第46話 薄皮一枚の突破 ー 初めての成功
夜明け前の空気には、
冬の芯がまだ残っていた。
地下通路を歩くたび、
靴底から微かな振動が伝わる。
南雲誠は高木由理と並んで、
封鎖区画の最奥へ向かった。
今日の任務は――
A-3層の表層パッチの選択抽出だった。
厚さ一〜二センチ、範囲はハガキほど。
この部分を除去できれば、
作業員の近接時間が大幅に伸びる可能性があった。
香月技官がホログラムを投影する。
デブリの三次元モデルに赤い枠が浮かんだ。
「A-3層・表面一〜二センチの“偏在帯”です。
ここを薄く剥がせれば、
線量が大きく下がります。
ただし今日は“局所だけ”。
無理のない範囲で行います」
遮蔽扉が開く。
奥には巨大な黒い塊――
ガラス質と金属と残渣が癒着した“デブリ”が固定されていた。
現地責任者が続ける。
「ここを薄皮一枚だけ取れれば……
作業時間を三倍にできます」
南雲は遮蔽ガラスに向き合い、指先を一センチ浮かせた。
「やってみます」
視界が静かに滲み、
内部の“密度の揺らぎ”が浮かび上がる。
重さの違う層が、薄い紐のように重なり合っている。
(……今日は、境界が“細い線”として見える)
高木が端末を構え、短く告げた。
「負荷は六割手前まで。
手が冷たくなったら止めます。
三回までです。
深い層には絶対に触れないでください」
「了解」
南雲は一点を選ぶ。
今日は“粒”ではない。
ハガキ大の面を薄く“剥がす”イメージだ。
(押さない。引かない。……ただ境界を分ける)
指先の周囲の空気が、ピンと張り詰めた。
計測器が一瞬だけ反応した。
遮蔽ガラスの向こうで、黒い表層が、薄く“消えた”。
背後の専用容器の中で、
金属質の薄い板が音もなく現れた。
厚さ一〜二センチ、ハガキ大。
黒い皮膜と微細な金属片を纏った“パッチ”。
現場が一瞬、息を止める。
「……確かに、
表面が“剥がれている”……!」
「線量……どうだ?」
放管リーダーの計測器が値を更新した。
「A-3局所線量、開始前の1/10まで低下!」
「こんな薄皮だけで……!?
いや、“そこがホットパッチ”だったってことか……!」
南雲は息を整え、額の汗を拭う。
「……まだいける。二回目、行く」
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