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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2.5章 閑話のような。
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閑話 レンティスお兄ちゃんといっしょ!②

「ユリウス、いつも言ってるでしょー。大剣は振りがどうしても大きくなりがちって。こういう時どうするか前言ったよね?」

 ユリウスの大剣を拳で捌きながら、レンティスはまるで雑談でもするような口調で言う。その直後には、ユリウスの懐へ入り込んでいた。

 剣を振り抜くより先に、腹へ鋭い掌底が突き刺さる。

 ユリウスが数歩後退したところへ、今度はリュカへ視線が向いた。

 

「リュカ君は治癒魔法に頼りすぎ。すぐ治せるからって自己犠牲寄りな戦い方は動作が雑になる」

 

「っ……!」


 槍を突き出した瞬間、柄を軽く弾かれる。体勢が崩れたところへ拳がめり込み、肺の空気が一気に押し出された。

「そうそう、そういうの。やれば出来るじゃん」

 褒めた直後に吹き飛ばしてくる辺り、本当に容赦がない。何とか受け身を取りながら、リュカはレンティスの強さに愕然としていた。

 

 レンティスとの模擬戦は、もはや模擬戦と呼べる代物ではなかった。

 攻撃は全部いなされ、隙を見せれば即座に指導が飛んでくる。しかもその指導が全部痛い。

 拳も蹴りも寸止めという概念が存在しておらず、武器を持っているこちらの方が有利なはずなのに、気づけば毎回、身体への衝撃と地面がセットでやって来る。

 リーチ差が全く活きず、近づかれた瞬間終わる。

 治癒魔法で痛みは無くなるが、精神の疲労まではどうにもならない。

 殴られ、吹き飛び、何とか立ち回復する、そしてまた殴られるという無限ループだった。

 

「うん。大分動きが良くなったんじゃない?」

 

 レンティスは相変わらず爽やかな笑顔のまま言った。息一つ乱れていない。

 

「じゃあ次は魔法も解禁ね。僕も魔法は使って行くから、リュカ君はしっかり守護結界を張って防御、ユリウスは攻撃、妨害、補助、どこまで出来るようになったか見てくから」

 

 その言葉に、リュカは乾いた笑いしか出なかった。隣ではユリウスが無言になっている。嫌な予感しかしない。

 

 ユリウスが静かに手をかざした。

 空中へ無数の水弾が浮かび上がると、次の瞬間、一斉にレンティスへ向かって放たれた。

 だがレンティスは避けない。

 拳を振るう、それだけだった。

 正確無比な動きで、水弾が次々と打ち落とされていく。

「いやなんで拳で落とせるんですか!?」

「慣れ?」

 ユリウスの魔法もありえないぐらいの水弾が飛び交っているのに意味が分からない。

 その水弾の嵐の中、不意にレンティスがショートソードを抜き、横薙ぎに空気を裂く一閃を放った。

 その直後、水弾に紛れて飛来していた鋭い岩の棘が砕け散った。

 

「やるね!」

 

 レンティスが嬉しそうに笑い、ユリウスが舌打ちした次の瞬間には、レンティスの姿がユリウスの目前まで迫っていた。

 ユリウスへ掌底が放たれるが、咄嗟に地面から土壁を隆起させ、その衝撃を逸らす。

「っ!?」 

 その直後、横から回し蹴りが脇腹へ叩き込まれた。

 鈍い衝撃にユリウスの身体が横へ吹き飛ぶ。

 

「ユリウス!」

 叫んだ瞬間、レンティスが今度はリュカへ向き直った。

 水弾が放たれ、リュカは即座に守護結界を展開した。

 しかし、水弾は結界へぶつかる寸前で弾け、白い霧のような飛沫が一気に広がると視界が真っ白に染まる。

「なっ……!?」


 まずい。

 直感が叫んだ。リュカは反射的に槍を両手で横へ構え、頭上へ掲げる。

 その瞬間に重い衝撃で腕が軋む。

 レンティスのかかと落としが、槍の柄へ叩き込まれていた。

 

「お、勘がいい」

 

 感心した声が落ちる。

 だが安心する暇なんて無く、レンティスはそのまま槍の柄を踏み台にし、空中で身体を捻ると、かかと落としとは逆の足が、リュカの肩へ叩き込まれた。

 視界が回転し、リュカはそのまま地面へ激突した。

 息が止まり、肺が悲鳴を上げる。

 空を見上げるリュカの視界に、上から覗き込むレンティスの笑顔が映った。

「うんうん、ちゃんと見えてきてるねぇ」


 その後も、レンティスとの模擬戦は延々と続いた。

 攻撃を仕掛ければ捌かれ、崩されたところへ的確な一撃が飛んでくる。

 だがレンティスはただ叩きのめすだけでは終わらない。

 

「今の避け方良かったよ。でもその後足止まってる」

 

「ユリウス、攻撃に意識寄りすぎ。周り見えてない」

 

「リュカ君、その槍の引き戻し遅いねぇ。そこ狙われたら終わるよ」

 

「うん、今の連携はかなり良い感じ」

 

 戦いながら、次々と言葉が飛んでくる。悪い所も、良い所も、改善点も全部見えているらしい。そして直後に殴られる。

 理不尽だった。

 

 気づけば外はすっかり暗くなっていた。

 訓練場の地面へ、リュカは大の字になって転がる。

 全身が痛い。腕も脚も腹も背中も、全部筋肉痛だった。

 治癒魔法を使えば痛みは楽になるのに、その気力すら残っていない。

 隣ではユリウスも同じように肩で息をしながら座り込み、片膝を立てて空を見上げていた。

 レンティスだけが平然としている。

「うん。やっぱり魔法使うと動きが良くなるね。やっぱ冒険者だからかなぁ」

 爽やかな笑顔だった。

 なんでこの人だけ汗ひとつかいてないんだ。

 リュカは半目で空を見ながらそんな事を思う。

 

「今日はここまでにしようか。また明日、朝、九の刻からやるからちゃんとおいでね?」

 

 その言葉に、リュカとユリウスは同時に遠い目をした。

 明日もやるのか。

 するとレンティスは振り返り、部下二人へ声をかけた。

「ドラン、ゼノン。そっちはどう?」

「そうっすねぇ、動きはまぁぼちぼちってとこかと」

「個人戦は良くてもあまり集団戦に慣れてない感じでしたね」

 

「ふぅん、ま、明日そこも詰めていこうか」

 

 さらっと恐ろしい事を言い、憲兵団の面々からさりげなく絶望の気配が漂った。


「じゃあ今日は終わり。昨日話してた酒場行くよぉ。僕の奢りね」

「っしゃあ!隊長あざっす!」

「ご馳走になりまーす!」

「ホントお前らこーいう時だけ調子いいよねぇ」

 笑いながら去っていく三人。

 その場に残されたのは、疲労で地面に転がる人間達だった。

 誰かが小さく呟く。

「……明日もこれかよ……」

 その声に、周囲が静かに項垂れる。

 同時に、エルドリア王国最高戦力の一端を見せつけられた恐怖も、その場には確かに漂っていた。

 

 しばらくして、リュカはようやく自分へ治癒魔法をかけ、ゆっくりと身体を起こした。

 少し遅れてユリウスにも光をかける。

「……死ぬかと思った……」

「まだ死んでないだけマシだろ……」

 二人揃って立ち上がるが、足元はふらついている。そのままよろよろと訓練場を後にした。

 近くの食堂へ入ると、二人は無言で肉料理を注文した。

 焼き肉、煮込み肉、串焼き、とにかく肉。

 運ばれてきた料理を、ひたすら黙々と食べ続ける。身体が栄養を求めていた。

 最後に水を一気に飲み干し、ようやく人心地つく。

 リュカが椅子へもたれながら呟いた。

「……ヤバくない?あんなに動いてたのに息ひとつも上がってないとかさ」

 ユリウスは苦笑する。

「……レンティス兄さんは昔からあんな感じだ」

「あんなに手も足も出なくて一方的に転がされるとか久しぶりだった」

「それはそうだな」

「ユリウスが一度も勝てたこと無いって言ってた理由が分かる…」

「……規格外過ぎるだろ?」

「うん……次元が違うって感じだ」

 思い返すだけで胃が痛い。だが、同時に不思議な高揚感もあった。

 リュカはテーブルへ肘をつきながら、小さく笑う。

「でも少し悔しいよなー……明日はせめて一撃ぐらい入れたい……」

「そうなんだよ……」

 ユリウスも同じ気持ちらしい。

「言われてわかる事もあったし勉強になった」

「そう!レンティス兄さんは厳しいけど分かりやすく教えてくれるからな」

「マジでそれな」

 理不尽なくらい強い。でも、ちゃんと見てくれているからこそ悔しい。

「せっかくの機会なんだ。少しでも何か吸収して成長しないとただの転がり損だぞ?」

「本当にな……」

 リュカはぐっと拳を握る。

「……よし、明日は何としてもどっかに一撃喰らわす!」

 その宣言に、ユリウスも少し笑った。

 食堂を出て宿へ向かう頃には、二人の足取りはさっきよりほんの少しだけ軽くなっていた。

これから酒場で号泣すると思えない部下二人。そして爆弾投げ込むレンティスというね。


リュカとユリウスはとにかく遅めの青春してます。完全に部活動終わりの男子の行動。

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