その一
まだ夜の明けきれていない早朝に。白と黒で塗り分けられた車が五台、高い壁で囲われた屋敷の前で待機していた。
その二十世紀からつづく車両色で塗られたパトカーの前方と後方で、指示棒で車両整理をしている【女性警察官達】は。最近特に蒸し暑くなって来た札幌市で生活をするには、多少不向きなジャンパーを全員が羽織っている。
赤と青の警告灯が規則正しくパトカーの上で明滅をし、【女性警察官達】の顔を照らす。
美しい、というよりかわいい顔立ちを持つ彼女達であったが。
その顔と髪型はまったく同じだった。
四十年前にデザインされた【アンドロイド警察官】は、中身は大幅に改良されていたが。その外観はまったく変更されてはいない。
『中身を変えて最新型に改良されていれば、外観はどうでも良いでは無いか』そう言った意見によって、【彼女達】は何十年も変わらない姿で公務を続けていた。
確かに中身は大幅に改良されてはいたが。どの界隈でも存在する【警官装備のオタク達】には、『中身に手を入れるだけでは物足りない! チョットでいいから外観にも手を加えて欲しい‼』と言う声が【サイバーワールド】内で多数派を形成して、その声は年々大きくなっていった。
合成皮革のジャンパーを着た一体の【アンドロイド警察官】が、待機状態からすばやく平常活動状態に移行した。
「──」
彼女は人間の聞き取れない『声』で命令を下す。
パトカー一台に二体の【アンドロイド警察官】が乗っているのが普通のため、車両整理をしている二体を含まない八体の【アンドロイド警察官】が。何かがあった屋敷の門その左右に、背筋を伸ばして待機をする。
合成石油をエンジンの中で爆発させて走る三台のパトカーが。警告灯を光らしながらサイレンを低音で鳴らしつつ、その大きな屋敷の前で止まると。男女六人の背広を着た【私服警官】が降りて来た。六人の額にはハチマキやバンダナ、女性刑事はカチューシャが付けられていた。
「状況に変化は無いか?」
警部補、佐々木吉口は。百七十七センチメートルの大きな体から発声される良く通る声で、右側一番奥で敬礼している【アンドロイド警察官】に向かってそう聞いた。
「はい、あります」
そう言うと【アンドロイド警察官】は、一瞬ほほ笑むと説明をはじめようとした。
「いや、言葉にしなくても良い。我々はすでに『間接情報接続』手術を行なっている」
佐々木警部補はそう言うと、額に巻かれたハチマキを指さす。
「失礼しました! 佐々木警部補!」
アンドロイドの婦警は、顔色を変えて謝罪の言葉を口にする。
「それでは最初の『通報』から今までの状況を、説明付きで今此処で送ってくれ」
佐々木吉口警部補がそう言うと、【アンドロイドの婦警】の目から一瞬だけ生気が無くなった。時間にして一秒、たった一秒で此処にいる六人の警官達は。大まかな情報を共通で認識した。
「いいえ、わたしは殺しが出来ません…」
ここでも又女性的な声がか細く響いた。
「──ああ、そうだったその通りだ」
佐々木吉口警部補は嘘を付くのがヘタクソな、『女性的な声』を持つ加害者に向かって、
こう問いただしてみた。
「では、草壁一郎氏に何を依頼された?」
「…お酒が飲みたいと懇願されました」
ああ、またか。佐々木吉口警部補は心の中でそう思った。
「警部補。『彼女』は嘘を付いていません」
佐々木警部補の部下の中で、特に、いわゆる【電脳犯罪】に詳しい部下のひとりが。彼女の【電脳】に接続してそう断言する。
「そんな事は解かっている。もしコレが他者を害する嘘をつけるのであれば、それこそ【ヨツトモ家具店】の現社長は。株主から今の地位を引きずり降ろされてしまう」
佐々木吉口警部補は、叫ぶようにそう言った。
「おねがい! テッちゃんをイジメないで!」
佐々木警部補は思わず後ろを振り返る。
そこには、六歳位の女の子が両手を握りしめて見上げていた。
『おい、この子は誰だ?』
思わず佐々木吉口警部補は、ハチマキに似せて造られた【間接型複合電脳接続器】の無線機のスイッチを入れて部下と会話をする。
『この家の次女で、名前を美智子といいます。お忘れでしたか?』
あぁ、そう言えばこの家の家族構成に、そんな名前が在ったな。
『忘れた訳じゃない、【優先順位】を下げていて。とっさに名前が出て来なかっただけだ』
佐々木警部補は、顔を赤くしてそう言い訳をした。
「テッちゃんを連れて行かないで!」
涙を溜めた目で、佐々木吉口警部補を見つめる美智子ちゃんに、何と言えばこころに傷を付けずに済むのか。咄嗟に口から言葉が出て来ない【私服警官達】を救ったのは、美智子ちゃんが救おうとしていた【テッちゃん】だった。
「美智子お嬢様、その様な言葉で。皆様のジャマをしては行けません」
そう言うと【テッちゃん】は、美智子の髪をやさしくなでながらこう言った。
「わたしはいつでも美智子お嬢様の傍におりますから」
美智子は両目に溜まった涙を流して、大きな声でこう言った。
「本当に⁉」
すると【テッちゃん】は両手で美智子の頬からあごまでをさするとこう言った。
「ええ、本当です」
【テッちゃん】はそう言うと、右手人差し指で美智子の鼻の頭を軽く二回突いた。
家政婦のおばさんと手をつないで、美智子は何度か振り帰りつつ。二階にある自分の部屋に帰って行った。
「わたしは噓を付きました…」
両手をタランと垂らすと、ソレは小さくつぶやいた。
「しょうがないさ、あの子を傷つけようとした嘘では無かったのだから」
佐々木警部補がそう言うと、ソレ。【老人介護用A.I制御式ベッド】に取り付けられた、滑らかに動く両手をタランと垂らして。【老人介護ベッド】は悔やむようにこう言った。
「──それでもわたしは、噓を付いてしまった……」




