表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
83/103

60話 そういう事。

 唇が離れたあとも、わずかに残る熱が空気の中に溶けずに留まっていた。

 リュカはそのまま指先でセラフィナの頬をなぞる。

「……真っ赤」

 その一言に、セラフィナの肩がわずかに揺れた。

「!……」

 少しだけ睨むように視線を向けるが、逃げきれない熱がそのまま表情に滲んでいる。

「ははっ……ホント可愛いなぁ……」

 リュカは心から楽しそうに、けれど大事な宝物を見るように目を細めた。

 その視線に耐えきれず、セラフィナはほんの少し視線を逸らす。

「……もう時間も遅いから、部屋まで送る」

「……向かいの部屋だから大丈夫だよ?」

「いいの。送らせて」

 言い切ると同時に、自然な動きでセラフィナの手を取る。指先が触れた瞬間、互いにわずかに力が入った。

 短い廊下を歩くだけの距離なのに、その一歩一歩がやけにゆっくりに感じられた。

 やがて部屋の前で足が止まるが、手はまだ離れない。

「…セラフィナ…今日はありがとな」

「ううん……もう、大丈夫?」

「……あぁ。もう迷いも無いよ。セラフィナのおかげ」

 その言葉に、セラフィナの表情がふっと緩む。

「良かった……じゃあ、おやすみなさい」

「うん。おやすみ」

 そう言って中に入り、扉を閉じるその瞬間。

「あ、セラフィナ」

「?なぁに?」

 顔を上げたその隙を逃さないように、リュカはセラフィナの額へと、軽く触れるだけの口付けを落とした。

 

「……出来るだけ、抑えるけど……二人でいる時は俺、遠慮しないから」

 

 低く、少しだけ熱を帯びた声。その瞳に宿るものに気づいて、セラフィナは思わず息を呑む。

「……好きだよ、セラフィナ。おやすみなさい」

 それだけ言って、リュカは扉を静かに閉めた。

 残されたセラフィナは扉の前に座り込んで、しばらくその場から動けなかった。

 

 翌朝、宿の入口前にはすでに三人が揃っていた。少し遅れて、リュカが姿を現す。

「おはよう。待たせてごめん」

「おはよう。待ってないから大丈夫だ。アレの相手は疲れただろうしな」

 ユリウスが小さく頷く。その言葉に、リュカも軽く肩をすくめた。

 何気なく視線を動かした先で、セラフィナと目が合うと、一瞬で彼女の顔が真っ赤に染まった。

 そのまま慌てたようにライラの後ろへと隠れる。

 その動きを見たライラの眉が、ゆっくりと吊り上がった。

 

「リュカ、ちょっとこっちきな」

 

 抑揚のない声でそう言うと、そのままリュカのローブの首元を掴み、抵抗する気が起きないほどの形相で建物の影へ引きずっていった。

「あ……ライラ……」

 背後でセラフィナが小さく声を漏らしたが、ライラの勢いは止められなかった。

 

影に入るなり、ライラはそのままリュカの首元を締め上げるように詰め寄った。

「あんた、セラフィナに何したの」

「ぁー……えっと……」

言葉を探すように視線を彷徨わせる。

「まさか……無体を働」

「それは絶対しない」

 被せるようにリュカは断言した。

「……うん。セラフィナが嫌がる事は絶対しないよ。俺」

 その一言と真っ直ぐライラを見る目に、ライラの手の力がほんのわずかに緩む。

「……まぁ、あんたはそういうやつよね。で、なんであーなってんの」

 リュカは頭を掻きながら視線を落とした。ほんの少しだけ昨日の出来事を思い出す。

 

「……セラフィナが好きだって伝えたんだ」

 

「……は?」

 ライラの間の抜けた声が落ちる。

「いや、もう、これ以上は言わせないで……」

 片手で顔を覆い、そのまま俯いた。珍しく、照れているようだった。良く見ると耳まで真っ赤になっている。

「は?あ、え?そういう事?」

 状況が追いつかず、目を瞬かせるライラ。

 その横で、小さく頷くリュカ。

 朝の光の中、昨夜の余韻はまだ消えきっていなかった。

 静かに熱を残したまま、時間はゆっくりと過ぎていった。


――――――

 

 ライラが鬼の形相のままリュカを引きずっていく光景を、セラフィナはただ見送るしかなかった。

 隣に立つユリウスも、同じようにその背中を眺めている。

 しばらくして、ユリウスがふと視線を横に向けた。

「……昨日、リュカと何かあったのか?」

 何気ない調子の問いかけ。けれど、その一言でセラフィナの頬が一気に熱を帯びる。

「……あの……」

 俯いたまま、言葉が続かない。

 その反応を見て、ユリウスは一瞬だけ考えるように目を細めたあと、思いついたままを口にした。

 

「……なんだ?リュカに想いでも告げたか?」

 

「え!!?あっ…………う……ん」

 思わず顔を上げかけて、すぐにまた視線を落とす。小さく頷くその仕草は、隠しきれないほど分かりやすかった。

 言った本人のユリウスが、逆に驚いたように目を瞬かせる。

「そうか。そういう事だったか。うん。セラフィナは見る目があるな」

 納得したように頷いたユリウスはふっと柔らかく笑うと、セラフィナの肩を軽く肩を叩いた。

 その気安さに、セラフィナは少しだけ戸惑いながら顔を上げた。

「……パーティ内でそういうの、嫌じゃないの?」

 遠慮がちに投げた言葉にユリウスはあっさりと首を横に振る。

「あぁ。気にするな。お前達が楽しそうにしてるならそれでいいんだ。……二人とも、依頼にそういう感情を持ち込むような人間じゃないだろう?」

 穏やかで、それでいてよく見ている言い方だった。

「うん……それは大丈夫。ちゃんとやる」

セラフィナも、しっかりと頷く。

「ふふっ……それでいいんだ。そうかそうか。なんか良かったな」

「?」

「少し、安心したって事だ」

「安心?」

「リュカとセラフィナはどこか似てるからな。収まるべきところに収まった、と思ってな」

 そう言って、ユリウスはどこか楽しそうに笑った。その笑顔に、セラフィナの胸の奥も少しだけ軽くなる。

 やがて、建物の影からリュカがローブの首元を掴まれたままの状態でライラに引きずられるようにして戻ってきた。

「……なんか楽しそうね」

 ニコニコしているユリウスを見て、ライラが怪訝そうに首を傾げる。

「あぁ」

「……まぁいいわ。……セラフィナ、後でちょっとお話しよ」

「…うん」

 少しだけ緊張した声で頷くセラフィナ。

「よし、行きましょ!!朝ご飯を食べに!!」

 空気を切り替えるように明るく言うと、そのままセラフィナの腕を取って歩き出す。

 引っ張られるようにして進む背中を、リュカは少しだけ目を細めて見送った。その後ろで、ユリウスと並んで進んだ。

「……昨日より顔色がよくなったな」

 横目で見ながら、ユリウスはくすっと笑う。

「…………セラフィナに聞いた?」

「詳細は知らんが、昨日の空元気より今の方がよっぽどいいぞ」

 あっさりと言い切られ、リュカは少しだけ肩を落とした。

「……お前にもバレてんなら俺もまだまだだなぁ……」

 眉を下げ、小さくため息をつく。

「リュカは色々考え過ぎだな」

「そうか?」

「そうだ」

 間髪入れずに返されるそのやり取りに、リュカも少しだけ力が抜けたように笑う。

「……そっか」

「まぁ頑張れよ。……大事にしてやれ」

 

「あぁ。そのつもり」

 

 何の迷いもなくさらりと返す、あまりにも自然な返答に、ユリウスは一瞬目を丸くしたあと、堪えきれずに小さく吹き出した。

 朝の光の中、四人の距離は少しだけ変わった。けれど、その空気はむしろ柔らかくなっていて。

 これから向かう嵐の前の静けさのように、穏やかで、確かな温もりを帯びていた。

察しのいい保護者二人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ