56話 狂信者の独白
狂信者ルシアンの語りしかありません。
あぁ……神との邂逅でございますか。はい、そうですね……かれこれ七年ほど前になりましょうか。神が戦場にお立ちになられて、間もない頃でございました。あの頃の空気の匂い、今でも覚えておりますよ……血と土と、焼けた鉄の匂いが混ざった、あの場所で。
私めはその時、ただの一兵卒に過ぎませんでした。ですが……分かっていたのです。はい、最初から。リュカ様が、神であると。あの瞬間から、疑いなど一片もございませんでした。
もっとも、その頃の私めは愚かでして……えぇ、実に傲慢で未熟でございました。戦線で獣人に遅れを取り、結果として両手と片足を失うという、取り返しのつかぬ失態を犯したのです。地に転がり、己の血で濡れながら、視界は徐々に暗くなっていく。周囲を見渡せば、同じように四肢を失った者達が無数に転がっておりました。
あぁ……これで終わりかと。名も無き一兵卒として、ただ土に還るだけの存在かと。そう思い、意識が途切れかけた、その時でございます。
貴方様が、御降臨なされたのは。
あの光を、どう言葉にすればよいのでしょうか。黄金の輝きが、戦場を満たしていくのです。血に濡れた大地が、その光に触れた瞬間、まるで浄化されるかのように静まり返る。貴方様の治癒魔法は、まさに神の御業でございました。四肢を失った者達に光が降り注ぎ、断たれたはずの腕や足が、まるで初めからそこにあったかのように再生していくのです。
かくいう私めも、その一人でございました。失ったはずの手足が戻り、再び動く感覚を取り戻したあの瞬間……私は確信したのです。あぁ、この御方こそ神であると。自然と、祈りを捧げておりました。
そして、その後の御姿もまた……忘れることなど出来ません。敵兵を薙ぎ倒すその様は鬼神の如く、しかし同時に、倒れゆく仲間に光を与え命を繋ぐその御姿は、まるで地母神のようでございました。破壊と救済、その両方を併せ持つ存在。
リュカ様は、地獄に舞い降りた光そのものであったのです。
……それからでございます。私めは密かに、貴方様の御身を見守るようになりました。えぇ、もちろん表立ってなど畏れ多い。実力も足りぬ私めが、軽々しくお声をかけるなど、許されるはずもございませんから。
やがてリュカ様は聖白騎士団へと所属を移され、常に最前線でご活躍なさるようになりました。あの騎士団は元より光魔法使いも多く、不死の軍団などと呼ばれておりましたが……私めが調べたところ、リュカ様が加わってからは、その生存率はさらに跳ね上がり、敵兵を撃破する回数も飛躍的に増えていたのです。
当然の帰結でございましょう。神がそこにおられるのですから。
その事実を知った時、私めは深く恥じ入りました。御身のお傍に居られぬ自分に、何の価値があるのかと。あの光の近くに居なければ、意味が無いのだと。そう思ったのです。
ですから、力を求めました。教会所属であった立場を活かし、表の任務だけでなく、裏の仕事にも積極的に関わりました。えぇ……多少、手が汚れることなど些事に過ぎません。全ては貴方様のお傍に侍り、御役に立つため。
五年……えぇ、五年もかかってしまいましたが、ようやく神殿騎士団の部隊長という地位に辿り着いたのです。これでようやく、貴方様の御目に留まるかもしれない。お傍に仕える資格を得られるかもしれない。そう思った、その時でございました。
リュカ様は……アストレア王国から、姿を消してしまわれたのです。
……あの時の聖白騎士団は、神に見捨てられたのだと、そう思いました。えぇ、当然でございましょう。当時の騎士団長は、部下の手柄を自分の物として吹聴するような男でしてね……あのようなクズが上に立っている時点で、いずれはこうなる運命だったのでしょう。
……絶望いたしましたよ。あの男のせいで、アストレア王国に降り立った神を、他国へ流出させるなどと。あってはならないことです。
私めが……はい、そうです。戦線を離脱なされたリュカ様を、あのクズは罵倒したのですよ。あの美しい光に対して。……許せるはずがありません。
ですから、責任の所在は全てあの男に移しました。えぇ、当然の処置でございます。リュカ様に責任など一切ございません。あの男は既に軍によって処分されております。……相応の末路であったかと。
その後釜には、ローランドを据えました。リュカ様の育て親であり、元々副団長であった男です。……まぁ、実力としては合格点でしょう。少なくとも、あのクズよりは遥かにマシでございます。
……あぁ、教会の裏の仕事、でございますか。これはまた広範囲に渡りましてね。研究所関連の素材集め、軍内部の不正の告発、他国への諜報活動……まったく、教会というのは人使いが荒い。便利に扱われている身としては、少々骨が折れます。
……研究所とは何か、でございますか。あぁ……そうですね。これは昔から続く、国と教会の共同事業のようなものでして。私めはあまり興味がないので、細部までは把握しておりませんが。
知っている範囲で申し上げるならば……三十年以上前から、不死の研究が進められているとか。国が不死の軍団を推し進めていることは、ご存知でしょう?……えぇ、聖白騎士団の呼び名でございますが、それを本物の“不死の軍団”へと昇華させるのが目的だそうで。
教会の目的……ですか。あぁ、それは単純でございますよ。その不死の軍団の中から、“英雄”を祭り上げたいのだそうです。……実に滑稽な話です。既にリュカ様という存在がおられるというのに。
あぁ、今回私めがガルディアへ来たのも、その裏の仕事の一環でございます。不死の研究を進めるための素材……つまり子供を、連れて帰る予定でございました。
受け渡し方法でございますか。小型の船で沖へと連れ出し、祖国の大型船と合流するのです。そのまま引き渡し、輸送するという流れでございます。
合図には魔導ランプを使用します。沖に向かって灯りを点けたり消したりして、位置を知らせるのです。もちろん専用の合図がございますので、他の船には分からぬようになっております。
……あぁ、その合図でございますか。えぇ、もちろんお教えいたしますとも。
私めは、リュカ様の御使いなのですから。
書いてて改めてこういうやつって気持ち悪いなと思った次第です。
でもめっちゃノリノリで書き上げてしまった…




