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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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47話前編 月夜の中で

 木々の枝葉が絡み合う高い位置に、二人は身を潜めていた。

 葉の影に覆われた場所は、下から見上げてもほとんど気付かれない。風が吹くたび枝が揺れ、木の葉が擦れる音だけが小さく響いている。

 セラフィナは枝に腰を下ろし、膝の上で杖を抱えていた。

 隣ではライラが周囲の様子を警戒している。耳をわずかに動かし、月の光が降り注ぐ森の気配を拾っていた。

 二人の横には、獣人の子供たちが静かに幹に身を預けている。洗脳状態のままのためか、抵抗もせずぼんやりとした表情で視線を宙に漂わせていた。

 セラフィナの視線は、洞窟の入口へ向いていた。ツタに覆われたその暗い穴を見つめながら、胸の奥に少しづつ鉛が落とされているような感情が溜まっていく。

 

「……二人共、嫌なこと引き受けてくれたんだよね……」

 

 小さくぽつりと零れた言葉だった。

 ライラはその声に少し驚いたように目を丸くし、セラフィナを見る。しばらくしてから静かに頷いた。

「……そうね……やっぱりどうやったって、気持ちのいいものではないから」

 セラフィナは杖を握る手に力を込めた。洞窟の奥で、リュカとユリウスが何をしているのかは想像できる。詳しく聞かなくても分かってしまう。必要なことだというのも理解している。

 それでも胸の奥に残る感情は消えなかった。

「……これで良いのかな?……私達も、一緒にやらなくていいのかな……」

 思い詰めたような表情だった。ライラはその顔を見て、少し眉を下げた。困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべる。

 

「……いいのよ、これで」


「ユリウスもリュカも、この先同じ事があっても私達には見せないでしょうね」

少し肩をすくめた。

 

「無駄に気を使っちゃってさ」

 

 セラフィナは黙ったまま、洞窟を見つめている。ライラはそんな彼女の横顔を見てから、軽く息を吐いた。

「まぁ、だからこそ、二人が帰って来た時は、こっちは普段通りに接してやらないと。ね」

 

 無理に明るい声を出したようなライラの言葉にセラフィナは一瞬だけ驚いたように瞬きをした。そしてゆっくり頷く。

「うん……そうだね」

 それを見たライラは口元を緩めた。

「ほーんと、理解ある私達に感謝して貰わなくっちゃ!」

 わざとらしく胸を張る。

 その言い方に、セラフィナの口元にも小さな笑みが浮かんだ。二人は顔を見合わせ、静かに笑い合う。

 少しだけ、重たかった空気が和らいだ気がした。

 

 リュカとユリウスが洞窟へ戻ってから、一の刻ほど経った頃だった。

 洞窟の入口から、小さな光が飛んでくるのが見えた。

 水色の伝書鳥だ。

 ライラが手を伸ばすと、鳥はそのまま手の上に降り立った。紙片を開き、目を通す。

「……あいつら、やっぱり洗脳の魔道具持ってたみたい」

 眉を寄せながら呟いた。

「ガルディアには誘拐目的で入ってきてるって……」

 その言葉を聞いた瞬間、セラフィナは口を引き結んだ。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

「……何のために誘拐するの?」

「アストレア王国の下っ端神殿騎士みたいで、詳しくは分からないらしいわ」

 ライラは紙片から視線を逸らし、洞窟の方へ向けた。

「ガルディアの地図に、子供達を引き渡す為の場所を記したものがあったって」

 セラフィナは洞窟の方へ視線を向けた。

「次はそっちに行く事になるかな……」

「多分ね」

 そんな話をしていると、今度は別の伝書鳥が飛んできた。

 黄色の光を帯びた鳥がライラの前に降り立つ。紙を開いたライラが息を吐いた。

「師匠からだわ……ボードウェルの冒険者ギルドに連絡しておいてくれたみたい。二人が出てきたら、子供達をそこで保護してもらいましょ」

 セラフィナは小さく頷いた。

 ライラはすぐに別の紙を取り出し、ユリウスから聞いた情報を書き込む。

 魔力を流し込み、伝書鳥へ変えると、それをファイフへ向けて飛ばした。


――――

 

 リュカとユリウスが部屋へ戻ってから、二の刻が過ぎた頃。

 男たちから聞き出せる情報は、ほぼ出尽くしていた。

 四人それぞれから断片的な証言を引き出したが、内容はどれも決定的なものではない。だが、それでも一つだけ確かなことがあった。

 

 この誘拐は、アストレア王国が関わっている犯罪だということ。

 

 リュカはそれを思いながら、深く息を吐いた。

 ユリウスが短剣についた血を布で拭き取りながら言う。

「……そろそろ外の二人も心配だ。一旦上に戻るか」

「そうだな」

 ふと空を見上げるように目線を上げた。

「ファイフさんには連絡してくれたみたいだし、子供達を先に保護してもらおう……洗脳状態も解除してやらないと」

 そう言いながら、自分とユリウスに浄化魔法をかける。淡い光が体を包み、血や汚れを静かに消していく。

 リュカは壁に拘束された男たちを見た。

「こいつらも連れて行くか」

 ユリウスも視線を向ける。

「そうだな。自分で歩かせれば問題ないだろう」

 男たちの顔は青ざめていた。体は小刻みに震えている。

 さっきまでの抵抗の気配はすっかり消え、完全に心が折れてしまった様子だった。

 ユリウスは一人ずつ拘束を解き、壁から下ろしていく。だが逃げられないよう、すぐに土魔法で手枷を作り、後ろ手に嵌める。さらに四人の手枷を一本のロープで繋いだ。

「立って歩けよ。……なんなら前より健康だろう?」

 男たちは顔を伏せたまま、何も言えない。

 ユリウスがロープを引くと、男たちは抵抗することなく歩き出す。

 その後ろをリュカが静かに見守りながら洞窟の奥の部屋を後にした。

ライラだけではなく、セラフィナも気づいていました。

女性陣の気遣いもリュカとユリウスもちゃんと分かった上で役割分担をしています。

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