原は続けた。


「そこで、防衛省は以下の対策を講じます。

・海自の護衛艦を遠方に配置

・哨戒機P-1を常時展開

・情報本部による周辺海域の通信監視

・JAMSTIK側の安全プロトコル強化

・作業海域への不審船接近の早期警戒」


誠は驚いた。


(……ここまでやるのか)


榊原は誠の表情を読み取り、静かに言った。


「南鳥島のレアアースは、日本にとって極めて重要です。

あなた方を守るための措置でもあります」


高木が小さく息を吐いた。


「……ありがとうございます」


榊原は頷き、最後の資料を閉じた。


「技術説明は以上です。

このあと、官邸で田坂官房長官が面会を希望されています」


誠は姿勢を正した。


(……田坂長官が)


榊原は立ち上がり、二人に向かって言った。


「南雲さん、高木君。どうか頼みます」


誠は静かに答えた。


「はい」


会議室を出ると、冬の冷たい空気が廊下を流れていた。


次は――官邸だ。


◆


誠と高木は頷き、再び手を取り合った。


視界が白く跳ね、次の瞬間には――


官邸・応接室。


落ち着いた照明の下、重厚な机の向こうに田坂官房長官が座っていた。


誠と高木が入室すると、田坂は静かに立ち上がった。


「二人とも、よく来てくれた」


その声は穏やかだが、言葉の奥に確かな重さがあった。


誠は姿勢を正す。


「お久しぶりです、長官」


田坂は頷き、二人に着席を促した。


「防衛省から説明を受けたと思うが……

南鳥島沖での採取作業は、日本にとって極めて重要だ」


田坂は資料を閉じ、誠をまっすぐ見た。


「南鳥島のレアアースは、我が国が“資源国”へ転じる唯一の可能性だ。

これは、十年以上かけて積み上げてきた国家の悲願だよ」


高木がわずかに息を呑む。


誠は黙って聞いていた。


田坂は続けた。


「もちろん、危険がないとは言わない。

深海作業は常に“狙われやすい”。

だからこそ、防衛省はすでに動いている。

護衛艦、哨戒機、情報本部の監視網……できる限りの対策は講じた」


誠は小さく頷いた。


(……本気だ)


田坂は、ほんの一瞬だけ表情を緩めた。


「南雲くん。いつも君に頼ることになってしまう。だが――どうしても君の力が必要だ」


誠はゆっくりと息を吸い、言った。


「……大丈夫です。やります」


田坂は深く頷いた。


「ありがとう。そう言ってくれると信じていた」


面会は短かった。


田坂は席を立ち、誠の肩に軽く手を置いた。


「無理はするな。必ず戻ってきなさい」


誠は静かに答えた。


「はい」


高木も深く頭を下げる。


「南雲さんを支えます」


田坂は二人を見て、穏やかに微笑んだ。


「頼んだ」


官邸を出ると、冬の空気が頬を刺した。


誠は深く息を吸い、高木と並んで歩き出す。


(……南鳥島へ)


国家の悲願と、深海の静寂が、遠くで重なっていく気がした。


お読みいただきありがとうございました。

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