第45話 沈んだ層の正体 ー うすく剥がせばいい
廊下を戻る途中、
高木由理が歩調を合わせて言った。
「さっきの密度が高い層、読めていましたね」
「ああ。でも、あれ……
ずっと触れてると引きずられる感じがした」
「でしょうね。目の焦点がわずかにずれました。
あれが長く続くと、
今日は帰れなかったかもしれなかったですよ」
「そんなにか」
「なりますよ。深さが違いすぎます。
……でも、動き自体は安定してました」
南雲は息を吐いた。
「明日は、ほんの表層だけ剥がすんだよな」
「はい。境界をなぞってうすく剥がすだけです。
ざっくり取るわけじゃありません」
「なるべく軽く、だな」
「そう。誠さんが“肩を上げた瞬間”が止め時です」
施設を出ると、冷たい風が頬を撫でた。
胸の奥にわずかな疲労が残っていたが、
“負荷”なのか“緊張”なのか、判断がつかなかった。
香月が車両の準備を確認しながら、
ふと付け加えるように言った。
「外部の動きが増えています。
海域で不明な調査船の活動が確認されています」
「海?」
「詳細は不明ですが、
特定国の関連船舶が増えています。
――以前から動いている組織の関連と思われます」
名を出さないまま、
世界の影が廃炉の片隅まで伸びてきていることを示すようだった。
(……明日が本番か)
南雲は裏門を振り返り、拳を軽く握る。
長く封じられていた扉の向こうに、
一歩だけ踏み出す。
たった一枚の薄い皮膜を読むだけの作業。
しかし、その一歩が国の未来の工程を動かすかもしれない。
夜の風は弱く、施設付近は静かだった。
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