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白み始めた神話たち  作者: gcoma
19/21

停の一族 停の珠人

19話になります。


あなたがいないのなら生きる意味はない。

あなたがいるから生きる意味がある。

あなたをに危害を与えようとする存在がいるとするならば、わたしは全力であなたを守ります。


だから、守りぬけなかったと泣かないでください。

どうか、笑っていてください。


昔むかしの、遠い物語──。


 大聖堂は大司教を頂点とした、風、水、炎の能力を宿した3使聖と呼ばれる3人の使聖によって成り立っている。

 ティアルは静の一族から選ばれし静の珠人だ。

 水の使聖として日夜多くの使聖や使聖徒に厳しい指導と慈しみを与えている。 

 【水刹すいせつつるぎ】を担いし使聖でもある。

 何色もの光の珠は定まることなく、美しい水の玊を剣から生み出す。触れても、触れなくてもティアルの意思により鋭利な水を操り魔物を切り裂く。

 ロシュタムは第3司令官だ。

 炎の使聖と呼ばれている。

 養ってくれていたのは老夫婦だとラナは聞いていた。大聖堂に行けば恩返しができると実力を認められてきたと笑っていた。

 ──隠さなくてもいいのに。

 ──本当に話が3割。捏造が7割。

 嘘や偽りばかりが蔓延る中でラナは生きぬいてきた。違和感に敏く、騙されることはない。

 そうならなければ生きられなかったからだ。

 優しげな夫婦が差し出してきた水は致死量の猛毒がいれられていた。大丈夫と手を差しのべてくれた青年はラナを掴むなり豹変した。瞳孔を開いて頭をたたき割るための道具を振り下ろしてきた。

 彼らはラナに危害を与える直前に、等しくその場で息絶えた。

 体中に浮かんだ幾何学模様に酷似した赤黒い痣は、鋭い棘が隙間なく描かれ、体中の血液を一瞬にして吸い上げた。

 身体は崩れて跡形も残らなかった。

 ラナが敏くなければ死人が増える。

 ラナは必死に逃げた。

 逃げながら捕まった。

 傷つけたくない。

 傷つけないで。

 気持ちに相反する能力はラナに制御はできない。

 ミラトスの能力だ。

 大聖堂で発動した際に【ミラトスのあざ】と呼ばれるラナの忌まわしい呪。ミラトスから与えられた解呪不可能な能力は致死率100%だ。

ミラトスの痣から逃れる方法はない。

 ──ロシュタムは温度のない炎を纏う。

 【炎刹えんせつつるぎ】を担いし使聖だ。

 火の粉に触れた者は声をあげるひまもなく、灰にもならず消滅する。

 青か。赤か。橙か。緑か。

 罪により身を焼かれる炎は色を変えて相応しい地獄に叩き落とす。

 2人とも扱う能力からあふれだす色彩は鮮やかだ。目映くて。輝かしくて。圧倒されて。

 目を奪われる。

 目を離せなくなく。 

 囚われる。

 扱う人物と同じで。

 惹かれてやまないから。

 ラナだけが赤を纏う。

 単色だ。

 漆黒の色彩をもって生まれ。

 赤い色彩を操る。

 赤色は警告する。

 黒色は死を感じさせる。

 闇をほうふつとさせる。

 『死を警告する者』

 それがラナだ。

 実際に魔物を1匹たりとて逃したことはなく、ラナを傷つけようとする存在には、ミラトスの痣が刻まれる。

 ラナ自身が危険だと、ラナを纏う色彩が語る。

 ──ミラトス様も赤色だったのだろうか。

 ミラトスの能力も赤色だったとはラナには思えない。美しい色彩と素晴らしい仲間に囲まれていたに違いない。

 ──いいなあ。

 ラナは見たことのない神に焦がれた。

 ティアルもロシュタムも、本来の能力を隠すために剣をふるう。

 ティアルは探知能力の他にも、使聖にしられてはいけない呪を操る。ラナには隠すことなくもう1つの能力を使う。あなたのためにある能力ですと惜しげもなく使う。

 ロシュタムは違う。

 徹底的にティアルとラナに隠しとおしている。

 ティアルはロシュタムが隠し持っているもう1つの能力、呪に気がついている。

 気がついていながら、話題に出したことはなく、指摘をしたこともない。ラナに向けて使わないかぎり、ティアルは誰に対しても無関心を貫く。ティアルが本気になるのは、いつだってラナを害されそうになったときだけだ。

 ラナはティアルにもロシュタムにも隠している呪も能力はない。ミラトスの痣はラナの意思に関係なく、【風刹ふうせつゆみ】は悪意のある魔物を容赦なく消滅させる。【風刹ふうせつつるぎ】も扱うが、古の大気中から取り出す弓矢のほうが、ラナは扱いやすい。魔物も学ぶ。赤い光に怯える魔物とそうでない魔物は生まれたてか、長らく生きているか。

 威嚇として空に弓矢を放つことで見わけることも可能だ。

 ロシュタムは剣よりも素手で大聖堂に侵入を試みる魔物を蹴散らすことが多い。素手でなんとかするから、ラナははじめて見たときに蒼白となった。抱きしめられたら潰されるのではないかと懸念した。ロシュタムは全力で否定したが、ラナが震え出した瞬間に、過去になにかあったのだと察して、

 ──大丈夫だ。

 ラナを柔らかく抱きしめた。

 それからというもの、ラナはロシュタムにより、小脇に抱えられるようになった。歩くと距離があるぞと討伐先に迎えにきたロシュタムは、ラナがなにかを言うより早く、小脇に抱える。

 ──ティアルには内緒な。

 と、照れたように笑った。

 ラナはロシュタムがティアルに抱いている感情がなんであるのか気づいていた。

 ロシュタムは否定するだろう。

 叶えるつもりもないのだろう。

 ティアルはラナしか見ていない。

 どれだけロシュタムが願っても、最初から叶いはしない。

 振り向いてもらうことさえできない。

 最初から見守るつもりで第3司令官になったのだろう。

 不器用な生き方だ。

 ラナもロシュタムのことを言えない。

 飾りだ、弱いと誤解をされても訂正をしないため、ラナのかわりにティアルが憤る。

 ロシュタムが滅多に剣を扱わないため、使聖徒の中にはロシュタムがなんの力を扱うのかをしらない者もいる。

 それでも、ロシュタムは使聖からも使聖徒からも好かれていた。

 ──ぼくとは違う。

「そんな君は」 

 ロシュタムは隠している。

 ラナはロシュタムがなんの一族であるかわかっていた。

てい一族いちぞく

 炎は本来の能力を目眩ましに使っているにすぎない。確かに審臨外の魔物は炎刹の剣で十分だ。 

「ロシュタムの狙いは」

 停の一族は中間者と呼ばれている。

 大聖堂に仕えているが、ラナの敵でもある

 ロシュタムは重力を自在に操る。

 ロシュタムの扱う重力操作は、ラナがミラトスから授かった能力を一時的に抑え込むことが可能だ。

「ぼくの命だ」

 ──てい珠人しゅびと

 ロシュタムはラナを、ミラトスを殺すことができる。ラナが大聖堂の敵となれば、ロシュタムにラナの抹殺命令が下されるだろう。

 ラナが大聖堂にとって有益出あるうちは、見張りとして側にいるように命じられているのだろう。

 ロシュタムは大聖堂に入るために炎を操る能力を鍛えた。

 炎は証拠を焼きつくすためにもある。

 重力操作により原型を留めていない状態になった場合、最初から誰もいなかったかのように葬り去るためだ。

 ロシュタムの緑と青が入り混じった2色の炎は特別だ。

 魂を跡形もなく消滅させる。

 2度と生を受けることはない。

 ロシュタムは停の珠人にふさわしく、全能力を停止させることにより命も停止させる。

 ただ、徹底的に隠しているはずなのに、ロシュタムは、

 ──おれはラナの能力を停止することができる。その場合、ラナの命の保証はできない。

 と、ラナに告げた。

 ラナは、

 ──構わないよ。

 と、軽く言って笑った。

 なんの力を扱うかは言わなくても、ラナの命を脅かす存在だと正直に話す姿に、ラナも迷わずにこたえた。

 ラナのもつミラトスの力が制御不可能に陥ったとき、停の珠人は初めて動く。

 ミラトスの痣以外で、ミラトスが持っていた能力が制御できなければ、大聖堂も、ミラトス大陸も、全ての命が消滅する。

 手遅れになる前に、ロシュタムは動かなければならない。

 ラナの力を、生命活動を停止させるために。

 ──どうしてわかるんだろう。

 ラナは、

 ──確かにしっている。

 ロシュタムの能力を理解したうえで遠ざけることをラナはしない。恐ろしいとは思わなかった。  

 ラナはロシュタムとのやりとりをティアルには告げていない。ロシュタムとラナだけの秘密だ。  

 ティアルがしれば、ロシュタムは無事ではすまない。殺すことをためらわないだろう。

 ラナは大好きな2人が争うことが嫌だった。

 ──ぼくならどれだけ傷ついても構わない。血を流しても関係ない。2人を守りたい。

 なにから守るのか。守られてばかりのはずなのに、どうして守らなければと思うのか。

 ──守れなかったから。

 どうしてそう思うのかはわからない。

 それでも、確かに2人を守れなかった。

 喪失感と後悔がラナの中にはある。

 ──庇わせなどしない。2度と失わなせない。

 この記憶がミラトスのものなのか、今のラナには確かめる手段がない。ティアルに相談したところで、不要な心配をかけてしまう。

 ラナが血染めの使聖と呼ばれるようになったのは、新米の使聖を護るためだ。

 ラナは稀に頭の先から爪先まで返り血で深紅に染まることがある。

 大聖堂から与えられた魔物を狩ることができる特別な剣が万能だと信じて疑わないからだ。

 魔物に届かなければ死が待っているのに、ラナがあまりにも簡単に魔物を討伐してしまうから、襲ってきた魔物は弱い相手だと錯覚する。ラナに倒される魔物ならたいしたことはないと手柄を重視して突っ込んでいく。

 ラナは急いで風刹の弓を傷だらけの手で放ち、全ての魔物を射貫く。

 任務完了を告げる姿は、不可抗力とは言えども血染めの使聖と呼ばれるには十分だった。

 手柄を横取りされたと睨む使聖が、せっかく助かったのに、ラナの命をつけ狙う。

 討伐のさいに、どれだけ魔物を狩っても、使聖を助けても、ラナは無表情だ。ラナは使聖や使聖徒の憧れであると同時に、冷徹な第1司令官として認識されていた。

 ティアルとロシュタムの2人がなぜラナを慕い、傍らに寄り添っているのか。

 ラナを認めない使聖は苛立ち、ラナを慕う使聖は焦がれる。

 第1司令官としてのラティナは大聖堂に仕える身だ。なにを言われようとも第1司令官の佇まいを崩さない。

 ラナと呼ばれる普段のラティナは、

「もう食べ終わったかなあ」  

 大好きな人が幸せであるように。

 迷惑をかけないように。

 自らを犠牲にすることを厭わない。

 

「食堂に戻りますよ」


 ここにいるはずのない声がした──。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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