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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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58話 違和感

途中からセラフィナ視点寄りに変わります。

 ギルド前のベンチに座っていた二人を見て、ファイフはわずかに首を傾げた。

「情報を聞き出すのが早かったね。随分疲れているようだが」

 その視線は自然とリュカへ向いている。だが答えたのはユリウスだった。

「……一人、協力的でな」

 乾いた苦笑が混じる。

「……協力的?恩情狙いか?」

「いや、そうじゃなくてだな……なんといえばいいか」

 言葉を探すように腕を組み、ほんのわずかに眉を寄せる。説明しようとして、途中で諦めたように息を吐く。

「……まぁ、実際会えば分かる」

 それだけで打ち切った。ファイフは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、深くは追及しなかった。

「一旦中に入ろう。今日聞き出せた事を共有しておくれ」

「あぁ。そのつもりだ」

 ギルドの中へ入り、応接室を借りる。全員が席に着くと、ユリウスが淡々と口を開いた。

 ルシアンから聞き出した内容が、一つずつ整理されていく。研究所の存在、不死の研究、各国での“素材集め”、輸送方法、関わる人間。

 話が進むにつれて、ファイフの表情が明らかに変わっていった。軽く組んでいた腕に力が入り、やがて眉間に深い皺が刻まれる。

「……といった所までは今日聞いた。エルドリアには既に連絡をしてある」

「……はー……本当に話が大きくなりすぎてるよ……」

 額に手を当てそのまま天井を仰ぎ、重いため息をついた。


  

 そのやり取りを、セラフィナは静かに見ていた。

 正確には、聞いていたはずなのに、意識の半分は別のところに引っ張られている。

 

 リュカが、何も話していない。

 

 それが、妙に引っかかった。

 いつもなら、ユリウスの説明に自然と補足を入れる。足りない部分を埋めるように、状況を整理するように、さりげなく言葉を重ねるはずだった。

 けれど今は、椅子に座ったままほとんど視線も動かさず、ただ一点を見ている。

 話を聞いていないわけではない。だが、どこか遠い場所に意識を置いているような、そんな静けさだった。

 考え込んでいるというより、沈み込んでいるといった方が近いような気がした。

 胸の奥が、わずかにざわつく。

 声をかけるほどではない。けれど何も気にしないでいるには、少しだけ引っかかる。

 その違和感を言葉に出来ないまま、セラフィナは視線を外した。

 

「長丁場、ご苦労だったね。もう少ししたら夜が空けてしまうが……一旦あんた達は宿で休んで、また明日、昼の一の刻にここに来てくれるかい?」

「承知した」

 ユリウスが応じると、それを合図に席を立つ。

 ギルドの外へ出ると、空気はすでに夜明け前の色に変わり始めていた。薄く冷えた風が頬を撫でる。

 案内された宿は、港町らしく規模の大きな建物だった。一人一部屋を用意されているらしい。

 入口の前で、ユリウスが足を止める。

「明日は朝の十一の刻に入口前に集合しよう。それまでしっかり身体を休めてくれ」

 短く告げられそれぞれが頷く。自然と解散の流れになり、皆が自分の部屋へと向かっていく。

 セラフィナもそのまま部屋へ入り、扉を閉めた。

 そのまま浴室へ入り、湯を浴びる。温かさが肌に触れた途端、身体の奥に溜まっていた疲労が一気に浮かび上がってきた。

 今日一日の出来事が、断片的に頭の中を巡る。

 思い出した大事な記憶。子供みたいに泣いたこと。捜索。戦闘。ルシアンの言葉。

 そして、さっきのリュカの様子。

 ぐるぐると回り続けていたはずの思考が、ふと途切れる。

 気付けばベッドに身体を沈めていた。何かを考えようとしたまま、その意識は静かに落ちていった。


 目を覚ました時、窓の外の光はすでに高く差し込んでいた。

 一瞬、時間の感覚が掴めずに固まる。視線を時計に移した瞬間、ようやく現実に引き戻された。

 朝の十の刻を少し過ぎている。

 身体を起こすと同時に、頭の奥に残っていた重さがわずかに揺れる。急いで支度を整え、部屋を飛び出す頃には、もう集合の刻がすぐそこまで迫っていた。

 宿の入口まで駆け込むと、すでに三人とも揃っている。

「おはようセラフィナ。よく寝れた?」

 ライラが柔らかく笑う。

「うん……寝れたよ」

 自然と笑みが返る。二人の間に、少しだけ緩やかな空気が流れた。

「ギルドに行く前に先に屋台で昼飯を食べてから向かおう」

 ユリウスの提案に、全員が頷く。そのまま港の方へと足を向けた。

 並ぶ屋台はどれも活気に満ちている。焼かれた魚の香ばしい匂いが漂い、豪快に串に刺された海の幸が目を引く。呼び込みの声や人のざわめきが重なり、町全体が賑やかに脈打っていた。

 その中で、セラフィナはふと視線を横に向ける。

 

 リュカが、笑っている。

 

 屋台を見て、食べ物を選びながら、ちゃんと楽しそうにしている。いつもと同じように見える。

 けれど、どこかが違う。

 ほんのわずかな違和感。

 言葉に出来るほど明確ではない。けれど、確かに引っかかる。

 いつもなら、もっと無邪気に喜ぶはずだった。美味しいものを見つければ、素直に目を輝かせる。口にすれば、そのまま感想がこぼれる。

 今はそれが、少しだけズレている気がした。

 笑っているのに、どこか一歩引いているような。楽しんでいるはずなのに、どこかで線を引いているような。

 その微かなズレが、妙に気になる。

 視線を外しても、セラフィナの意識の片隅に残り続けた。

 結局、その違和感を飲み込んだまま、時間は流れていった。

 

 ギルドへ顔を出し、明日に迫った受け渡しのタイミングでの動きについて確認が行われる。それぞれの動き、役割、合図のタイミング。話は滞りなく進み、やがて明日の早朝に再び集合することが決まった。

 全てが順調に進んでいるはずなのに。

 胸の奥の小さな引っかかりだけが、消えなかった。

 

 そのまま夜を迎え、簡単に食事を済ませると、解散の流れになる。

 明日に備えて早く休む。それが当然の選択だった。

 それでも、部屋へ戻った後も、セラフィナの中で何かが落ち着かなかった。

 理由は分かっている。さっきからずっと、同じことを考えているからだ。

 あの違和感。リュカの様子。気にしすぎなのかもしれない。そう思おうとしても、頭から離れない。

 違和感が、胸の中でゆっくりと膨らんでいく。どうしてもそのままではいられなくなった。

 セラフィナは立ち上がり、廊下へ出る。少しだけ足取りは迷ったが、それでも止まらなかった。

 目の前の扉の前で、一度だけ息を整える。

 そして、静かに扉を小さくノックした。

 扉が開く。

「!セラフィナ?どうした?」

 驚いたように目を見開くリュカ。

「なにかあったか?……魔力の乱れはなさそうだけど……」

 すぐに視線が身体を確認するように動く。その反応に、胸の奥がわずかに緩んだ。

「ううん、体調は大丈夫。……あの、ちょっとでいいから、話せる?」

 胸の前で手を組みながら、少しだけためらいを残した声。一瞬だけ驚いたような表情を見せたあと、リュカは柔らかく笑った。

「……どうぞ。入って」

 部屋の中へ促され、備え付けの椅子に座ると、向かいでリュカがベッドに腰を下ろした。いつものように穏やかな距離感だった。

「どうした?捜索隊でなにかあったのか?」

「ううん、違うの。あの……あのね」

「うん」

 言葉を探すように視線が揺れるが、急かさずに、ただ待つ声が落ちる。

「……リュカに、何かあったのかなって……思って」

「……俺?」

 わずかに意外そうな顔をした。

「……昨日から、ずっと……無理してるんじゃないかなって……」

 言いながら、自分でも確信が持てなくなる。声が少しずつ小さくなる。

「……あのルシアンって人、すごい変な人だったし……何か、尋問中にあったのかなって……気になって……」

 最後の言葉は、ほとんど消え入りそうだった。

 リュカはしばらく何も言わず、セラフィナを見ていた。やがて、少し困ったように眉を下げて笑う。

 

「……尋問で何かあった訳じゃないよ……ただ、俺自身、消化出来てないだけだから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった違和感の正体が、少しだけ輪郭を持った気がした。

元々人を避けてた分、実は観察力があり、それが気になる人だったら余計気づいてしまう。

セラフィナ頑張ってます。

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