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白み始めた神話たち  作者: gcoma
3/27

ミラトス大陸 第1審臨

3話目になります。


ミラトスはどんな未来を描いていたのか。

なにがしたいのか。

応える声は、まだ遠い──。

 魔物の巣窟に入り込んでおいて、討伐もせずに迷ったなど、世迷言にもほどがある。

 本来なら青年にたどりつく前に、こどもは青年の言う、おしゃべりな奴に出くわしているはずだった。

 おしゃべりな奴が第1審臨に近づく存在を許したことはこれまでなかった。

 こどもの存在を意図的に見逃したとしか考えられない。

 青年はおしゃべりな奴に真意を問うつもりはない。

 面倒くさいからだ。

「迷ったのならわかっているだろうが、ここはミラトスの第1審臨だ」 

 広大な大陸を創った神の名はミラトス。

 古くからそう言われている。

 ミラトスを見たものはいないが、古からミラトス大陸と呼ばれていた。

 ミラトス大陸には第1から第12にまで分布している審臨と呼ばれる魔物たちの棲家がある。

 数が小さいほど強い魔物が生息している。

 出現場所に法則はない。

 決まった時間や位置に同じ審臨が明日もあるとはかぎらない。

 審臨はミラトスの意志を受け継いでいる。

 ミラトスが創りだした次元の中を漂い、大陸のどこかに出現する。

 審臨が大陸に現れない日や月もある。

 年単位で姿を現さないこともある。

 大聖堂は審臨の全容把握を解明する調査機関でもあった。

 調査をしながら害ある魔物を狩ることが大聖堂の役割だといって構わない。

 中には消滅した審臨もある。

 青年が把握し、大聖堂が確認しているだけでも数千の審臨が姿を消していた。

 現在残っているのが、第1審臨から第12審臨までという話だ。  

 ミラトスとは大陸全土を指し、審には審判の意味が、臨には神を称える意味が含まれている。

 お前たちはどこにいても神に監視されている、手の届く場所に閉じこめられているのだと大聖堂は主張する。

 本当か。

 偽りか。

 真相をしっているのは、巨大な大陸を創造したミラトスだけだ。

 審臨を創造している間、ミラトスがなにを考えていたのか。

 どんな未来を描いていたのか。

 無から有の大地を創造する際に抱いていたのは希望か。

絶望を形にしたのか。

 ミラトス大陸には、ミラトスのほかにも複数の神がいた痕跡が残されていた。

 彼らはどこに消えたのか。

 ミラトス大陸を見捨てたにしては、神が使っていた能力の欠片が多すぎる。

 消滅したと仮定するなら、欠片も消えるはずだ。

 ミラトスは人と、神が去った後に生まれる魔物が住む場所を意図的に決めたのではないか。そんなことをしてまで、ミラトスがいた時代の魔物を生かしている理由はなにか。

 ──ミラトス。お前はなにがしたい。

 珠人は神が使っていた能力を色濃く継いでいる。

 神が創り、神がいた証として珠人は大聖堂に仕える。

 大聖堂は青年が目を開けたときにはすでにあった。

 大聖堂がミラトス大陸の中央に位置するかぎり、審臨は使聖の管理下にある。

 ──本当にミラトスはこの大陸から消えたのか? 魔物が生まれる前から審臨を創っていたのなら、なぜ魔物が現れるとわかった? 消滅ではなく封じると決めた理由はなんだ? 人に害をなすなら、神は容赦なく消滅を選択するはずだ。

 ミラトスの真意は探れない。

 ──ミラトスは消えてはいない。

 青年は漠然と信じていた。

 感じていた。

 魔物であるはずなのに神の生を信じていた。

 ミラトスのやっていることには矛盾が多すぎる。

 ──ミラトスは、なにかを人に伝えたいのではないか? 人を守るために審臨があるのなら、おかしな話だ。

 青年は考えを口にしない。

 神を擁護するなど魔物にあらず。

 魔物は人ではない。

 魔物を審臨に封じた、閉じ込めた神。

 それがミラトスでいいではないか。

 そのはずなのに青年は納得できずにいた。

 口にはできない。

 審臨を創りあげたミラトスについての議論など不要だ。

 魔物にとってミラトスは許されない神だ。

 ──ミラトスは審臨を創り、魔物が棲んでいるとわかりやすく人に警告をした。低級の魔物は大聖堂で討伐可能だ。審臨外の魔物は、多少の力を得て知性を得ても理性に乏しい。ひたすら人を憎み、人を嫌っている。

 第1審臨に棲まう青年は、小さな数に棲まう第12審臨から第3審臨までの魔物と出会ったことがなかった。

 第2審臨に棲むおしゃべりな奴は、第1審臨に棲む青年の見張り役だ。離れろと言っても相手が言うことを聞いた試しはない。すっかり見なれた顔になってしまった。

 第12審臨から第3審臨に棲まう魔物は、なぜか息を潜めている。審臨の外に出ることはない。

 審臨内の魔物はミラトスの意志で動かないのではないかと、青年はどうしても考えてしまう。

 ミラトスについて考えると、空洞の臓器がなぜ痛むのか。

 人がもつ心のように喜怒哀楽に反応をする空っぽの場所の意味は、

 ──そんなものは、もちあわせていない。

「教えてくれてありがとう」

 こどもの声に、長い年月をかけて探している答えが散らばる。

 深く沈みかけた意識が浮上した。

 頭をさげて、こどもは青年に感謝を告げた。

 第1審臨だと確信していながら教えられたら素直に礼を言う。こどもの教育が行き届いていることから、導き出されるのは大聖堂内において上位の使聖ということだ。

 第1審臨には酸素がない。

 立ち入った時点で酸素の供給は途絶える。

 慌てて引き返そうとしても入口は見あたらない。

 倒れた後は第1審臨の糧となる。

 こどもが酸欠になることはない。

 意識が混濁することもない。

 毒素にまみれた淀んだ大地に立ち腐敗することもない。

 ──強力な医治の加護だ。

 癒しや治癒とも呼ばれる希少な能力が、こどもに気づかれないように幾重にもかけられていた。

 制限のない、最高峰の癒しの能力だ。

 ──守るためにしては大げさすぎる。

 無理やり大聖堂にやってきたのなら到底考えられないことだ。加護がなくとも、こどもは第1審臨を平気で突破するだろう。

 ──珠人の使命にしては、いささかやりすぎではないか? 名も顔も性別も年齢も、なに1つ関係なく珠人は仕えなければならない哀れな一族だと聞いていたが。

 村がそれほど大切なのか。

 別の理由があるのか。

 青年には判断がつかない。

 一族が住む村の安穏を保証してきたのは大聖堂だ。大聖堂が珠人にある者を命をかけて護れと命じるだけで珠人は見知らぬ相手に生涯を誓う。

 相性など大聖堂には関係ない。

 たった1人を護れなければ村は滅び、一族は絶える。

 村の存亡を、平穏を護るための贄。

 そのはずだった。

 こどもにかけられている加護は、

 ──珠人の呪だ。それにしても。

 誰にもわたさない。

 誰であれ害なす存在は許さない。

 放たれる殺気は言葉より雄弁だ。

 珠人がこどもを気に入っている。

 命令などではない。

 自らの意志だ。

 青年は珠人の存在はしっていても顔をあわせたことがない。

 珠人がなにを考えてこどもに接しているのか。

 青年はしっている気がした。

 ──なぜだ?

 青年のしらない空洞にあるべきはずの感情を、珠人はこどもに向けていた。

 ──おれがもっていたはずだ。

 頑丈な牙を噛みしめる。

 わからない。

 わからないなら放っておけばいい。

 それなのに、

「お前、よく平気だな」

 青年は立ち上がり、こどもを見下ろした。

 珠人はこどもの側にいることを誓い、こどもも側を離れないと誓っている。

 ──契約を結んでいる。頑丈で幾重にもかけられた呪は珠人が願わなければ成立しないはずだ。

 年齢や性別など関係ない。

 こどもの澄んだ魂には珠人の誠実な言霊が捧げられていた。

「そんなに訝しまなくても武器とかもってないよ。武器があってもきみには無意味だろうけどね」

 こどもが笑う。

 青年が不機嫌であるとこどもは信じていた。

 考え事をしていただけだと否定をしたくとも、青年はこんなとき、どうしたらいいのか、なにを言えばよいのか学んでいない。

(こんな奴、初めてだ)

 こどもが使聖であることを忘れそうになる。

 命乞いをするのかと思いきや、物怖じせずに話しかけてくる。近づいてきた理由が、陽射しなどなくても生きていける魔物に対して、人の世で大切な光に例えた言葉だった。

 陽が昇れば人は活発に動き、陽が沈むと大概のものは眠りにつく。

 朝も昼も、夕方も夜も、日にちさえ審臨の中では無縁だ。常に薄暗く、魔物同士が互いを蹴落とそうと審臨外の魔物は争う。争いとは無縁な第1審臨には青年以外の魔物は棲めない。

 青年より実力が下であるなら、せめて第1審臨の側にと考え近づこうとする審臨外の魔物は消滅する。

 存在することを許さない。

 第2審臨に棲む魔物が目をひからせていた。

「第1審臨は方位はおろか、奥に進めば進むほど感覚がなくなる魔の領域だぞ」

 青年は、形ばかりの警告をする。

「大体の方角ならわかるよ。大丈夫、ここまできたんだから、帰りも平気だよ」

「簡単に言ってくれるな」

 異空間と繋がっていようが、時空や平衡感覚が不明になろうとも、第1審臨からの脱出を平気だと一蹴したこどもの言い分は正しい。

 強者に次元の狭間や異界に歪む空間が心身に干渉をしたところで、あちら側が弾かれる。

 強いものだけが認められるのが審臨の掟ではない。

 ミラトスが第1審臨にかけた結界、呪は、青年が侵入を許可した者が立ち入れるような仕掛けになっていた。青年はそのことをしらない。しっているのは──もう1人の魔物だけだ。

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