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第44話 “読むだけ”の初日 ー 拾うならこのあたり

 夜明け前。

車列は施設の裏門から静かに入り、

人気のないサービス通路を抜けて

地下の封鎖区画へ降りていった。


同行は五名。

必要最小限だけが選ばれている。

余計な視線を遮るためでもあった。


最奥の遮蔽ガラスの向こうは、

音がほとんど反響しない静かな空間だった。


高木由理が端末を操作しながら言う。


「今日は“読むだけ”ですよ。深追いはしません」


声はいつも通りだが、

どこか柔らかく抑えた響きがあった。


「読み始めて、眉間にしわが寄ったらすぐ引き戻す。

昨日と同じ基準です」


「そんなに顔に出てるか?」


「出ます。

負荷は、顔が一番わかりやすい」


香月技官が補足する。


「負担が出始めたら即中止。

触れなくていい。

今日は輪郭を“確認するだけ”です」


現地責任者が確認事項を読み上げる。


「抽出量はゼロ。

周囲への影響ゼロ。

異常時は即時中断です」


短い言葉が続くほど、この作業の繊細さが浮き彫りになる。


南雲は遮蔽ガラスの前に立ち、指先を一センチ浮かせた。


深く息を整え、意識を“向こう側”へ滑らせる。


(……あるな。反応が強い。訓練より、密度が高い)


層の密度が不均一で深い部分ほど反応が強くなる。

金属でも土砂でもない、渦のような密度の沈み。

輪郭はにじみ、触れれば崩れ、手を離せばぼやける。


高木が端末に目を落として言った。


「呼吸、安定。目も泳いでいない。

今のところ問題なし」


その言葉だけで十分だった。

余計な数字より、彼女の判断のほうが正確だ。


南雲はもう少しだけ深い層へ意識を伸ばす。


沈んだ層と浅い層の混じり方。

訓練の模擬体より複雑で、

どこか“無理に凍らされたような”硬さがある。


(拾うなら……この辺りだ)


「今日はここまで」


高木の声が、張り詰めた糸を優しく切った。


南雲は静かに意識を戻す。

汗はないが、呼吸がわずかに速い。


香月がログを確認し、短く言う。


「負担、軽度。初日の素読みとしては上々です」


現地責任者がふっと息を吐いた。


「……ありがとうございました。

明朝、同じ編成で入ります」


お読みいただきありがとうございました。

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