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悔やむベッド  作者: さんごく


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8/10

その八

「こんな偶然はあり得ない。三人が三人共『ヨツトモ家具店』が開発している、【アーム付きの介護ベッド】の被験者だなんて」

 佐々木警部補は椅子から立ち上がると、叫びたい自分を押し殺してそう言った。

「その通り。こんな偶然があってたまるか。しかも、第五世代【A.I】に限りなく近い、第四世代【A.I】を秘密裏に開発に作っているのも。『ヨツトモ家具店』の開発室なのだから、な!」


 佐々木吉口警部補は、いつも『ヒョウヒョウ』としている一色誠が、此処まで怒っているのを見るのは自衛隊改め【国防軍】から出向して、【公安調査室】で【非合法な分室】を立ち上げて間もない時に、実戦に極めて近い『演習』を行なった際。

『余りにも自分勝手な指揮をとる事で知られている教官』が、自分の分隊三分の二を文字通り無駄死にさせた後。

 その日の夜に行われた反省会で。

「私は悪く無い、悪いのは私の『指揮』について来られなかった【部下達】だ!」

 ──と、自分を擁護する発言を繰り返した『教官』に対してだった。


「ですが【介護ベッド】に人は殺せません。例えそのように懇願されても【A.I】が緊急停止する様に出来ているのですから」

 そう言いつつも、三枚の家族写真を佐々木吉口警部補は凝視していた。それは何処かで自分の意見に『盲点』が無いかを、捜して要るかのようだった。


「では、詳細な【解剖初見】をここに送ってもらう事は出来るか?」

 一色誠は真顔でそう言うと、佐々木吉口警部補は物凄く嫌な顔をしてこう言った。

「一色教官、いま何時だか分かりますか? もうすぐ十一時ですよ? こんな時間に【検死報告書】を寄こせ何て言って来る奴は、後ろから刺されても文句が言えません!」

 ため息を付きつつ文句を言いながら、佐々木吉口警部補は今もいるはずの知り合いに【秘匿回線】で電話を掛けた。


 佐々木警部補は三十秒ほど待たされた、その間頭の中で歌詞の無い音楽だけが流れ続けたが。そんな塩対応にも文句を言わずに、佐々木吉口警部補は待ち続けた。

「かなり怒っているようです」

 佐々木吉口警部補の口から、低く小さな声が漏れだして来る。

「……その様だね……」

 警察関係者にしか聞く事も出来ないはずの【秘匿回線】にハッキングしている、一色誠の口からも相手の怒り加減が良く分かる。

 その瞬間頭の中で流れていた音楽が、コール音へと変わって十三回流れる。


「おい、佐々木よ。あの子にいったい何をした?」

 さすがの一色誠でも、此処までの嫌がらせを受けたのは初めてだった。

「知らなかったのですか? 今日の八時から『就労難民達』のデモが行われているのを」

 佐々木警部補がそう言うと、バツの悪そうな顔をしてこう言った。

「──道理で今夜は『サイバーワールド内』が静かな訳だ!」

 十四回目の途中でコール音が途絶えて、明らかに不機嫌そうな声が。佐々木吉口とハッキングしている一色誠の脳みそに届く。

『──もしもし──』

 不機嫌そうな声が二人の頭に響くがそんな事は関係ない。

「もしもし自分だ、佐々木吉口警部補だ。悪いが今朝の『被害者の【解剖初見】』を出来るだけ速やかに、自分の脳に送ってもらえないか? ──え? 今どこに居るのかって? もちろん一人で晩酌している。店の中には店主とあと客が一人だけだ。──ああ解かって居る自分も君の事を愛しているよ、ハニー」

 通話を止めた佐々木吉口は、両ひじをカウンターテーブルに乗せて頭を抱える。

「あの子に対してはウソを付かないと心の底で思っていたのに‼」

 佐々木吉口はその短く刈り揃えた髪の毛を掻きむしる。

「ハ、ハ、ハ。これもまた運命さ佐々木君。イヤ、ダーリン」

 目の血走った佐々木吉口と、老人とは思えない軽いフットワークで逃げる一色誠の『鬼ごっこ』は、『スナック昭和』の中で五分間続いた。


 六分後、息を切らせてゼーゼーいっている佐々木吉口と。息を切らせるどころか、水では無く焼酎を飲んで笑っている一色誠に。待望の報告書が、佐々木吉口警部補を通じて送られて来た。

 その第一ページを見た佐々木吉口警部補は、木製の床に両ひざを付いてうつ伏せに倒れる。

 そこには大きくこう書かれていた。

「離縁‼」

 佐々木吉口警部補の明日はいつ来るのでしょう。


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