66話 依頼達成、そして帰還
途中からリュカ視点になります。
夜明け前の薄暗い港に、大型船がゆっくりと接岸した。
海風に混ざって、慌ただしく動く人々の気配が広がっていく。
拘束されたアストレアの神殿騎士や船員達が、次々と船から降ろされていった。
武装したガルディア側の兵士達が周囲を固め、そのまま整列させながら移送の準備を進めている。
ファイフとレンティスの説明によると、捕らえた者達は全員、首都フェンリスにある強固な牢へ輸送されるらしい。
神殿騎士に船員まで含めれば、その数は六十二人。
これだけの人数を一度に捕虜にした事実は、間違いなく各国に大きな影響を与えるだろう。
だが、それをアストレア王国がどう扱うのかまでは分からない。
交渉材料として扱うのか。
あるいは、全て切り捨てるのか。
港で忙しなく動く兵士達を眺めながら、リュカはぼんやりそんな事を考えていた。
もっとも、その先はもう冒険者の領分ではない。
ファイフが腕を組みながらユリウスへ視線を向ける。
「うちからの最後の依頼として、フェンリスまでの護衛を頼んでも受けてくれるかい?」
「あぁ。引き受けた。後、借りたスレイプニルがウィンデルの町に預けっぱなしになってしまっているんだが……」
「あぁ、かまやしないよ。トリバーが預かってるんだろ? 一言言っておけばそのうち勝手にフェンリスまで届けに来るさ」
「……そうか。すまない」
「世話になったね。今日はこれでもう休んでおくれ。昨日と同じ宿に部屋を取ってあるよ」
「承知した。感謝する。ではまた明日、朝の九の刻にギルドに向かおう」
「あぁ、分かった」
話を終え、港を後にする。
宿へ向かう道すがら、ライラが大きく伸びをした。
「ようやく終わった感じねー!」
「そうだな。まぁまだ護衛依頼が残ってはいるが」
ユリウスの返事に、ライラは肩をすくめる。
「まぁそうなんだけど。結構な人数の輸送だし、護衛依頼期間も長くて二日ってとこかしら」
「……輸送準備の方が時間かかりそう」
セラフィナの呟きに、ライラが深く頷いた。
「ホントそれ」
「まぁそんなもんだよな。護衛はディン達も一緒なんだろ?」
リュカが振り返りながら聞くと、ディンが軽く手を上げた。
「そうっすね。俺らはフェンリスが本拠地なんで、護衛はついでってとこだけど」
「皆さんとご一緒出来るのも後ちょっとなの、残念です」
ロンが穏やかに笑う。その隣でリンもぶんぶんと大きく頷いていた。
「まぁ生きてりゃそのうち会えるだろ。あ、他国を旅するのも結構楽しいぞ」
「旅か。そのうちグレイスロウにも行ってみたいっすね」
「あぁ、もし来ることがあるなら連絡してくれ。いい宿を紹介するぞ」
「了解っす」
穏やかな空気のまま歩き続け、やがて宿の前へ辿り着く。
「じゃあまた明日、ギルドでね」
「お疲れ様でした!」
ディン達と別れ、四人もそれぞれ宿の中へ入っていく。
長かった依頼も、ようやく終わりが見え始めていた。
――――――――
次の日、冒険者ギルドで護衛依頼の段取りについて改めて打ち合わせが行われた。
昨日捕縛したアストレア側の人員は想像以上に多く、輸送準備には四日ほどかかるらしい。
応接室でファイフさん達から説明を受けながら、俺達は自然と顔を見合わせた。
ライラが椅子にもたれながら肩をすくめる。
「思ってた通り、輸送準備の方が時間かかるみたいね」
ユリウスも腕を組みながら頷いた。
「捕虜だけで中隊ぐらいの人数がいるからな。馬車の準備だけでも大変だろう」
「十人ずつぐらい詰め込んでも最低でも六台はいるもんな」
「大所帯だわね……」
俺も苦笑しながら机に肘をついた。
依頼自体は継続扱いらしく、四日後に再集合。それまではボードウェルで自由待機になったらしい。
ギルドを出た後、近くの通りを歩きながら俺は三人に聞いた。
「四日後、ギルドにまた行くまでの間どうする?」
ユリウスが振り返る。
「ボードウェルから出なければ好きに過ごしてくれて構わんぞ」
すると、少し考えるように視線を逸らしていたライラがぽつりと呟いた。
「……じゃあ私、一瞬実家の様子見て来ようかな……」
「え、ここ故郷なの?」
「そう。フェンリスは十歳で師匠追っかけて冒険者登録した所なの」
「へぇ。それなら何年ぶり?」
「家出てもう十五年ね」
さらっととんでもない年数を言われて、思わず目を丸くする。
ユリウスも少し驚いた顔をしていた。
「そういえば弟がいると言っていたな」
「うん。もう二十歳と十八歳になるんじゃないかな。……忘れられてそうよねぇ」
冗談っぽく笑ってはいたけど、その声は少しだけ不安そうだった。
すると隣を歩いていたセラフィナが、真っ直ぐライラを見上げた。
「……気になるなら行った方がいいよ」
その声は静かだったけど、不思議と説得力を感じた。
ライラは一瞬だけ目を瞬かせ、それから小さく笑う。
「……そうね。そうする」
結局、その後ライラは実家へ帰る事に決め、ライラにお願いされて、セラフィナも一緒について行く事になった。
二人とも宿に戻ってきたのは三日目の夜だった。
俺たち二人が後から宿に帰って来たら、その時には二人揃って魂でも抜けたみたいな状態で、俺とユリウスは揃って首を傾げるしかなかった。
「……何があったんだ?」
「……聞かないで……」
ライラは机に突っ伏していたし、セラフィナもぐったりしたまま無言で頷いていた。
結局その日は、それ以上何も聞けなかった。
まぁ、俺達の方も人の事を言えた状態じゃなかったんだけど。
ライラ達が実家へ行っている間、俺とユリウスはレンティスさんに捕まった。
本当に、文字通り捕まった。
「せっかくだし模擬戦しようよ!」
その笑顔から逃げ切れる人間は多分いない。
丸々二日、俺達はレンティスさん率いる飛竜部隊の相手をさせられる事になった。
あんなにしんどい模擬戦は初めてなぐらいしんどかった。途中から俺は笑うしかなかったし、ユリウスは途中で無言になっていた。内容は…まぁお察しという事で。
最後には満足したレンティスさんから満面の笑みで抱き締められ、俺達の模擬戦地獄はようやく終わった。
残り二日は、ほぼ回復期間だった。
身体の痛みは治癒魔法で取れるが、動く気力を回復するのに時間がかかってしまった。あんなに全身筋肉痛になったの、初めてかもしれない。
そして四日後。
ようやく輸送準備が整い、フェンリスまでの護衛依頼が正式に始まった。
用意された馬車は全部で七台。
そのうち六台には捕虜となった神殿騎士や船員達が押し込められ、最後の一台には依頼関係の荷物が積み込まれている。
護衛中は常に緊張感が漂っていた。
もしアストレア側が奪還に来れば、今度こそ国家規模の衝突になりかねない。
だから俺達も気を抜く事は出来なかった。
もっとも、実際に遭遇したのは馬を狙ってきた魔物が数回程度で、大きな問題は何も起こらなかった。
そうして予定通り二日をかけ、俺達は無事フェンリスへ到着した。
ギルド前でファイフが小さく息を吐く。
「長期間、ガルディアまで来てもらって本当に助かった。お前たちに依頼して正解だったようだ」
ユリウスが肩をすくめる。
「思っていたより大きな問題が出てしまったがな」
「ふん。そこは上層部がやってくれないと困る所だからね。私ら冒険者に出来る事はここまでさ」
「それもそうだな」
ファイフは俺達を順番に見回し、それから笑った。
「これで依頼は完了だよ。それぞれ達成報酬をタグに振り込んでおいたからまた確認しといておくれ」
「あぁ、分かった」
「預かっていた馬車は何時でも出せるようにしてあるよ」
「感謝する」
その横でライラが軽く手を上げる。
「じゃあ師匠、またそのうち」
「……ありがとうございました」
セラフィナも小さく頭を下げた。
ファイフはそんな二人を見て、どこか満足そうに頷く。
「あぁ、二人共しっかりやんなね。次は上級に上がってて欲しいもんだ」
するとライラが露骨に目を逸らした。
「うっ……ガンバリマス……」
その反応が面白くて、思わず吹き出しそうになる。
こうして、長かったガルディア連合国からの指名依頼は終わった。
結局、事件そのものは不穏な影を残したままだったけど、それでも俺達は確かに前へ進んでいた。
ユリウスは実家との関わり方にちゃんと向き合ったみたいだ。
ライラも兄弟との関係を再構築した。
セラフィナもたくさん感情が出せるようになった。
俺も、自分の居場所をちゃんと見つけられた気がする。
色んな関係が変わっていくけれど、俺達のパーティとしての活動は、まだ始まったばかりだ。
……まぁ、その時の俺は知らなかったんだけど。
グレイスロウへ帰った後、俺達がまたこの騒動の一端に巻き込まれる事になるなんて。
これにて2章終了しました。
一番書きたかった、リュカとセラフィナの恋模様と、セラフィナの過去のお話まで辿り着けて少し安心しています。
次章からはもう少しジャンルに恥じないように甘めの雰囲気を足していきたい…。
3章で終幕予定となりますので、もう少しおつきあいください。
そしてこれで話のストックが無くなりまして。3章は書け次第投稿するようになると思うので、今までみたいに毎日更新とはいかないと思いますが、お待ちいただけましたら幸いです。
そして今まで上げてた話もちょっとづつ修正していきたいと思ってますので、そっちも時間取りそうですね…
仕事の合間に書いてるので、どうぞご了承くださいませ。
次回更新から、何話か閑話を投稿予定です。よろしくお願いします。




