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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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55話 尋問※

残酷な暴力描写があります。ご注意ください。

 町へ戻る道中、リュカはほとんど口を開かなかった。隣を歩くユリウスもまた、ただ同じ速度で歩調を合わせている。自警団の足音だけが乾いた土を踏みしめ、淡々と続いていた。

 ボードウェルの町へ入ると同時に、リュカは足を止めることなく進路を変え、そのまま診療所へ向かった。建物の中に入ると、薬草と血の混ざった匂いが鼻をつく。視線の先には、ベッドに横たえられた子供達がいた。

 どちらの子も、焦点の合わない目で天井を見上げ、呼びかけにも反応しない。

 リュカは無言のまま一人目の傍へ寄り、静かに手をかざす。淡い光が広がり、子供の身体を包み込む。やがてその瞳に揺らぎが生まれ、固まっていた表情が崩れた。

 小さな震え。遅れてやってくる恐怖。

「……ここ、どこ……?」

 か細い声に、周囲の空気が一瞬張り詰める。医師と看護師がすぐに寄り添い、優しく声をかける。リュカは次の子供へと移り、同じように治癒と解除を繰り返した。

 目を覚ました子供達は皆、状況が分からず混乱していた。泣き出す者、怯えて身を縮める者、それぞれの反応に対し、医療スタッフが必死に対応していく。

 やがて一通りの処置を終えた頃には、診療所の中はようやく落ち着きを取り戻し始めていた。

 リュカは一度だけ子供達の方を振り返り、小さく息を吐くと、そのまま外へ出た。

 

 外気はひどく冷たく感じた。

 建物の壁にもたれるようにして待っていたユリウスが、ゆっくりと顔を上げる。

「待たせた」

「いや、問題ない。神殿騎士共は牢屋に転がしておいた。後、ルシアンと呼ばれていたあの男だけは別室に繋いである」

「あぁ、ありがとう。……あいつから、色々聞かなきゃいけない事がありそうだ」

 自然と眉間に皺が寄る。自覚している以上に、胸に残る不快感は濃かった。

 ユリウスはその表情を見逃さず、静かに問いを投げる。

「……そうだな。お前は大丈夫なのか?」

「ん?」

「あれと対峙する事だ」

 少しだけ考えるように目を細め、リュカは肩を竦めた。

「うん。大丈夫だ。すっげー気持ち悪いし腹も立ってるけど、案外頭ん中は冷静になれてる」

「そうか」

 短く返す声に、余計な感情は乗っていない。ただ事実を受け取るだけの声音だった。

 リュカは一歩踏み出しかけて、ふと足を止める。

「……でも、やり過ぎたら、ユリウスが止めてくれ」

 振り返らずに言うその声は、僅かに低い。

「あぁ、分かった」

 ユリウスは一拍だけ間を置き、それだけ返事を返した。


 二人は並んで歩き出し、自警団の宿舎にある地下牢の奥へと向かう。

 湿った空気と鉄の匂いが混じる通路を進み、やがて一つの扉の前で足を止めた。見張りの団員が無言で頷き、扉を開ける。

 室内に入った瞬間、重い気配が肌にまとわりついた。

 中央には拘束椅子。そこに縛り付けられいるのはルシアンだった。

 手足と頭を固定され、逃げ場のない状態で座らされている。ライラの膝蹴りが入った顔は酷く腫れ上がり、顎は歪み、鼻は不自然な方向へ折れていた。だがその目だけは、すでに覚醒している。

 扉の音に反応し、ゆっくりと顔が上がる。

 そしてリュカの姿を捉えた瞬間、口角がわずかに吊り上がった。

「お目覚めか。捕まったのに元気そうだな」

 感情の削ぎ落とされた声で、リュカは言う。

 ルシアンは何かを言おうと口を開くが、顔の損傷のせいで、うまく音にならない。ひゅう、と掠れた呼気だけが漏れる。

 その様子を見て、リュカは大きくため息をついた。ゆっくりと手を持ち上げ、男の顔へ向ける。

 淡い光が広がり、骨の歪みも腫れも、瞬く間に元の形へと戻っていった次の瞬間だった。

 

「あぁ!リュカ様!リュカ様!!やはり貴方様の治癒魔法は神の所業です!私めはあの時から知っておりました!!」

 

 ルシアンはタガが外れたように言葉が溢れ出す。

 後ろに立つユリウスの表情が、露骨に歪んだ。まるで腐臭でも嗅いだかのように、眉を顰める。

 リュカは一切の反応を示さないまま、ただ問いを投げる。

「……あの時ってなんだよ。俺お前の顔知らないし。会った事ないだろ」

「あぁ……神にとっては矮小な私めなど数多の有象無象と一緒に過ぎないのですね…」

 

「まぁそうだな」

 

 その言葉に、ルシアンの目がさらに見開かれる。

「あぁぁ……どうすれば貴方様の御使いになれるのか……あぁ……分からない……分からねば……」

 涙が頬を伝い落ちる。震える声で呟きながら、視線は一点に固定されたまま狂気を孕んでいた。

 その空間だけ、空気の質が違っていた。呼吸すら、どこか濁るような感覚があった。


 それまで一切揺らがなかったリュカの表情が、ふと緩んだ。ほんの僅かに、柔らかく微笑んだように見える。

 

「御使い……ね。そんなになりたいんだ、ルシアン」

 

 穏やかな声だった。先程までの冷えた空気とは別の、温度を持った声音。

 ルシアンは顔を上げる。瞳はぎらつき、焦点の奥で何かが燃えている。

「でもさぁ、御使いになりたいって言ってる割にはルシアンは全く俺の話聞かないよね?」

 微笑みを崩さないまま、視線だけが真っ直ぐに相手を射抜く。

「いいか?神も万能じゃない。だから手足となって動く御使いがいるんだろ?」

「そんな……私めはどうすれば……」

 

 リュカは一瞬だけ後ろを振り返る。言葉は交わさず、ただ掌を上に向ける。

 ユリウスは何も言わず、その手の上に短剣を乗せた。金属の冷たさが、静かに空気へ溶ける。

「俺はお前を知らない。信用もしてない。そんなやつが御使いになれるとでも?」

 指先で刃を弄びながら、リュカはルシアンから視線を外す。まるで興味を失ったかのように。

 

「あぁあそんな、そんな事ありえない……私めは貴方様の為に障害を排除してき」

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 リュカが弄んでいた短剣がルシアンの手の甲に深く突き立っていた。骨に当たる鈍い感触だけが、静かに空間へ落ちる。

「ああああああぁあ!!」

 遅れて絶叫が響いた。リュカはそのままの姿勢で、わずかに首を傾ける。

 

「俺の話も聞かず何勝手な事してんだよ」

 

 淡々とした声でそう告げる。短剣を引き抜くと同時に、もう片方の手をかざす。淡い光が瞬き、裂けた肉も砕けた骨も、まるで最初から存在しなかったかのように消えていく。

 痛みも、痕跡も、何も残らない。

 ルシアンは荒い呼吸を繰り返しながら、自分の手を見つめていた。確かにあったはずの激痛が消えていることを、理解しようとしているようだった。

 

「今のは今まで話を聞かなかったお仕置。もう痛くないな?」

 

 さっきと変わらない穏やかな笑みの仮面を貼り付いたようなリュカの表情。

 その対極で、ルシアンの顔が歪んでいく。恐怖でも苦痛でもない。むしろ逆だった。

 口元が吊り上がり、頬も紅潮し、瞳が濡れた光を帯びる。

 

「ルシアン、お前が俺の御使いだって言うなら、ちゃんと俺の話を聞けるよな?」

 

「あぁ……もちろんです……我が神……」

 恍惚とした表情で発した声は甘く濁っていた。

「じゃあさ、色々聞きたい事あるんだけど、ちゃんと教えてくれるかな?」

「はい……はい。もちろんお答え致します」

 その返答を聞きながら、リュカは短剣を逆手に持ち替える。刃先にはまだ乾ききらない血が残っていた。

「嘘ついた黙ったりしたらお仕置だから」

 そのまま腕を振り抜くと刃はルシアンの顔のすぐ横、背もたれへと深く突き刺さった。


「ちゃんと、答えてな?」

 

 微笑みはそのままに、ただ、その目だけが一切笑っていなかった。

リュカは治癒魔法の使い方の悪い例をやっております。

こういう拷問で心を折るにはてき面なんじゃないかな、と思います。

ルシアンの場合、違う方向へ振り切ってますが…

治ってまた激痛が永遠にループするとか嫌すぎる。

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