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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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48話前編 対峙

 洞窟の入口から少し離れた森の中で、四人は身を潜めていた。

岩陰と木々の影が重なる場所を選び、互いの気配もできる限り抑えている。周囲には夜の森の静けさが広がり、遠くで虫の声がかすかに響いていた。

 ここで潜伏してから、すでに一日が経っていた。

 昼の間は何も起こらず、洞窟の奥からも気配は感じられなかった。だが夜が訪れ、空に明るい月が昇り始めた頃、ようやく状況が動いた。

 ライラがわずかに顔を上げた。耳を澄ませ、洞窟の方へ意識を向ける。そして小さく息を吸った。

「……洞窟から人の気配がするよ」

 声はほとんど囁きだったが、それでも三人の耳にははっきり届く。その一言で場の空気が一瞬で張り詰めた。

 ユリウスがわずかに身体の向きを変え、洞窟の方を見据える。

「……何人いるかわかるか?」

 ライラは目を閉じるようにして感覚を研ぎ澄ませた。しばらく沈黙が流れる。

「……気配があるのは九人」

 眉をわずかに寄せる。

「その中で二人体格が小柄な気がする」

 リュカの胸がかすかに重くなる。

「……子供か」

「おそらくね」

 ライラは静かに頷いた。その言葉を聞いたユリウスは思案するように視線を落とす。

「人数も前より多い。正面から行って人質にされると厄介だな……」

 洞窟の暗い入口を見つめながら、誰もすぐには言葉を発さなかった。少しして、リュカがぽつりと口を開く。

「……前みたいに部屋を分かれてくれるといいんだけどな」

 あの時は運が良かった。人数が分散していたからこそ、静かに処理することができた。ユリウスは小さく頷く。

「おそらく前の奴らが居なくなってるのを見て外に出てくると思うが……」

 言い終えるより早く、ライラの体がぴくりと反応した。

「!」

 次の瞬間、小声で告げる。

「上がってくるよ」

 その一言で、四人の神経が一気に研ぎ澄まされた。

 

「ライラ、もし俺達が潜伏しているのがバレたら、何があってもお前だけは出てくるな」

 ユリウスは一瞬だけライラを見て、真剣な声色で言った。

 

「……後は頼む」

 

 ライラの表情がわずかに強張った。だがすぐに歯を食いしばり、小さく頷く。

「……っ……分かった」

 それだけ言うと、素早く木の幹に手をかけた。身体を軽く持ち上げ、枝へと登る。葉の影の中へ溶け込むように身を隠し、気配を消した。

 

 その頃、洞窟の奥から人影が現れ始めていた。

 ローブを羽織った男たちが、ぞろぞろと外へ出てくる。

 人数は七人。

 そのうち二人は大きな麻袋を抱えていた。袋の形は不自然に膨らみ、重そうに揺れている。

 リュカの胸の奥で、嫌な予感が強くなる。

 最後に出てきた男が足を止めた。他の者よりも体格が良く、周囲を見回す視線にも警戒がにじんでいる。

 おそらくこの集団のリーダー格だろう。男はゆっくりと周囲を見渡した。月明かりの下、林の影を一つ一つ確かめるように。

 そして不意に言った。

 

「……いるな」

 

 その声は静かだったが、確信を帯びていた。男の視線が、リュカたちが潜む辺りに向けられる。

「誰だお前ら。ここで何をしてる」

 これ以上隠れても意味はない。三人は顔を見合わせ、ゆっくりと立ち上がり、岩陰から姿を現す。

 ユリウスが一歩前に出て答える。

「それはこちらのセリフなんだがな。何も無いそこの洞窟で何をしていた」

 男の目が細くなる。

「何も無いね」

 鼻で笑うように言った。

「お前、知ってて言ってる…な……!!」

 そこまで言いかけた時だった。男の視線が、ユリウスの後ろにいるリュカへ移る。

 その瞬間、男の表情が変わった。驚いたように目を見開く。

「あ……」

 小さく声を漏らした。

 

「……リュカ様……!!」

 

 思わずと言った様子だった。

 リュカは眉をひそめる。

「……は……?」

 男はさらに身を乗り出すようにして言った。

「リュカ様ではありませんか!!」

 突然、自分の名前を呼ばれた。しかも様付けで。リュカは困惑したまま男を見つめる。

 その反応とは対照的に、男の顔には強い興奮が浮かんでいた。

「ずっと探しておりました!!……貴方様の居なくなった聖白騎士団など、ただの木偶にすぎません!!」

「……は?」

 リュカの眉間の皺が深くなる。理解が全く追いつかない。

 男はさらに目を見開き、熱に浮かされたような声で続けた。

「あぁ……ここで出会ったのも聖神のお導きです!!我々と共に祖国へ帰りましょう!!」

 両手を広げるような仕草をしながら放ったその言葉が夜の森に響いた。

 だが、その芝居のような光景を見た四人の背筋には、同時に冷たいものが走っていた。

 男の声には確かな熱意があった。だが、それはどこか歪んでいる。

 目の奥に宿る光は信仰というより執着に近く、理性の外側にあるような、どこか異様な熱だった。

なんか変な奴が出てきました。

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