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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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48話後編 対峙

 リーダー格の男が放った言葉に、その場の空気が一瞬だけ歪んだように感じられた。

 ローブを羽織った男たちの間に、小さなざわめきが広がる。互いに顔を見合わせ、困惑したように視線を揺らしている。

 その中の一人が、おそるおそる口を開いた。

「……ルシアン様……もしや彼が……?」

 問いかける声には、半信半疑の色が混じっていた。

 ルシアンと呼ばれた男は、その言葉を聞くと満足げに頷いた。

「そうです。お前たちには常々言っていたでしょう」

 穏やかな口調だったが、その目の奥には、常軌を逸した熱が宿っている。

 視線をゆっくりとリュカへ向ける。

 

「かの方が我が国の神であると」

 

 月明かりの下で、その瞳はどこか濡れたように輝いていた。

「彼がいれば素材集めなど必要ないんですよ」

 その言葉を聞いた瞬間、リュカの背筋に冷たいものが走った。

 理解が追いつかない。言葉の意味が、まるで噛み合っていない。それでも何とか声を絞り出す。

 

「……いやいや……お前、何言ってんの……?」

 

 口元が引きつっているのが自分でも分かった。

 ルシアンはその言葉を聞くと、さらに深く笑みを浮かべた。恍惚とした表情だった。

 まるで長い間探していた宝物をようやく見つけたような、そんな満足に満ちた顔。

「我が神におかれましては今一度、我が国の救世主となって頂かねばならないのです」

 その声には疑いが一切なかった。信じているというより、疑うという概念が存在していないような響きだった。

「馬鹿な上層部など、軍規違反だと騒いでおりましたが(ワタクシ)めが黙らせておきました故、ご安心頂ければと」

 リュカの思考が追いつかない。頭の中で言葉が空回りしている。

「いや、だから……何言ってんだよお前……」

 必死に言葉を拾い集めるが、喉の奥が乾いていた。

「“神”って何……?“素材”って、攫ってる子供達の事か……?」

 胸の奥に嫌な予感が広がる。

 だがルシアンはその問いを聞いていないかのようだった。恍惚とした表情のまま、別の話題を口にする。

「リュカ様を留めておけなかった団長も必要無いので処分しておきました。今はローランドが聖白騎士団の団長をしておりますよ」

 まるで日常の報告でもするかのような口調だった。


 その言葉が耳に入った瞬間、リュカの心臓が強く脈打った。

質問には一つも答えていない。それなのに、次々と意味の分からない言葉だけが積み重なっていく。

 頭の奥がじわじわと冷えていく感覚があった。目の前の男が、まるで人間ではない何かのように思えてくる。

 

「話を聞けよ!!お前、なんなんだよ気持ち悪い!!」

 

 堪えきれず、思わず叫んだリュカの声が夜の森に響いた。叫びながら、自分の顔が青ざめているのが分かる。

 ルシアンはその言葉に驚いたように目を丸くした。ほんの一瞬だけ、理解できないという表情を浮かべる。

 その前に、ユリウスが一歩前へ出た。自然な動きでリュカを庇うように立つ。

「……お前ら、攫った子供達で一体何をしている」

 ルシアンの視線がユリウスへ向く。その瞬間、表情から一切の感情が消えた。さっきまで浮かべていた恍惚の笑みが、嘘のように消えている。

「はぁ……お前には関係ないな」

深く息を吐き、冷えた声でそう言うと、すぐに視線をリュカへ戻す。

 表情が一瞬で柔らぐ。まるで先ほどの冷たい顔など存在しなかったかのように。

「リュカ様」

 穏やかな笑顔を浮かべ、手を差し出すような仕草をする。

「このような冒険者など貴方様に相応しくはありません。どうぞこちらへ」

 その様子を見て、リュカの胸に嫌悪感が広がった。背筋に虫が這うような感覚だった。

 言葉が、表情が、すべて噛み合っていない。

「……質問に答えろよ……攫った子供達はどうするつもりだったんだ」

 リュカは眉を寄せ、不快感を顕にしたままルシアンに問う。

 ルシアンは一瞬だけ考えるように視線を落とした。そして軽く肩をすくめる。

 

「あぁ、この汚らわしい獣風情ですか」

 

 そう吐き捨てるように言うと麻袋の方へ視線を向けた。まるでそこに入っているものが、ただの荷物であるかのように。

 その言葉を聞いた瞬間、空気が張り詰めた。

 リュカの横で、ユリウスの目がわずかに細くなる。後ろではセラフィナの表情も固まっていた。皆怒りが静かに滲んでいる。

 だがルシアンはまるで気付いていない。

 

「これはただの素材にしかなりません。研究所に送るだけなので、何に使っているかなど私めには分かりませんね」

 

「……何なんだよ……素材って……生きてる人だぞ?」

 

 声が震え、拳が無意識に握られていた。

「それを物みたいな言い方を……!」

 ルシアンは小さくため息をついた。まるで子供のわがままを聞かされたような顔だった。

「はぁ……獣ごときに“人”などと」

 首を横に振ると、当たり前のように言い捨てた。

「そんな慈悲をかけなくても良いのですよ」

 

 その瞬間、リュカの中で何かが完全に切れた。

 怒りとも違う。悲しみとも違う。ただ、何もかもが冷えていく。

 表情がすっと抜け落ちた。

 

「……もういい……お前はもう黙れ」

 

 声は静かだった。それまでの動揺も、怒鳴り声も消えている。

 

 リュカは聖槍を構えると、鋭い穂先がまっすぐルシアンへ向けられた。

めっちゃ重要な事を喋る気持ち悪い男、ルシアン。

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