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白み始めた神話たち  作者: gcoma
23/25

伝わらない想い 推察する想い

23話になります。


どれほど愛しいと伝えても、あなたは信じない。信じてはくれない。

只人があなたに消えない呪いをうえつけた。


見えない臓器【心】からあふれだす血の量は増えるばかりで。

見えないから、止血もさせてもらえない。


後何万回、あなたを愛しいと伝えたら、あなたは本気にしてくれるのでしょうか──。

「はい、こちらをどうぞ」

 あきらかに1人分ではない量の弁当を前に、ラナは固まった。

「あの、ティア」

「なんでしょうか?」

「お弁当ありがとう」

「あなたのためならわたしはなんだってしますよ」

 ──料理長、びっくりしただろうなあ。

 食堂の奥には大聖堂専任の料理長や調理する者が何百人もいる。24時間6交代で、彼らは大聖堂の食事を担い、誇りをもって働いていた。

 これからラナが行く場所をティアルは理解したうえで弁当をもたせた。

「料理長、驚かなかった?」

 つい、ラナは訊ねてしまった。

「驚いていましたが、ラナのために料理をしたいのでと言えば、第5調理室を快く借してくださいました」

 見られたくなかったですしね、とティアルは付け加える。

 調理する部屋は全部で60部屋ある。大聖堂の使聖や使聖徒の人数を考えると足りないくらいだ。

第5調理室は日差しがよく入るため、室内は他よりも温かいのだとなぜかロシュタムが自慢していた。冷凍保存方法は確立されており、食品の鮮度が失われることもない。

 ロシュタムは誰とでも直ぐに打ち解ける。

 ラナは人懐っこくてあかるいロシュタムのまわりに人が集まる様子を見ることが好きだった。

「ラナ、感想を聞かせてくださいね」

 ティアルが作り、味の感想を求める。

 つまり──牽制だ。

「正門はやはり苦手ですか?」

「ごめんなさい」

「彼らの配置をかえましょうか?」

「大丈夫だよ! ぼくが勝手に苦手なだけだから、ティアやロシュタムには優しいし」

「ラナから以外の好意は不要です」

「みんなティアルが大好きだよ。美人で優しくて強くて、気高くて」

「わかりました、わかりましたから、もう」

 ティアルを褒めちぎるラナの前で、片手を広げる。顔を横に向けて「本当にこの子は」とつぶやくティアルに、ラナはまた謝りそうになり、急いで口を噤んだ。

 ──それにしても、あいかわらず鬱蒼としていますね。

 先回りと言えばいい。

 大方の見当はついていた。

 ラナは東西南北にあるどの門も使用しない。

 先日の帰宅時がいい見本だ。

 今日は散歩と同様に、私的な用事で大聖堂からでることになる。

 大聖堂の門扉には門番がいる。

 ラティナ、ティアル、ロシュタムの3使聖は外出制限はされていない。帰る時間も自由だ。

 魔物と遭遇しても1人で対処できる。

 大聖堂に必ず戻ってくる。

 大聖堂側の信頼がある。

 ラナは門番が苦手なために正門を滅多に使わない。魔物討伐の命がくだったさいに使うくらいで頻度も少ない。

 門番の忠誠心は素晴らしいが、ときおり混じる嫉妬や畏怖の視線を、ラナは好きになれなかった。

「ラナ、背中を向けて」

「こう?」

「両手をあげてください」

「こ、こうかな?」

「少し待ってくださいね」

 ティアルは弁当の入った布をラナの肩から斜めにまきつけた。

「はい、いいですよ」

 弁当は重量感があった。ティアルの手作りだ。

 たくさん作ってくれたのだと、重みにずり下がる布を背負い直しながら、

「ありがとう」

 ラナは素直に感謝した。

「なんとなく、胡散臭い商人に見えなくもないですね」

 確かに胡散臭い商人だとラナは苦笑する。

 ティアルが可視できない呪を唱えれば、ラナはいつもどおりの手ぶらとなった。

 重みも感じない。

「軽くなった。あいかわらずティアは凄いね」

「あなたに重たいものをわざわざ持たせるわけがないでしょう。軽量の呪と不可視の呪をかけておきました」

「ティアルは呪をなんでも覚えちゃうね」

「大聖堂の書庫はわたしの管轄ですからね。ミラトス以外の神が残した痕跡を解読することは難しくありません、。呪の構成も比較的簡単です」

 ミラトスの呪と能力を使いこないラナのほうがよほど凄いとティアルは言いたかった。

 ラナは決して認めない。

 本気で自らを弱い、頼りない、ティアルとロシュタムが凄いと思っている。褒められるのは喜ばしいが、こうも手放しに称賛されると、ティアルはくすぐったい。そして、ラナが力説してくれることが誇らしかった。

「ティアルの簡単は凄いよ?」

「そういうことにしておいてください」

 ティアルは流すが、ティアルの簡単の意味をラナは嫌というほど身をもって知っていた。

 難解を極めた文字の羅列に、ラナは当初ティアルから簡単な計算から学びましょうと言われてうなずいた過去の自分に、うなずかないで、もっとわかりやすいことから教えてもらってと言いたかった。

 知恵熱を何回出したか。

 ラナは習った計算式で両手と両足をつかわずに数えてから、さらに熱を出した。

 ティアルは根を詰めすぎですよと心配してくれたが、根を詰めさせたのはティアルだ。

 知恵熱だと何回目かで気がついたティアルは、謝罪とともに、丁寧でわかりやすく、何回でも、わかりにくくなかったですか? とラナに寄り添った。

 ──知恵熱を出したときに、なにか言ったのかな。

 訊ねてはいないが、ラナはときどき不安になる。よけいなことを口走っていないか。たまに勝手な思考になる【誰か】がでてこなかったか。

「ぼくは本を読むことが苦手だからすごいよ。文字も、難しいものは、書くのも読むのも苦手だ」

 苦手なだけであり、書けないことも読めないこともないが、できることならしたくはない。

 大聖堂にきた日から、第1司令官を、使聖の名を汚すことは迎えにきてくれたティアルの信頼を裏切ることになるとラナは必死にティアルのスパルタ教育についていった。ティアルは頭の回転が速い。ラナは感心するばかりで、己の未熟さに落ちこんだ。

 ラナは読み書きの練習から解読まで、睡眠時間を削り、地道な努力を重ねてきた。

 貪欲にラナは知識を吸収していった。

 知識を形にもした。

 呪を使いこなしては、ティアルを見る。

 ティアルが「よくできましたね」と微笑みかければ、ラナは嬉しそうに瞳を細めた。

 初心者であれ、ベテランの使聖であれ、知識で得た呪を形にしてしまうなど、簡単にはできないとラナはしらない。

 長い歳月をかけても、できない者が7割。少しだけできる者が2割。完璧にできる者は1割。ティアルを含めての割合のため実質0人だ。

 ラナのセンスには驚くしかない。

 ──本当に直ぐに覚えてしまいましたね。

 教えることが数ヶ月でなくなり、ティアルはラナの優秀さに感服した。

 甘えベタなこどもに、ティアルはたくさん甘えてほしいと毎日のように「好きですよ」「愛おしく思っていますよ」「あなたがなにより大切なのです」とあらゆる想いを告げてきた。

 想いが世辞だと思われているためか、ラナになかなか想いを受け取ってはもらえず、ティアルはラナを貶してきた只人が許せなかった。

 ──ラナが守るならしかたがありません。

 優しすぎるがゆえに傷つきやすく、強くあろうとする。心は正直に泣いているのに、ラナは人前で第1司令官として振る舞う。

 ラナの自己に対する評価が著しく低いのは、ラナが置かれていた環境が起因している。

 幼子に平気で石を投げつけ、食べられない食料を頭からかぶせてはあざ笑う。

 大人が筆頭になり、ラナをいじめぬいた。

 早く消えろと叫んだ。

 一生懸命に生きようとする子にむかい、毎日、なにも悪さをしていないラナを追いつめた。

 ラナが抵抗をしないことが彼らの行動を助長させた。このこどもはストレスを発散させるのに丁度いい。身よりもなければ黒い眼と髪をもっている。本来なら生まれることを許さない色彩だ。

 ミラトスの色はミラトスだけのものだ。

 只人がもって生まれてはならない。

 生かしているのたがら、なにをしても構わないだろうとラナを痛めつけた。

 ラナに、お前は誰より醜く、知識もなければ衣食住も与える価値がないと言葉で呪いをかけた。

 ティアルも長く、ラナにティアル様と呼ばれてしまい、らしくもなく拗ねた。ラティナから愛称のラナと呼べば怯える。

 粗相がないようにと食事の作法もティアルの見様見真似で身につけた。

 スープが1滴でも溢れ、パンを上手にちぎれず床に落としたときも、ラナは目をきつく瞑り、衝撃に備えていた。

 暴力をふるわれると思ったのだろう。

 心は正直に怯え、身体は震えて蒼白となる。

 ──大丈夫ですよ。ここにはわたししかいません。あなたを害する存在ではありません。

 ゆっくり食べなさい、とティアルはひやりとしたラナの頬に手を伸ばして笑いかけた。

 幾度も、いくども。

 ラナがティアルを信じるまで。

 ラナは次第にティアルの優しさが偽りではなく本物だとわかるようになった。

 徐々に笑顔を不器用ながら向けるくようになった。

 ──ティアル、様。あの、ティアル。

  ティアルの衣服を握りしめて、ラナは頬を染めて、強張りながらもティアル様からティアルと呼ぶ用になった。

 懐かしい思い出がティアルの中で溢れ出す。

「誰でも得手不得手はありますからね」

「ぼく、不得手しかない気がする」

「あなたが覚える気があるなら、わたしは一瞬で抜かされますよ」

 ラナはミラトスの能力を受け継いでいる。

 ラナ自身が気がつかなくても、第三者からはよくわかる。

 ミラトスの能力は簡単に使えるものではない。

 残骸であったとしても呪を読み解き、再構築する真似はラナ以外の使聖には真似できない。

 ティアルも不可能だ。

 ミラトスとラナの相性がよいとしか思えなかった。

 ──ミラトスはやはり、この大陸から離れていない。

 ラナを見ていればわかる。

 ミラトスがあきらかに力を増幅させている。

 ミラトスが生きてこの大陸にいなければラナがミラトスの能力を完全に引き継げるはずがない。

 ──能力欠片があれほど強力な矢となり降り注ぐはずがない。

 姿はなくとも、ティアルはミラトスがラナに能力を与えているとしか思えなかった。

 ラナに危険がないのなら構わない。

 ミラトスがラナを危険にさらした場合、ティアルはいかに創造主であっても許さないと誓う。

 500や1000くらいの苦情と説教は覚悟してもらうつもりでいた。

 説教ですむのだから感謝をしてほしいものだ。

「ラナ。あなたが笑っているのなら、わたしはいつでも平気です。あなたが心から笑顔になれるのなら、わたしはなにをしても構いません」

「十分に笑っているよ。ティアがいるから」

「なによりです」 

 ラナはティアルを心配させまいと偽りを告げた。

 ティアルはわかっていながら否定をしない。

 互いが互いを思いやるから──想いがすれ違う。

「ラナ、大好きですよ」

「しってる」

今日もティアルの想いは──伝わらない。

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