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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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59話 誤魔化せないから

「消化……?」

 小さく問い返す声に、リュカはわずかに視線を逸らした。

 

「うん。……なんていうかさ、アストレアがやらかしてる事が多すぎて、どうしようかなって」

 

 言葉にしながらも、自分の中で整理しきれていないのが分かっているような声音だった。

「……?」

 セラフィナは首を傾げる。その反応を見て、リュカは力なく笑った。

「ははっ……分かんないよね。俺も分かってない」

 曖昧に濁すような言い方だった。

「……だって、リュカがやった訳じゃないよ?」

 まっすぐな言葉だった。一切の迷いも含まない、ただの事実。

「うん、まぁ、そうなんだけどね」

 それでもリュカは、どこか納得しきれないまま、また困ったように笑う。

 二人の間に静寂が広がるその間に、リュカの表情がゆっくりと沈んでいった。

 

「…………セラフィナの故郷を襲ったのだって、俺のいた国だった」

 

 ぽつりと落ちた言葉はひどく重く響き、視線は落ちたまま、動かない。

「俺も、国がやってた事知らなかったにしろ、ずっと戦場にいた。たくさん仲間を治したけど、たくさん人も殺してる。これだって、国がやってた事に加担してるよな……同罪だよ」

 

 膝の上で組んだ手に、力がこもる。指が食い込むほどに握り締められ、その震えを押し殺すように。

 

「ごめんな……セラフィナ……」

 

 掠れた声で謝罪が零れた。自分でも分かっている。おかしい謝罪だと。それでも口にせずにはいられなかった。

「……なんでリュカが謝るの?」

 すぐに返ってきた声は、静かで、それでもはっきりとしていた。リュカはそれに答えられず黙り込む。

「そんなの、おかしいよ」

「……ごめん……」

 顔をあげられないまま、また同じ言葉が落ちる。


 その様子を見て、セラフィナは静かに立ち上がり、リュカの前にしゃがみ込んだ。

 握りしめられた手にそっと触れ、強張った指先に、自分の両手を重ねて包み込んだ。

「セラフィナ……?」

「……謝らないで」

 その言葉にリュカは何も返せない。セラフィナはじっと彼を見つめていた。

 今にも崩れそうな表情が、はっきりと見える距離で。

 

「私は、リュカに救われたよ?」

 

「……」

 返事はないけれど、視線がわずかに揺れる。

 

「リュカが……グレイスロウに来てくれたから、私は、救われたの」

 

「セラフィナ……」

 かすかに名前を呼ぶリュカの声。

 

「……これまで、ずっと……夜の闇を歩いてた。でも、あなたに出会ってから、世界は明るいんだって、知れたんだ」

 

 その言葉に、リュカの目が大きく見開かれる。


 

「リュカは私を……明るく照らしてくれた光なの」


 

 セラフィナの瞳に涙が浮かぶ。それでも逸らさず、リュカにまっすぐに、届けるように言葉を紡ぐ。

 

「あなたは人をたくさん殺してしまったって言うけど……私だって同じだよ」

「それは!」

 反射的に声が強くなるが否定しようとしたその言葉を、セラフィナは静かに遮った。

「違わないよ……」

 優しく、それでも揺るがない声。包んでいた手に、少しだけ力を込める。

 

「魔力暴走のせいでも、村の人達も一緒に……全部、消し飛ばしてしまったから」

 

 その事実を、逃げずに口にする。

「セラフィナは悪くないよ……」

「リュカだって、一緒だよ?」

 思わず出た言葉にセラフィナは静かに返した。

「……?」

 

「戦争だから……そうやって生きるしか出来なかっただけ」

 

 視線は逸れず、まっすぐに彼を見つめている。

 責めるでも、慰めるでもない。

――ただ、同じ場所に立つ言葉。

 

「生きていてくれてありがとう。……私と出会ってくれてありがとう」

 

 そう言って、セラフィナはふわりと笑った。

 その笑顔を見た瞬間、リュカの中で張り詰めていたものが崩れ、堪えていた涙が、静かに溢れた。

 

「……セラフィナ、ごめん」

 

 かすかな声で呟くと同時に、身体が動いていた。

 そのままセラフィナを抱き竦め、視線から逃げるように、肩に顔を埋めた。

 

 触れた体温にセラフィナは一瞬だけ驚き、身体を強ばらせたがすぐに力を抜いた。

 肩に顔を埋めているリュカに頭を寄せると、背中にそっと手を回し、優しく抱きしめ返した。

 言葉はなかったが、その静かな温もりだけで、今は十分だった。


 しばらくのあいだ、互いの体温を確かめるような静かな時間が続いていた。

 やがて、リュカがわずかに顔を上げる。

 近すぎる距離で視線がぶつかる。リュカの赤く染まった目元が、そのまま晒されていた。

 リュカは何かを確かめるように、そっと手を伸ばし、セラフィナの頬に触れた。

 指先は驚くほど優しく、壊れ物を扱うように慎重だった。

「……セラフィナ……」

 名前を呼ぶ声は掠れている。

 その瞳は、先ほどまでの迷いとは違う熱を帯びていた。愛おしさを隠そうともしていない、まっすぐな光。

 

「……こんな時に言うのは卑怯だなって自分でも思うけど……」

 

 小さく、力の抜けた笑みがこぼれる。


  

「俺、セラフィナが好きだ」

 

 

 言葉は、驚くほど静かに落ちたけれど、その重さは逃げ場がないほど確かだった。

 セラフィナの目が大きく見開かれる。

 理解が追いつくより先に、じわじわと熱が頬へと広がっていく。

 

「……もう、無理だ。誤魔化せないぐらい、セラフィナが好きなんだ」

 

 頬に添えた親指が、そっと輪郭をなぞる。

 触れられた場所から、熱がじんわりと広がっていくような気がした。

「……セラフィナは?」

「ぁ……」

 声にならない。胸の奥が詰まるようで、うまく息ができない。

 それでも、視線だけは逸らせなかった。潤んだ赤い瞳のまま、見上げる。

 その様子を見て、リュカは困ったように眉を下げて笑った。

 

「……そんな可愛い顔されたら同じ気持ちだって勘違いしそうだ」

 

 セラフィナは思わず両手で顔を隠した。けれど、隠しきれない熱がそのまま滲んでいる。

「…………ぃよ」

 かすかな声が漏れた。

「ん?」

 

「……勘違い、じゃ、ないよ」

 

 ゆっくりと手を下ろし、全体を隠していた指先が口元まで下りると、真っ赤になった顔のままリュカを見上げた。

 

 その言葉を受けた瞬間、リュカは思わず視線を上に逃がした。天井を仰ぎ、深く息を吐く。

「……リュカ?」

「ちょっと待って……」

 何度か呼吸を整える。それでも胸の内の熱は収まらない。

 ようやく視線を戻し、もう一度セラフィナと向き合うと、再び、頬に手を添える。

 さっきよりも、少しだけ確かめるような触れ方だった。

 

「……もっと、セラフィナに触れてもいい?」

 

 その問いかけに、わずかに声に震えが混じる。リュカは自分の耳の先まで赤くなっているのが分かった。

 セラフィナは小さく頷いた。その仕草だけで十分だった。

 リュカはゆっくりと身を寄せ、まるで宝物に触れるように、額へと口付けを落とした。

 次に目元。閉じられた瞼の上に、そっと触れる。

 そして頬へ。指先と唇、どちらも同じくらい優しく、確かめるように触れていく。

 呼吸が近い。互いの吐息が、かすかに混ざる。

 頬に添えた手の親指が、セラフィナの唇の輪郭をなぞった。触れるか触れないかの、その境界を行き来するように。

 

「……ここも、いい?」

 

「……ん」

 小さな肯定が返ってきた。リュカはそっと顎を上げさせる。

 両手を耳元に添え、逃げ場をなくすように、けれど決して強くはなく。ゆっくりと距離が縮まる。

 そしてほんのわずか、唇が触れた。

 

 重なっただけの口付け。

 

 それだけなのに、触れた所が熱く、胸の奥が激しく波打つ。息をすることすら忘れそうになるほどだった。

 そっと離れるが余韻だけが唇に残り続けていた。

 

 リュカはそのままセラフィナを抱き寄せた。再び肩に顔を埋める。さっきよりも、少しだけ深く。

 

「……これ以上二人でいたら歯止めが効かなくなりそうだ」

 

 ぽつりと本音が落ちた。

「……?」

 意味が分からず首を傾げる気配がして、その反応に、リュカは小さく笑った。

 

「ははっセラフィナといれて嬉しいって事だよ…ありがとな」

 

 そう言って、少しだけ肩から顔を上げる。

 そしてもう一度、今度はさっきよりもほんの少しだけ長く、唇を重ねた。

 言葉よりも確かな形で、互いの気持ちを確かめるように。



ようやく、お互いの気持ちが交差しました。

ここまで長かった…でも書けて良かった。

セラフィナのセリフが、この作品のタイトル回収になってます。

セラフィナはリュカに救われて、リュカはセラフィナに救われる、それを書きたくて、この話をここまで書いていました。

話はまだまだ続きますのでよろしくお願いします。

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