第33話 都市鉱山小規模任務 ー 成功と負荷
リサイクルセンターは、始業前の静寂に沈んでいた。
普段は機械の唸りが満ちる処理フロアも、
今日は“設備点検”と称して封鎖され、
冷たさすら感じるほどの静けさが広がっている。
南雲と高木は安藤に案内され、
奥の作業スペースへと足を踏み入れた。
「ここが本日の作業場所です」
安藤は短く説明すると、作業台に並ぶ基板やモーター残骸を一瞥した。
高木が南雲の横を歩きながら、小さな声で尋ねる。
「体調は……?」
「問題ないよ」
そう答えながら、南雲は胸のどこかに微かなざわつきを感じていた。
(試験じゃない。本当に“運用”する日が来たんだ……)
高木がタブレットを構える。
「では……基板から“金属だけ”取り出してください」
南雲は深呼吸して基板に意識を向けた。
密度の違い、硬さの点。金属だけが浮かび上がってくる感覚。
(来い)
空気がわずかに震え、金属端子だけが机の上へ落ちた。
「……成功です」
高木が肩の力をわずかに抜いた。
安藤も頷く。
続いて、モーターの残骸が置かれた。
内部には細い銅線が複雑に絡み合っている。
「銅線だけを取り出せますか?」
南雲は意識を沈めた。
その瞬間、世界の輪郭が一瞬だけ“揺れた”。
(え……?)
しかし反射的に操作を続けた。
銅線が“するり”と抜け出し、机上に現れた。
「……銅線だけ……!」
高木が驚きの声を漏らす。
(成功……した。でも、今の揺れは……?)
胸の奥に、かすかな恐怖が残った。
安藤が、最後のケースを前に置いた。
基板、ガラス片、プラスチック、金属――
雑多な廃材が混ざり合っている。
「ここから“金属だけ”を抽出してください。無理なら中止します」
高木が焦り気味に言う。
「これは負荷が大きいです。絶対に無理は……」
「大丈夫だよ」
南雲は微笑んだ。
今は自分でも、どこまで行けるのか知りたかった。
意識を沈める。
混ざり合う点、点、点。複雑な感触が脳に重くのしかかる。
(行ける……はずだ)
(――来い)
空気が震え、金属部品だけが作業台に“ざらり”と盛り上がった。
「……全部金属です……!」
高木は目を見開き、安藤も記録を確認しながら大きく息を吐いた。
「本日の作業はこれで終了です。十分以上に成果が出ています」
南雲は安堵のため息をついた。
その瞬間――
「……っ」
視界が大きく揺れた。
床の線が波打ち、足元が沈むような恐怖が突き刺さる。
「南雲さんッ!?」
高木が鋭い声を上げ、強く腕を掴んだ。
普段の冷静さが一気に跳ね飛んだ、切迫した声だった。
「もうダメです! 座って、動かないで!」
声が震えている。
こんな高木を見るのは初めてだった。
「……大丈夫。ただ……少し落ちるような感覚が……」
「それが危ないんです!」
高木の目には、恐怖すら浮かんでいた。
安藤が状況を確認しながら低く言う。
「今日の負荷は予想より大きかったようです。
すぐ休ませましょう」
スマホが震え、安藤が確認する。
「……大臣室と経産省の一部が騒がしいようです。
“前倒しできるのでは”と意見が出ているようで」
「前倒し……?」
「今日の成果で、複数の部署が新たな予算ラインを動かそうとしているようです。
まだ正式ではありませんが……影響は出始めています」
南雲は息を飲んだ。
(こんな小さな任務の成功で……もう、国が揺れ始める……?)
高木は南雲の肩を支えながら、安藤に短く言った。
「今日は撤収します。南雲さん、歩けますか?」
「……うん」
声に力がなかった。
外に出た瞬間、冷たい空気が頬に触れた。
成功の高揚はまだ胸に残っている。
だが、視界の揺れの恐怖が、それを静かに侵食していく。
(今日の成功……本当に喜んでいいものなのか?)
答えは出なかった。
ただ胸の奥で、何か小さな音が軋んでいるような気がした。
(これが……始まりなんだ)
南雲はその微かな震えを抱えたまま、車へ向かって歩き出した。
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