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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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47話後編 月夜の中で

 リュカとユリウスが洞窟の外へ出たとき、夜の森はすっかり静まり返っていた。

 湿った土の匂いと、木々の葉が風に揺れる気配だけが周囲に満ちている。月明かりは枝葉に遮られ、地面にはところどころ淡い光が落ちているだけだった。

 二人は少し顔を上げ、木々の上を見た。

「遅くなってすまない。そっちは大丈夫か?」

 その声に、枝葉が揺れた。

 次の瞬間、ライラが上から軽やかに飛び降りてくる。地面に着地すると、ほとんど音も立てずに体勢を整えた。

「こっちはなんともないわ」

 周囲へ一度視線を巡らせながら答える。

「他に近づいてくる気配もないから、早めに移動しましょう」

 その言葉の直後、木の上から柔らかな風が降りてきた。

セラフィナが風魔法を使い、子供たちの体をゆっくりと地面へ降ろしている。枝に座っていた獣人の子供たちは、ふわりと浮かび上がるようにして静かに下へ運ばれた。

 最後にセラフィナ自身も風に身を預け、ゆっくりと地面へ降り立つ。

 ユリウスは全員の様子を確認してから口を開いた。

「先にギルドに子供達とこいつらを預けて、それからもう一度ここに来るぞ。まだ検証していない部屋が残ってる」

 三人はそれぞれ小さく頷いた。

 

 ライラが先頭に立ち、森の中へ歩き出す。警戒しながら周囲の気配を探り、進む方向を示していく。

 その後ろをセラフィナと風魔法で浮かせた子供達が歩く。ぼんやりとした様子のままの子供たちの様子を見守るように、リュカがすぐ傍についた。

 最後尾ではユリウスがロープを握り、男たちを引き連れて歩く。拘束された四人は抵抗する様子もなく、ただ黙って足を動かしていた。

 森を抜けるまで一の刻もかからず、木々の間から灯りが見え始め、やがてボードウェルの町が姿を現す。

 町の端には、すでに何人かの人影が待っていた。

 近づくと、その中の一人が前に出てくる。羊の角を持つ獣人の男性だった。落ち着いた物腰で四人を見渡し、深く頭を下げる。

「ファイフ様から伺っております。ご協力、感謝いたします」

 ユリウスは軽く頷いた。男はすぐに指示を出す。

「子供達は診療所へ、犯罪者共はこちらへ連行します」

 その言葉と同時に、自警団の者たちが男たちを引き取っていく。ユリウスが握っていたロープも、そこで手渡された。

 リュカはその様子を見届けてから羊の獣人に声をかける。

「……子供達は洗脳状態です。念の為、診療所に同行させて貰っても?」

「もちろんです」

 羊の獣人はすぐに頷き、少し安心したように言葉を続ける。

「……この町には洗脳を解けるほどの光魔法を使えるヒーラーが居ないので助かります」

 診療所は町の中心から少し外れた場所にあった。

 中に入ると、すぐに寝台へ子供たちが寝かされる。医師が一人ひとりの状態を確認し、怪我や衰弱の具合を丁寧に診察していく。

 身体の治療はある程度できたが、やはり洗脳は解けなかった。

 リュカは寝台の横に立ち、静かに魔力を集中させる。掌から柔らかな光が広がった。光魔法が子供たちの身体を包み込み、ゆっくりと意識の奥へ染み込んでいく。淡い光が消えた頃、子供たちの表情が少しずつ変わっていった。

 やがて、順番に目を覚ます。

最初は二人とも、戸惑った様子で周囲を見回していた。見知らぬ天井、知らない大人たち。記憶の断片がうまく繋がらないようだった。

 その様子を見て、ライラがそっと近づく。

 柔らかい声で話しかけ、焦らせないようにゆっくりと言葉を重ねていく。

 子供たちは次第に落ち着き、ぽつりぽつりと思い出すように話し始めた。

 やはり、辺境の村や集落に住む子供だった。

 一人は北の山の中で山菜採りをしていたとき。もう一人は畑で家の手伝いをしている最中だった。

 そこへ白いローブを着た男たちが現れたところまでは覚えている。だが、それ以降の記憶は途切れていた。

 特に男児の方は、現在の状況を語る大人たちの説明に驚いた様子だった。

 行方不明になってから、すでに四ヶ月が経っていると知ったからだ。

 子供自身にとっては、ほんの少し前の出来事のようにしか感じられなかったのだろう。寝台の上で、呆然とした顔のまま何度も瞬きをしていた。


  

夜はすっかり更け、町の通りには人影も無く家々の窓から漏れる灯りだけが静かに揺れている。

もうすぐ日付が変わろうとしている頃、四人は並んで町中を歩いていた。

「明日には師匠がこっちに来るって言ってる」

 少し苦笑を浮かべた。

「あの人のことだから、ボードウェルにいるって分かった時点で既に向かってきてるわね。朝にはいるんじゃないかしら」

 リュカは頭の中で地図を思い浮かべる。

「地図で見る限り、フェンリスから馬車で一日、単騎がけで半日、スレイプニルならもう少し早いか」

「こっちは師匠に任せて良さそうね」

 その会話を聞いていたユリウスが足を止めて振り返った。

「もう夜も遅いが、このままあの洞窟まで戻ろうと思うが大丈夫か?」

三人は迷うことなく頷いた。

 

 再び森へ向かい、夜道を進む。

 洞窟へ戻るまで一の刻ほどかかったが、入口をくぐり、奥へ進む。

 まだ調べていない部屋に入ると、床に描かれた魔法陣が目に入った。

 複雑な紋様が円を描き、淡く魔力の残滓が漂っている。

 セラフィナがそれを見つめながら呟いた。

「私達がここに飛ばされた時のと同じっぽいけど……」

「ウィンデル方面に戻るのかしら」

 ライラの言葉にユリウスは腕を組み、魔法陣を観察する。

「専門家ではないからな……乗ってみれば分かるか」

 四人は魔法陣の上に立ってみるが、しばらく待っても何の反応も起こらなかった。ユリウスは床を見下ろしながら考え込む。

「……転送陣自体はダンジョンの物と一緒で一方通行なのか。別のところからここに集まるようになっているようだな」

リュカも頷く。

「あいつらも仲間と合流するために待機していたと言ってたからな……近いうちに会えそうだ」

 ユリウスの口元にわずかな笑みが浮かんだ。

「よし、なら洞窟の入口で張っていよう」

 魔法陣を一度見下ろしてから続けた。

 

「どっちも一方通行の転送陣だ。ここに入っても、ここから出てくるだけでも、黒確定だからな」

 

 洞窟の奥には、再び静けさが戻っていった。

急展開過ぎますが着々と黒幕へ迫ってます。

リュカの出身地、アストレア王国は何がしたいんでしょうね?

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