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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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43話 怪しい人物?

 翌朝、朝食を終えるとライラは「ちょっと準備してくるね!」とだけ言い残し、一人でどこかへ出ていってしまった。

 残された三人は顔を見合わせる。

 何をするのか聞こうとした時には、もう姿が見えなくなっていた。

 ライラは後で合流しようと、自分たちの調査を進めることにする。

 まず向かったのは、アルカディア王国方面へ通じる北門だった。

 門番に事情を話すと、昨日ユリウスが頼んでいた通り、すぐに記帳を見せてもらえた。分厚い帳簿を机の上に広げ、三人は記録を遡っていく。

 ここ三年分の入出記録。この門を通るのは、ほとんどが商人か冒険者だった。三国を結ぶ街道の一つというだけあって、出入りの数も多い。

 しばらく確認を続けたが、特に気になる項目は見当たらなかった。

 次に三人は、グランヴェル帝国方面へ通じる東門へ向かった。

 こちらでも同じように帳簿を見せてもらい、ページをめくっていく。

 商人、冒険者、行商人、護衛団。

 似たような記録が続く中、ある一行でリュカの指が止まった。

 

「……殉教者?」

 

 思わず口に出る。門番が帳簿を覗き込んだ。

「あぁ、それ。聖神教っていう、なんかの神様崇めてるらしい神父達だったよ。確か何年かに一回ぐらい説法しに来てるんじゃなかったかなぁ」

 リュカはさらにページを遡る。同じ記載が、いくつか前の帳簿にもあった。

一ヶ月前の入国、その前は一年半前。さらに三年前にも記録が残っている。

 周期的にこの町を訪れているらしい。

「……どこから来てたとか分かりますか?」

 リュカが尋ねると、門番は少し考え込む。

「どこだったかなぁ……グランヴェルの北の方の国だったと思うけど」

「そうですか……」

 リュカは手を口元に当て、しばらく帳簿を見つめた。その様子にユリウスが気付く。

「……その宗教は何かあるのか?」

 リュカは少し間を置いて答えた。

 

「……俺の故郷で……一番幅をきかせてた宗教だ」

 

「あの国は確か国家と教会が随分と密な関係だったな」

「うん………いや、流石に考えすぎか?」

 リュカは帳簿から目を離し、少しだけ視線を落とした。

 

「……今はどんな事でも疑ってかかるべきだ。殉教者達にも話を聞きたいところだが……」

「今どこにいるか分かってないよな」

「ガルディア側の門番にも聞いてみよう」


――――

「あー、はいはい。確かそんな人達いましたね」

 昨日通ったガルディア側の門の門番はすぐに思い出したように頷く。

「どこに行くとかは言ってなかったか?」

「黙々と手続きして出ていってるから分かんないなぁ」

 やはり手がかりは少ない。リュカが小さく息をついた、その時だった。

「……あ、でも向かった方向はフェンリス方面じゃなくて、グランヴェル帝国沿いの道に向かってたと思うよ」

 三人が顔を上げる。門番は思い出すように続けた。

「あっちは小さな集落しか無いんだけどね。布教活動なのに首都に行かないんだなって思ったの覚えてる」

 三人は互いに顔を見合わせた。

「ありがとうございます」

 

 門を離れながら、ユリウスが腕を組む。

「今のところ怪しそうなのは殉教者達だが、ここを通過したのが一ヶ月も前だ。同じ方向へ行くにしろ、情報が少なすぎる」

「やっぱり町の人とかにも話を聞いてみたいけどな」

 その横でセラフィナがぽつりと呟いた。

「……その前にライラ探そう?」

「あ、そうだった」

 すっかり忘れていた。

「どこいったんだろう……」

 三人は川沿いの市街地へ向かう。

 すると、町長の家の前に人だかりが出来ているのが見えた。遠くからでも分かるほどの賑わいだ。

「なんだ?」

 リュカが目を細める。その時、セラフィナが指をさした。

「……あそこ、ライラがいる」

「え、なにやってんだ?」

 近づくと、人だかりの中央にぽっかりと空間が空いているのが見えた。

 その真ん中で、ライラが大柄な熊系獣人と向かい合っていた。熊の獣人が拳を振り上げる。巨体に似合わずその動きは速い。

 ライラは拳が当たる直前で身体を低く沈めるようにして避けると、そのまま反撃に転じる。

 熊の股下を素早く潜り抜け、勢いのまま後方へ跳び、バク転で空中へ。次の瞬間には熊の肩に乗っていた。

 指先の爪が、首筋へぴたりと当てられる。

「はい、死んだー。これ、ナイフだったら致命傷だからね!」

 熊の獣人は完全に動きを止めた。

「は……はい……」

「振りが大きすぎ。もっと小さく腕を振った方が攻撃が分かりづらくなるよ。はい、次は誰ー?」

 その言葉に周囲から歓声が上がる。ライラへの拍手と声援、そして自警団の男たちへの野次。

 

 三人はその光景をぽかんと眺めていた。

「……え、なにこれ……どういう状況?」

 困惑していると、後ろから声が飛んできた。

「皆様!お揃いですね!」

 振り返ると、トリバーが勢いよく駆け寄ってきた。尻尾がちぎれそうな勢いで振られている。

「いやー!ライラさんが我が主のお弟子さんだと伺いましてね!お願いしましたら自警団を鍛えてくださる事を快く引き受けてくださいまして!」

 トリバーは身振り手振りで説明する。

「いやーお強いですね!武器無しでうちの自警団が手も足も出ないなんて!流石お弟子さんです!」

「……鍛錬なのになぜこの人だかりが?」

「あ!これはですね、ライラさんが町民の娯楽になるからと声をかけてくださったんですよ!辺境は娯楽がほぼ無いですからね!ウィンデルではファイフ様人気も高いですから!こういった催しは盛り上がるのです!」

 なるほど、とリュカは思うと同時に理解する。これはつまり、情報収集の為の布石だ。

 その時、ライラがこちらに気付いた。

「あ、みんなー!いい所に来たね!」

 軽やかに駆け寄ってくる。

「町長から話しされたと思うけど、あそこにちょっとやりすぎちゃった人達がいるから、ごめんけど介抱してもらってもいいかなぁ?」

 指差した先には、見事にボロボロになった自警団の男たちが転がっていた。

「で、治すついでに色々話聞いてきて!自警団だから何か怪しい人物とか見てるかもだし?」

「……分かった」

「あ、ユリウスはこっち手伝って!」

 そのまま腕を掴み、中央へ引っ張っていく。ユリウスが人だかりの中に入った瞬間、周囲の女性達から悲鳴に近い黄色い歓声が上がった。

「……行動力がすご過ぎるな、ライラは……」

「うん……すごい」

「まぁ、せっかくの機会だ。色々聞いてみよう……」

 リュカは心配そうにセラフィナを見る。

「セラフィナは無理しなくても大丈夫だからな。俺の手伝いお願い出来る?」

 セラフィナは少し考えてから頷いた。

「……うん……でも、お手伝いもしながら、頑張ってみる……」

「そっか。分かった。じゃあいこう」

 二人は負傷者の元へ向かった。

 

 リュカとセラフィナは、一人ずつ治療をしていった。

 腕の打撲、肋骨の痛み、軽い裂傷。ライラの手加減のおかげか、致命傷は無い。

 リュカが治癒魔法を使うと、男たちは驚きながらも礼を言った。

 そしてその礼と引き換えのように、色々な話をしてくれた。

 この町のこと、周辺の村のこと、最近の神隠しの噂、一ヶ月前に通った殉教者達のこと、殉教者達はこの町で何をしていたか、周辺の集落の様子。

 リュカはそれらを一つ一つ頭の中で整理していく。

 隣ではセラフィナが最初こそ黙って手伝っていたが、やがて小さな声で質問をするようになっていた。

 少し照れたように尋ねるその様子に、男たちは妙に嬉しそうに答える。

 庇護欲をくすぐられているのだろうか。

 さっきまで痛みに顔をしかめていたはずなのに、急に饒舌になる者もいた。

 全員の治療が終わった頃には、かなりの情報が集まっていた。

 

 最後の一人を送り出し、リュカが顔を上げるとその時、ひときわ大きな歓声が上がった。

 振り向くと、ユリウスが水魔法を使っていた。

 空中に現れた水の塊が形を変え、鳥の群れに。それが空を舞い、綺麗な弧を描いたかと思ったら次の瞬間には集まり、一頭のペガサスへと姿を変えた。

「……は?あんな事出来んの?やば……」

「……ユリウスはやっぱり水魔法の精度が凄いね」

 水のペガサスが空を駆ける。そしてふっと消えたかと思うと、その場所に虹がかかった。

 観客から拍手喝采が起こる。ライラが大きく手を振った。

「みんな集まってくれてありがとー!今日はこれで終わりね!私達これからちょーっと仕事があるんだな!」

 残念そうな声が上がるが、ライラは笑顔で手を振る。

 そしてユリウスの腕を掴むと、そのまま引きずるようにして戻ってきた。

「よし、一旦家に帰ろう!」

 四人はそのまま町外れの家へと歩き出した。

小さな手がかり?

ライラの思いつきも、ただの情報収集ではなく町を巻き込んでのエンタメにしちゃいました。

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