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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2.5章 閑話のような。
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閑話 レンティスお兄ちゃんといっしょ!③

 朝の海風が吹き抜けるボードウェルギルドの訓練場には、昨日と同じように訓練用の木剣や槍を持った人影が集まっていた。リュカとユリウスが到着した頃には、既にフェンリスの憲兵団が整列しており、今日はそこへさらにボードウェルの自警団も加わっている。

 人数が増えたせいか訓練場の熱気も昨日以上で、朝だというのにじわりと汗が滲みそうだった。

 その前方で指示を出している憲兵団の兵長は、どこか疲れ切った顔をしている。対して、その隣に立つレンティスは昨日以上に機嫌が良さそうで、ずっと楽しげに笑みを浮かべていた。

 

「……レンティス兄さん、何かあったのか?」

「めっちゃ機嫌良さそうだな……」

 

 首を傾げた二人の後ろから、不意に肩を叩かれる。

 振り返ると、ドランとゼノンが意味深な顔で頷いていた。

「まぁまぁ……」

「隊長にもそういう所があるって事で」

「……?」

「……??」

 ますます意味が分からず、リュカとユリウスは顔を見合わせるしかない。

 その間にもレンティスは兵長へ向き直り、仕事用の声音で淡々と話を進めていた。

「憲兵団と自警団の皆さんは午前中は基礎訓練。午後からは私の部下と共に集団戦の強化訓練に入りますので。昨日教えた基礎訓練、怠らないようお願いします」

「は、はい!」

 兵長の返事を聞いたレンティスはそのままこちらへ振り返り、にっこりと笑った。

 その笑顔を見た瞬間、リュカは嫌な予感しかしなかった。

 

「さ、二人共。昨日の反省は十分したと思うから、今日午前中はドランとゼノンに相手してもらおうか。パーティを想定した戦いを訓練しよう」

 

「えー、隊長は何するんです?」

「ん? あっち見てくるのと、横から口出し、時々魔法かな」

「弟君達強いのにやだなぁ……」

「昨日二人共、憲兵団相手はつまんないなーって顔してたからねぇ」

「うわっ……見てるよこの人……」

「んふふ。ちなみに負けたらお前らにはペナルティあるから」

「「全力でやらせていただきます」」

「最初からそう言いなよ全く」

 楽しそうに笑うレンティスに対し、リュカとユリウスは反射的に背筋を伸ばした。

 昨日一日で、この人の言う“ペナルティ”が絶対ろくでもないものだと理解してしまっている。

 

 そして始まった訓練は、予想以上に熾烈だった。

 レンティスの部下だけあって、ドランとゼノンも十分すぎるほど強い。

 目の前で剣を打ち合っていたゼノンが、一瞬視界から消えたと思った次の瞬間には、横から入ってきたドランの体当たりでリュカが吹き飛ばされる。

 逆にドランを相手取っていたはずなのに、気づけばゼノンの剣がユリウスへ迫っている。

 連携が異様に滑らかで、どちらが前衛でどちらが攪乱役なのかも曖昧なまま、二人は自在に立ち回っていた。

 だがそれでも、レンティスを相手にしていた時ほど、絶望的ではない。

 ちゃんと攻撃が届く。

 受け流される事も多いが、タイミングを合わせれば当てられる感触があった。

「ユリウス、左!」

「分かってる!」

 リュカの声と同時にユリウスが踏み込み、大剣を振り抜く。

 その動きに合わせ、リュカも槍を低く滑らせた。

 ゼノンが後ろへ跳んで回避するが、その着地先へドランを押し込むように誘導する。

 昨日よりも、確実に連携が噛み合っていた。

 

「お、今の良かったねぇ」

 

 どこからともなく飛んできたレンティスの声。

 その直後、水弾がリュカの頬を掠めた。

「危なっ!?」

「リュカくーん、また当たる前提で動いてる。ちゃんと意識して」

「……っ!」

 反射的に守護結界を展開すると、次の水弾が弾けて霧散した。

 最初はドラン達への対処で手一杯になり、レンティスの横槍に何度も被弾していた。だが徐々に、そちらにも対応出来るようになってくる。

 

「ユリウスー、さっきのタイミングだと一歩遅いよ」

「くっ……!」

「ほらほら、ドランとゼノンも真面目にやんなよー。そんな動きじゃ二人にすぐ追い抜かれるよー」

「隊長、それ普通に煽りっすよね!?」

「弟君もリュカ君も頑張って、マジで」

「っとに隊長って、目が六個ぐらいあるんじゃないっすかね…!」

 剣を打ち合わせながらドランがぼやく。

 レンティスは憲兵団の訓練を見ながら、こちらの動きまで全部把握していた。……意味が分からない。

 結局、午前中いっぱい戦い続けても、一度も勝つ事は出来なかった。

 地面へ倒れ込んだリュカ達を見下ろしながら、レンティスが少し残念そうに肩を竦める。

 

「ペナルティ無しかぁ。残念だなぁ……」

 

「っっしゃあぁぁああ!!」

「生き延びたぁ!!」

 何故かドランとゼノンが全力で喜んでいた。



 昼休憩を一刻ほど挟み、再び訓練場へ戻ってきた。周りを見ると、疲れた顔をした憲兵団と自警団の面々が見える。

 それでもレンティスだけは朝から全く疲れた様子もなく、むしろ機嫌が良さそうですらある。

 そんな彼の前に並ばされたリュカとユリウスへ、ドランとゼノンが神妙な顔で肩を叩いた。

 

「二人とも、骨は拾ってやるから頑張るんだよ」

「俺ら相手にあんだけ動けたから、今日は隊長相手でも二人なら多分、おおよそ、少しぐらいイケると思うっすよ」

 

「それ励ましになってる?」

「なってない気がするな……」

 怪訝な顔をする二人をよそに、レンティスは薄く笑った。

 

「さて、今からはおさらいしていくからね。僕を殺す気でかかっておいで。指摘したとこ出来てなかった場合、即地面とオトモダチになるから。頑張って」

 

 目を細めて笑う姿は柔らかいのに、漂う圧だけは異常だった。 

 そして不意に、レンティスがぽつりと言葉を落とす。

 

「そういえば聞いたよ? アストレアに遅れを取ってセラフィナちゃん、人質に取られたんだってね」

 

 その瞬間、リュカとユリウスの眉がぴくりと動いた。

 

「自分が情けないって思わない? 制圧に時間をかけ過ぎたから起きた事だよね?」

 

 レンティスは腰に下げていた木剣を静かに抜き、縦に振る。

 軽く数回振っただけなのに、空気が異様なほど張り詰めた。

 

「今回生き残れたのも運が良かっただけ。捕まってそのまま殺されてた可能性だってあったんだから」

 

 そう言って、木剣の切っ先を二人へ向けた。

 

「二度と、そんな事になるのは僕が許さないよ」

 

 次の瞬間、レンティスの姿が掻き消える。

「っ……!」

 気づいた時には、もう目の前まで間合いを詰められていた。横薙ぎに振り抜かれた木剣が、リュカの右脇腹へ直撃する。

 防御も回避も間に合わず、身体が真横から千切られたような衝撃に息が止まった。

 そのままレンティスは回転するように跳び、今度はユリウスの脇腹へ木剣を叩き込む。

「がっ……!」

 鈍い音と共にユリウスの身体が吹き飛んだ。

 昨日の訓練でも、レンティスはほとんど武器を使わなかった。

 だからこそ分かる。素手の時とは、まるで別物だった。

 

 斬撃が速い、重い、鋭い。

 

 木剣のはずなのに、本当に胴体が両断されたような錯覚を覚えるほどだった。

 肺が潰れたみたいに呼吸が出来ないが、痛みより先に、本能が危険を叫んでいた。

 リュカは痛みに揺れる身体へ即座に治癒魔法をかけ、その場から飛び退く。

 勢いのまま後ろへ転がった直後、先程まで自分がいた場所へ、レンティスの木剣が振り下ろされた。地面が深く抉れ、土が跳ねる。

 

「うん。リュカ君は戦場にいただけあってやっぱ勘がいいね」

 

 レンティスが楽しそうに笑う。

 その手に握られていた木剣は、地面へ叩き込まれた衝撃で途中から砕け、柄だけが残っていた。

 その光景に、リュカの背筋へ冷たいものが走る。

 

 レンティスに言われた事は、ずっと二人の胸に引っかかっていた。

 あの時、セラフィナが魔力暴走を起こさなければ、何も打開策が浮かばず、セラフィナもユリウスも殺されていたかもしれない。

 リュカも、生きていなかったかもしれない。

 

 その可能性を、レンティスは容赦なく突きつけてきた。

 

 悔しいほど正しいからこそ、何も言い返せない。

 

 もっと強くならなければならない。

 

 絶対に。

 

 改めてそう叩き込まれながら、リュカとユリウスは何度もレンティスへ向かっていった。

 少しでも指摘された部分が出来ていなければ、容赦なく地面へ叩きつけられる。

 

 だが、それでも二人は息を切らし、汗だくになりながらも立ち上がり、死に物狂いで何度も何度もレンティスへ挑み続けた。

後半、実はレンティスは、リュカとユリウスが仲間(しかも女の子)を危険に晒した事を少しだけ怒っています。

=全滅の危険性だったわけなので。

犠牲になった木剣も本来の使い方をされずびっくりしたでしょうね。

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