63話 終息
ディン達と手分けしながら、まだ拘束の済んでいない船員達を次々と縛り上げていく。甲板の中央には、既に意識を失った船員達が転がされ、縄でまとめられていた。
その間も、見張り台の上ではセラフィナが火球を維持し続けている。夜の海の上に浮かぶ光源は、大型船全体を昼間のように照らし出していた。
やがて見張り台の縁にセラフィナの姿が現れる。ゆっくりと風魔法を使い降り始めたところで、下からリュカが手を差し出した。
セラフィナは少しだけ頬を染めながらその手を取り、静かに甲板へ降り立った。
「大丈夫か?マナポーションは?」
「降りる前に使ったよ」
「うん。それならいいんだ」
自然に手を離したリュカに、セラフィナは小さく息を吐いた。
全員の拘束が終わったところで、五人は一度集まる。
縛られた船員達を見下ろしながら、ディンが疲れた顔で二人を見た。
「……あのユリウスさんとライラさんと組んだ冒険者ってどんな人かと思ってたけど、あんたらも大概すげぇんだな」
リュカとセラフィナは揃って首を傾げた。
「いや無自覚かよ!何あの火球!!なんであんなに維持出来てんの!?リュカさんもヒーラーとか嘘過ぎるでしょ!!なにあの動き!前衛じゃん!」
「あー……まぁ、一応俺、上級冒険者だし?セラフィナは単独で活動してたから上級冒険者じゃなかっただけだし?ディンも上級冒険者だったよな?そんなもんでしょ」
「うぅん……納得いかねぇ……」
ディンは頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
「兄さんは考え過ぎなんだよね」
「そうそう。あのグレイスロウで活躍出来る冒険者だよ?そりゃ強いに決まってるよ」
リンとロンが呆れたように肩を竦める。
しかし次の瞬間、リンは勢いよくセラフィナ達へ振り返った。
「兄さんの事はどーでもいいんだけどさ、もうほんとにユリウスさん噂通りカッコいいしー、リュカさんもカッコいいしー、ライラさんも相変わらず美しいしー、セラフィナさんも綺麗だしこのパーティどーなってんの!?」
「え、リンが気にするのそこな訳?」
「はぁ?ロンは分かってないわね!憧れの人に並ぶパーティメンバーがこれだったらもう許すしか無くない!?」
ロンに詰め寄りながら、リンは本気の顔で力説する。
「……すまんな。リンはライラさんに憧れててな……」
今度はディンが呆れたように妹を見る。
「あ、ユリウスじゃなくてそっちなんだ」
「ライラさんがフェンリスから旅立つ時にまだリンは十二歳の新人冒険者だったんだけど、その時に見た立ち姿が美しくてずっと忘れられなかったんだってよ」
「今回結構一緒に行動してなかった?」
「出来るだけ変な行動しないように抑えてたらしい」
「ふーん……まぁ……後でゆっくり話したらいいんじゃない?」
リュカは途中から理解するのを放棄したような顔でそう答えた。
その横で、セラフィナは小さく笑みを零す。
つい先程まで張り詰めていた甲板の空気が、ほんの少しだけ和らいでいた。
――――
下層へ続く階段を駆け下りた直後だった。通路の角から、鋭い水弾が一直線に飛来する。
ユリウスが剣へ手をかけるより早く、後方から別の水弾が放たれた。
二つの魔法が真正面から衝突し、狭い通路に白い水蒸気が広がる。
一瞬で視界が奪われた。その霧の中を、何かが滑るように前へ出る。
レンティスだった。
ユリウスも、ライラも、先頭を走っていたファイフさえ追い越し、白く霞む通路を音もなく駆け抜けていく。
次の瞬間、鈍い衝突音が短く連続して聞こえた。霧が晴れた時には、魔法を放ってきた船員達が壁際に崩れ落ちている。
レンティスは何事も無かったかのように振り返った。
「後十三」
「え……?今何やったの?」
ライラが呆気に取られた顔で目を丸くする。
「んふふ、さぁね?さ、船室も多いし手分けして制圧するよ。ライラちゃん、ごめんけどこれの拘束よろしくね」
楽しげに笑いながら、レンティスは再び通路の奥へ進んでいく。
「……レンティスさん、ヤバ強いのね……」
「あぁ」
「……ご領主様一家って怖……」
「……俺は普通だからな?」
「はぁ……普通の基準を学んで来なさいな」
「?」
「まぁいいわ。ここは私がやっとくから」
「頼んだ」
ユリウスは短く頷くと、そのままレンティスとファイフの後を追った。
三人は速度を落とさぬまま船室を片っ端から開け放っていく。
扉が開くと同時に中にいた船員が反応するより先に床に沈めていく。
次、また次と狭い通路を駆け抜けながら、残党を無力化していった。
二階層にいたのは船長を含め七人。三階層の機関室に四人。調理室に二人。
ライラが事前に索敵していた人数とぴたりと一致していた。
最後の一人を拘束し終えた頃には、船内は完全に制圧されていた。
全員を甲板へ集め終え、レンティスが首元へ手を当てながらぽつりと漏らす。
「終わったねぇ。……手応えなかったなぁ」
その言葉に、ライラが若干引いた目を向けた。
「まったく……なんなら私らはこっからが仕事だろう?」
ファイフが呆れたように肩を竦める。
「まぁそうですけどね」
レンティスは悪びれもなく笑った。
「さぁ、一旦ボードウェルに帰るよ!伝書鳥は飛ばしたから受け入れ体制は整ってるはずさ」
「魔導機巧搭載の船だから運転も楽だね。それは僕がやるよ。ユリウス手伝って」
「分かった」
「他の子達はファイフさんの指示に従ってね。じゃあ行こうか。ユリウス、僕がグレイスロウに居なかった間の話聞かせてよ!それ楽しみにして来たんだからさぁ!」
さっきまでの鋭い空気が嘘のように、レンティスは上機嫌で弟の肩を抱くようにして歩き出した。
ユリウスは小さく息を吐きながらも、どこか慣れた様子でそのまま機関室へ向かう。
その背中を見送りながら、ライラがぼそりと呟いた。
「……温度差すご」
「でも仲良さそうっすよね」
ディンが苦笑した。
ファイフは拘束された船員達を見回しながら手を叩く。
「みんなも御苦労だったね。ボードウェルに着くまではこいつらの見張りを順番にしながら休んでくれ」
「じゃあ最初俺らやります」
真っ先にディン達が名乗りを上げる。
夜明け前の海を、大型船は静かに進み始めた。
レンティスは過剰戦力すぎました。
グランスロット家はみんな末弟が大好きなのです。
ちなみにライラは気さくな美人なので男女問わずモテます(確信)




