その七
「自分は明日、草壁家への家宅捜索を申請します」
佐々木吉口警部補はそう言うと、気合いを込めて自分の頬を叩いた。
二時間後。
カウンターテーブルでうつ伏せに気絶していた。佐々木吉口警部補が起き上がる。
「何故自分は此処で寝ている?」
サングラス風の【GPS】モニターを取ると、いまだにヒリヒリする頬をさすりながら、【スナック昭和】の中を見回す。
「おぅ、目覚めたか? 佐々木よぅ」
そう言って一色誠は、プリントアウトした犯行現場の写真を見ていた。
「! 何故それがこんな所に在るんですか! 一色教官‼」
佐々木吉口が目を丸くして、現場写真を奪い返そうとする。
「何を言っとるか! 自分で自分を叩いて昏倒していたくせに」
そう言われてハッとする、佐々木吉口警部補。
「そうだった、一年前に腕を改造した犯人にボロボロにされて。体の三割を人工筋肉に強化していたんだった!」
「この大バカ者‼」
一色誠の罵倒に返す言葉が無く。しょぼくれた犬のように反省していた佐々木だったが、『それとこれとは関係ありません』と言うと現場写真を全て回収した。
「まったく、いったい何処から現場写真を手に入れたんですか?」
佐々木吉口警部補がそう言うと、一色誠は人のイイ『おじいちゃん』の様な笑顔を見せて。警部補の前にハチマキに似せて作られた【多機能型外部電脳】をそっと置いた。
「ええい。何たる不覚か!」
佐々木吉口警部補は、ハチマキを奪い取る様に掴むと角刈りの頭に装着する。
「アァ、クソ。減給処分物の大失態じゃないか!」
佐々木はそう言うと、ぬるくなったビールを煽る様に飲み干した。
「イヤイヤ。そうでも無いぞ、佐々木よ」
一色誠はそう言うと、佐々木吉口警部補の右肩に左手をのせてこう言った。
「この犯行現場写真で被害者の共通点が分かった」
そう言って一色誠が取り出したのは、草壁家の集合写真だった。
「この中って、これはただの『家族写真』じゃあないですか」
佐々木吉口警部補に渡された『家族写真』その中にはベッドで横になっている。【草壁一郎】とその家族が写されていた。
故人、草壁一郎。
その長男、草壁竜一。
長男の妻、草壁加奈子。
孫、草壁ジュン。
この三人が、草壁一郎のベッドを囲む様に笑みを浮かべて立っていた。
「いいか、此処の写真からは【共通点】を見つけろ」
一色誠がそう言うと、まずは長男。草壁竜一を指さした。
「草壁竜一が犯人だと言いたいんですか?」
佐々木吉口警部補は、それはどうかと考える。
草壁家は小さくなってしまったが、それでも【富豪】と世界から呼ばれるだけの財力を持った一族だ。犯罪に巻き込まれる事はあっても、犯罪に手を染めるほど愚かとは思えない。
「ちがう! ワシは【共通点】を見つけろと言っただろう?」
そう言った一色誠は、新たなる写真を胸ポケットから出す。
「これはワシが『サイバーワールド』で買って来た【第一の被害者、道埼光一】がまだ生存していた、四ヶ月前の【ホロビジョン】から抜き採った写真だ」
一色誠はそう言うと、ベッドで横になっている被害者。道崎光一を囲む様に立っている『家族写真』を見せた。
故人、道崎光一。
妻、道崎ココア。
長男、道崎光二。
次男、道崎長光。
「うん?」
佐々木吉口警部補はその写真を手に取って。草壁家の写真と見比べる。
「段々と解かって来たか? 佐々木よ?」
一色誠は自分の元教え子が、真実に近づいてゆくのを見てニッコリと笑う。
「……第二の被害者の家族写真は有りますよね?」
佐々木警部補は『さも、当然の事と思って』そう聞いた。
「当たり前じゃい」
そう言って一色誠は胸ポケットから【第二の被害者】である【国元さとし家】の『家族写真』を取り出して、佐々木吉口警部補の前にそっと置いた。
その『家族写真』も、さも当然のようにベッドで寝ながら微笑んでいる【第二の被害者、国元さとし】を中心にして笑っていた。
故人、国元さとし。
妻、国元みどり。
長女、国元えみ子。
「まさか、こんな事が偶然で起きる訳が無い!」
佐々木吉口警部補が叫ぶように三枚の『家族写真』を見てそう言った!




