第24話 盛り上がった地面 ー 最初の漏洩
大学の裏手に広がるミズナラの森は、
朝の気配とともに淡い湿り気を帯びていた。
シジュウカラの小さな鳴き声が、静けさの幕をほんの少し揺らす。
南雲誠と高木由理は、森の中にいた。
高木が周囲を見渡し、低い声で言う。
「……ここなら、視界に入る人はいません。
南雲さん、今日は“範囲”を意識してみましょう」
「範囲……?」
「はい。
この地点を中心に“半径10m以内のどんぐりを全部”
――ひとつに集めてください」
南雲は散らばるどんぐりを見つめた。
地面の緩やかな起伏、落ち葉の層、その下の湿った土。
集中するにつれ、森の空気そのものが鮮明に感じられる。
(……半径10m。
円全体の中の、全部)
意識を広げると、どんぐりがそれぞれ“存在の点”として浮かび上がる。
“ひとつひとつ”ではなく、“ひとまとまりの集合体”として。
(……集まれ)
次の瞬間――
森の地面からどんぐりが一斉に消えた。
そして――自分の足元に、大きな山となって現れた。
高木が息を呑んだ。
「……範囲指定でも……成功です」
南雲は足元の山を見つめる。
自然すぎる山の形。
(……本当に外でもできたんだ)
そのとき――
南雲は気づかなかった。
少し離れた場所の、大学図書館 二階の窓で
一人の女子学生が双眼鏡を覗いていたことに。
◆
葛城結衣は、今日もお気に入りの席に座り、鳥の観察をしていた。
シジュウカラの姿を追っていた双眼鏡の視界の端に――
ふと、不自然な動きが映った。
(……ん?)
双眼鏡をそちらに向けた瞬間。
地面が“盛り上がった”。
まるで地中から何か巨大なものが突き上げたように。
同時に、散らばっていたはずの地面の模様が――
一瞬で、まるで違う姿に変わった。
(……え?)
双眼鏡を下ろしても、すでに何も起きていない。
だが、確かに“変化”を見た。
胸がざわつく。
「……行ってみよう」
気づけば、結衣は席を立っていた。
パンプスが向かない場所だとは分かっていたが、
引き返す気にはなれなかった。
森に足を踏み入れるたび、
落ち葉にかかとが沈み、スカートの裾が枝に引っかかる。
「もう……なんでこんな格好で……」
嘆きながらも、結衣は歩みを止めなかった。
そして――森の奥で、彼女は見た。
どんぐりが、小さな山となって積まれている光景を。
「……なに、これ……」
どんぐりの山は、不自然なほど綺麗な形をしていた。
自然現象とは到底思えない。
震える手でスマホを取り出し、シャッターを切る。
(……これ……誰かに見せたほうがいい……?)
指がSNSのアイコンに触れた。
「……投稿、しちゃおう」
その瞬間――
国家機密の最初の“漏洩”が始まった。
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