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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2.5章 閑話のような。
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閑話 レンティスお兄ちゃんといっしょ!①

お察しの模擬戦はどんな感じだったのか。

お兄ちゃんの実力やいかに?

 ライラの実家に向かう、セラフィナとライラを見送った頃には、もう昼が近い時間になっていた。

「とりあえず飯でも食うか」

「だな。流石に腹減った」

 ユリウスの提案にリュカも頷き、二人は港町の屋台通りへ向かう。

 海沿いの街らしく、漂ってくる匂いは香ばしい魚介ばかりだった。

 串焼き、貝の蒸し焼き、魚のスープ。

 どの屋台も活気に満ちていて、前回この通りへ来た時とはまるで見える景色が違う。

 あの時はルシアンへの尋問後の葛藤で、全く余裕なんて無かった。

 だからこそ今回は、ちゃんと“美味い”と思える事が少し嬉しかった。

「魚料理もやっぱり美味いよなー!焼いただけなのに。川より海の魚の方が味濃いめな気がする」

「そうだな。貝とかも美味い」

「マジでそれなー!」

 広場のベンチへ座り、串焼きを片手に頬張る。

 塩気の効いた魚は脂が乗っていて、噛むたびに旨味が広がった。

 リュカが満足そうに息を吐いた、その時だった。

 突然、後ろからぐいっと肩を組まれる。

 

「見ーっけた!お、美味しそうなの食べてるねぇ」

 

「レンティス兄さん!?」

 ユリウスとリュカの間へ強引に割り込んできたのは、満面の笑みを浮かべたレンティスだった。

 後ろには、いつもの部下二人の姿もある。

「いやー、今回ガルディアに来た名目の軍事演習及び訓練のさ、訓練もやっとけって言われちゃってさぁ」

「えっ」

「まぁ僕としてはアストレアは全然手応えなくて面白くなかったから消化不良って感じだし?」

「えっ……」

 嫌な予感しかしない。

 リュカがじわじわ顔を引きつらせる中、レンティスはやたら爽やかな笑顔で言い放った。

 

「って事でせっかくだし模擬戦しよう!」

 

「えぇ……」

 完全に困惑した声が漏れた。

 

 その数十分後、レンティスの飛竜部隊、捕虜の捕縛の為に来ていたフェンリスの憲兵団、さらにリュカとユリウスが集まり、合同訓練になっていた。

 ボードウェルギルドの訓練場には大勢の人が集まり、既に準備が始まっている。

 レンティスは先程までの軽い雰囲気を消し、憲兵団の兵長と淡々と話していた。

「しばらく基礎訓練をした後、憲兵団の皆様は私の部下と模擬戦をしてもらいます」

「部下、と言ってもお二人ですが……ご負担では?」

「あぁ、大丈夫です。二人共ヤワな鍛練はしていませんから。何なら多対数でも構いませんよ」

 にっこり笑っているのに、圧が凄い。

 兵長が若干引いているのが見て取れた。

 

「あー……隊長の無茶ぶりがまた始まったぁ……」

「いつもの事だろ……」

 ドランとゼノンと名乗った部下二人は、大きなため息を吐きながら木剣を手に取る。

 だがその顔に焦りは無く、慣れているのかむしろ諦めの境地に近い。二人はそのまま憲兵団側へ歩いていった。

「ユリウスとリュカ君はこっち」

 レンティスに手招きされ、二人は別の場所へ連れて行かれる。

 そこはギルド内でもかなり広めの模擬戦用広場だった。

 レンティスは中央へ立つと、腰の剣にも触れず、そのまま振り返る。

「君らは僕が相手するね。最初は二人でかかっておいで。僕に武器を出させたらとりあえず勝ちって事でいいよ」

 そう言って、素手のまま二人へ人差し指を向けた。

 来い、とでも言うように軽く手招きする。

 その姿はあまりにも自然で、無理をしている様子も、強がっている感じもない。

 本当に、それで十分だと思っているのだ。

「素手って……マジか……」

 思わず呟いたリュカへ、隣のユリウスが静かに口を開く。

「……本気で行かないとすぐ地面を舐める事になるぞ」

「……分かった」

 ユリウスの声には一切からかいのトーンは無かった。

 リュカは小さく息を吐き、槍の柄を握り直す。

 その瞬間、レンティスの笑みがほんの少しだけ鋭くなった。


 訓練用の槍を握り直しながら、リュカはじわりと手のひらに滲む汗を感じていた。

 目の前に立つレンティスは、相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま。まるで散歩にでも付き合うような気軽さなのに、全身から漂う圧だけは異様だった。

 隣でユリウスが小さく息を吐く。

「……行くぞ」

「おう」

 二人同時に地面を蹴った。

 真正面から突っ込むユリウスに合わせ、リュカは少し角度をずらして踏み込む。ユリウスの剣が左肩を狙い、リュカの槍が右足を薙ぐように走った。

 タイミングは悪くない。挟み込む形も綺麗だった。


「……え?」

 

 だが、振り抜くはずだった槍が、途中で完全に止まった。

 視線を落とせば、レンティスが軽く足を乗せているだけだった。槍の柄を踏みつけられている訳でもない。ただ先端近くを、絶妙な角度で押さえ込まれている。

 その横では、ユリウスの剣をレンティスが右手一本で掴んでいた。

「は……?」

「うん、狙いは良いけど二人共分かりやすすぎるなぁ」

 柔らかな声がしたその直後だった。

 レンティスの左手が霞むように動いたかと思えば、次の瞬間には二人の腹へ掌底が叩き込まれていた。

 視界が揺れ息が詰まる。

 リュカとユリウスはそのまま後ろへ吹き飛ばされた。

 なんとか体勢だけは崩さず着地したものの、肺の空気を一気に持っていかれ、二人同時に膝をつく。

 腹の奥が熱く、鈍い衝撃がまだ残っている。

「……相変わらずキツイな」

 ユリウスが顔をしかめる。

 レンティスは感心したように笑った。

「うん。結構力込めたけど、二人とも武器手放さなかったのは良いね」

「……戦場では武器落とした時点で詰みなんで」

 荒い呼吸のまま、リュカは自分とユリウスへ治癒魔法をかける。淡い光が身体を包み、痺れるような痛みが引いていった。

「ふぅん、回復の速さもリュカ君の強みだね。ユリウスもだけどタフだなぁ」

「そりゃどうも……!」

 再び踏み込む。

 今度はフェイントを混ぜる。ユリウスが正面から圧をかけ、リュカが死角側へ回る。


「はい、甘い」

 

 だが、気づけば身体が宙を舞っていた。

 また地面、また衝撃。

 そこから何度も挑み続けた。

 連携を変え、攻め方を変え、タイミングをずらしても、レンティスはまるで全部見えているみたいに捌いていく。

 

「ほらほら、ここガラ空きになっちゃってるよ」

 

「ユリウス、振りが雑になってきてる」

 

「お、今のは良いね」

 

「そうそう、動き良くなって来てるよ」

 

 戦いながら普通に会話してくるのが恐ろしい。

 しかも全部ちゃんと見えている。

 リュカは歯を食いしばりながら槍を振るった。最初に比べれば、吹き飛ばされるまでの時間は確実に延びている。

 だが、それでも届かない。汗が額を流れ、呼吸が重くなる。腕も脚も悲鳴を上げ始めていた。

「っ……!」

 それでも、踏み込みと同時にリュカは槍を突き出した。

 ユリウスの斬撃に視線が向いた瞬間を狙った一撃。今までで一番鋭く入った感触があった。

 槍の穂先がレンティスの急所へ届く――その寸前。

 カン、と乾いた音が響く。

 レンティスが腰に下げていた木剣を抜き、リュカの槍を弾いていた。

 その場が一瞬静まると、レンティスはにっこり笑った。

 

「あ、つい抜いちゃった。君たちの勝ちだね」

 

「…………は?」

 リュカは肩で息をしながら固まった。隣ではユリウスも荒く呼吸している。

 対してレンティスは、息一つ乱れていない。

「……えっ…なんで……息も上がってない…の…レンティスさん…」

「……本当に……相変わらず……規格外過ぎる……」

 二人が息も絶え絶えにそう漏らすと、レンティスは不思議そうに首を傾げた。

「ユリウスもリュカ君も無駄な動きが多すぎるんだよなぁ。勿体ない。そりゃ疲れるでしょー」

 まるで散歩後の感想みたいな口調だった。

 リュカは乾いた笑いしか出ない。

 いや、無理だろこれ。どうやったって勝てる見通しが立たない。

 そう思っていると、レンティスは木剣を肩に乗せながら再び笑う。

 

「さ、じゃあ次は一人ずつかかっておいでよ。吹っ飛ばされたら選手交代ね」

 

 その笑顔の後ろに、リュカは一瞬、巨大な鬼の幻覚を見た気がした。

鬼強い飛竜部隊隊長。

リュカもユリウスも強いんですけど、上には上がいる。

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