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悔やむベッド  作者: さんごく


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2/10

その二

 佐々木吉口警部補はその夜、札幌市にある【北海道警察本部】の自分のデスクにある椅子に座ると。頭の中でこのような声が聞こえた。

「電源スイッチを入れますか?」

 佐々木は迷わず、デスクの上にある【A.I】ボックスに首肯した。

『三百六十度に目を持つ』ボックスは、佐々木警部補の動きを『肯定』と判断して。まずはデスクを照らす灯りを付けた。

 次におこなったのは、この部屋にあるコーヒーポットに接続して。佐々木吉口警部補が一番気に入っているコーヒーの豆を、ポットに入れて豆を挽き始める事だった。

 佐々木吉口警部補のデスクに、淹れ立てのコーヒーが運ばれて来る。

 もちろん人間が運んで来た訳では無い。

 高い天井から垂れ下がる、十本の機械の手で運ばれて来たのだ。

 佐々木警部補がコーヒーカップに口を付けた後に、【A.I】ボックスに向かってこう言った。

「パーフェクトだ」

「ありがとうございます」

 その声は何処か誇らしげだった。


 佐々木吉口警部補は。コーヒーを飲みながら、あの屋敷での事を考えていた。

 草壁一族の長老格であった、草壁一郎が在ろうことか。

『高性能【A.I】』に故意では無くても、殺害されてしまったのだ!

「深夜にはニュースが流れる、さて。どうしたものかな」

 佐々木警部補はそうつぶやくと、壁に掛かったアナログ時計に視線をおくる。

「もうすぐ八時か──…! しまった‼」

 佐々木警部補は背広を掴むと、そのままのスピードで部屋を飛び出した。


「間に合ったぁ」

 佐々木吉口警部補が向かったのは、戦前は【大通公園】と言われていた飲み屋街だった。

 警部補は息を整えつつ、背広をはおるとそのまま飲み屋街の中にある、【スナック昭和】と言う店を探す。

「あの人の事だ、そう簡単には見つからんかもなぁ」

 佐々木警部補はそう言って、背広のポケットに入っていた【警視庁】が管理する、【GPS】からの情報を投影する、サングラス型ゴーグルを装着する。

 百七十七センチメートルの長身に、短くカットされた髪の毛にハチマキ。そしてもう夜なのにサングラス型の【GPS】をかけた姿は、どう見ても【一般市民】には見えないが。佐々木吉口警部補には、そんな事は些細な問題だった。


 意外にも【スナック昭和】は。佐々木警部補が思っている程、奥まった所では無い。割と親切な場所に立っていた。

 佐々木吉口警部補は軽く脱力するがまあ良い。これから会う人は、時間には厳しい人だったからだ。

 暖簾をくぐって戸を開ける。

「いらっしゃい!」

 しわがれた声で向かい入れたのは、【ママ】では無く老人だった。

 そしてカウンター席しかない店舗には、客は一人だけだった。

「いょう! 先に飲ませてもらっているぜぃ‼」

 そう言った佐々木が待たせた人は、こちらも充分な老人だった。

「時間には間に合っていますよ、一色先輩」

 そう言ってわざとらしく、左手首を視る佐々木吉口は。何処か楽しそうだった。

「いいや、充分遅刻だぜ。佐々木吉口オレの、オレ達の時間は『五分前行動』だろ?」

 そう言うと、【一色先輩】と呼ばれた。百五十センチメートル程の老人は、自分の左手首を見せた。──確かに腕時計の針は五分進んでいた。

「一色先輩、今時そんな時計の使い方は。通じませんよ!」

 佐々木吉口が、一色誠の背もたれも無い席の右側に座った。あと四人も入って来れば、この店はパンクしてしまう。


「お客さん、何にします?」

 この店の主人で在ろう老人が、急かす訳でも無いが佐々木吉口に、『凄みの在る』声で注文を聞いて来る。

「とりあえずビール。冷えているのは有るかい?」

 シワだらけの顔に隠れるような糸目を持ち上げて、この店の店主がこう言った。

「ぬるいビールなんざ、ドイツ人のお坊ちゃまが飲むもんでさぁ」

 この店の店主がそう言うと、冷蔵庫からあり得ない事に。王冠で閉じられたビール瓶を取り出した。

「──こ、これは──!」

 佐々木吉口も、これには驚いた!

 一色誠はにっこりと微笑んだ。

 そして、店主は。一切の迷いも無く王冠を栓抜きで取り外す。

 炭酸が音を立てて抜けて行く。

 佐々木吉口警部補は、ゴクリと喉を鳴らした。


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