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第25話 揺らぎの兆し ー 外国からの探り

 曇り空の光は弱く、研究室を照らす蛍光灯がやけに白く感じられた。

外の世界がぼんやりと遠く思えるほど、地下の空気は静まり返っている。


南雲誠はノートを開き、昨日の検証結果を書き込んでいた。


――森のどんぐりが、一瞬で集まった。

――自然物でも、形そのものでも、距離でも関係なく。


思い返すほど、現実味を失う。

だが確かに“自分が起こした現象”だった。


(……室内じゃなく、外でも正確に集められた。

これは、もう実験の枠を超えている……)


隣の机では、高木由理がタブレットを操作していた。

いつもの冷静さはそのままだが、画面を見つめる視線はどこか強張っている。

その指がふと止まった。


「……あれ?」


高木が微かに息をのむ。


「どうかしました?」


南雲が顔を上げると、高木は目を細めたままタブレットを向けてきた。


「少し……気になる投稿があって」


画面には、ミズナラの森。

その中央に――**不自然な“どんぐりの山”**が写っていた。


投稿者は大学の学生らしい。

コメントはただ一言。


『森で変な現象を見た。誰か知ってる?』


南雲の背筋が冷たくなる。


「……見られていたんですか」


「……写真の場所は、おそらく昨日の地点です」


由理の声には、今までにない緊張が滲んでいた。


「まだ大きな拡散ではありません。でも……」


「でも?」


高木は口をつぐみ、タブレットを操作する。


「海外からのアクセスが……異様に多いんです。

通常の学生投稿では起こりえない数です」


南雲は息が詰まる感覚に襲われた。


(……海外?

どうして “昨日の投稿” に……?)


その時、研究室の扉が開き、山本教授が入ってきた。


「お、二人ともいたか。情報センターの知り合いから聞いたんだがな……」


教授はスマホを見せる。


「大学のサーバーに、“調査じみたアクセス”が増えているらしい。

しかも、海外からだ」


南雲と高木は同時に表情を固くした。


「……調査、ですか?」


高木が問う。


「うむ。学生の閲覧じゃない。専門ツールを使ってる形跡があるそうだ」


南雲は喉が乾くのを感じた。


(……誰かが探っている?

森の現象を、“何か”が嗅ぎつけた?)


高木はすぐにスマホを取り出し、連絡を入れた。


「はい、高木です。

大学内で不審なアクセスが確認されました。

ええ……まだわずかな異常値ですけど」


短い通話の後、由理は深く息を吐いた。


「南雲さん……これは、用心が必要ですね」


南雲は唇を噛んだ。


「俺のせいですよね……」


「いえ、私の注意が足りませんでした。

能力の成長は必要なプロセスです。

でも……今後は外での検証を、もっと慎重に行わないといけませんね」


山本教授も腕を組み、真剣な声で言う。


「君の力は、もう“研究室のお遊び”では済まない。

もし外に漏れれば……扱いを間違える者も出る」


南雲は小さく頷いた。


(……誰かが見ている。

しかも、日本の外にいる“誰か”が)


研究室の窓の外で、突然強い風が吹き、ミズナラの枝がざわりと揺れた。

まるで森そのものが、

“始まったぞ”

と告げているかのように。


外の世界が動き始めた。

まだ静かに、しかし確実に。


お読みいただきありがとうございました。

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