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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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40話 仕事は出来る

 翌朝、七の刻きっちりにセラフィナとライラがギルドの受付前へ向かうと、ロビーのソファーにすでに二人の姿があった。

 どちらも落ち着いた様子で腰掛けている。

「おはよー!二人とも早いわね」

リュカが軽く手を上げて答える。

「おはよう。先にギルドで二人乗り用の馬を準備してもらって来たんだよ。馬も出かけるってなるとそれなりに準備に時間がかかるからなぁ」

「そうなんだ。ありがとね」

 ライラは感心したように頷いた。

「この後どうする?話聞きに行くにしろちょっと時間が早いか」

 するとユリウスが静かに口を開く。

「ギルドで被害のあった北の領と、東の領と、取引がある商会を何件か聞いておいた。先に朝の市場を回って消耗品調達に行っておこう」

 そう言って紙袋を差し出した。

「二人は朝も食べていないかと思って途中で売っていた物だが買ってあるぞ」

 ライラが袋を受け取る。中には焼きたてのパンが入っていた。

「うーん……流石ね……抜かりないわ……」


 四人はそのまま市場へ向かった。朝の市場はすでに賑わっているが、野菜、干し肉、保存食、薬草。必要そうな物を手早く買い揃えていく。

 ひと通り買い終え、一旦広場までやってきた。

 セラフィナとライラが広場のベンチへ腰を下ろし、ユリウスから渡された紙袋を開ける。屋台で買ったミルクポタージュと一緒に朝食にすることにした。

 リュカとユリウスはその様子を見て立ち上がった。

「残りは俺たちで買っとくからゆっくり食べなよ」

「行ってくる」

 二人はそのまま市場の奥へ消えていった。

 

 二人を見送った後、意識は朝食のポタージュスープへ。ポタージュにパンを浸すとスープがパンに染み込んでいく。

 朝の空腹にはちょうどいい優しい味だった。

 ライラがぽつりと呟く。

「……前から思ってたけどさ……あの二人が仕事出来すぎてヤバい……」

「……うん……なんか……自分がダメになって行く気がする……」

 セラフィナがそう言うと、ライラは真顔で頷いた。

「分かる。……スマートに甘やかしてくるから怖いのよね。あれは二人とも沼よ沼」

 セラフィナが首を傾げる。

「沼……?」

「ハマると抜け出せないって事」

「……たしかに……」

 言い得て妙だな、と納得してしまった。


 朝食を食べ終え、二人でそんな話をしていると、ふいにライラの横に影が落ちた。顔を上げると、そこに立っていたのは猫系獣人とイタチ系獣人の男だった。

「あれー?やっぱりライラじゃん」

 猫の方がにやりと笑い、ずいっと顔を近づける。

「なになに?こっち帰ってきたの?あ、僕に会いたかったんでしょ?そうでしょ?」

 ライラの表情が一瞬で消えた。

「うわ……面倒臭いのに捕まった……」

 小さく呟く。猫系獣人は気にした様子もない。

「え?なになに?久しぶりなのにつれなくない?」

「人違いなんでお引き取りください」

「はぁ?何言ってんの!僕がライラを間違える訳ないでしょ!」

 

 横にいたイタチ系獣人がニヤニヤと笑いながら近づいて来た。

「彼女が噂のライラちゃんなんだー。確かに可愛いねぇ」

 そして視線がセラフィナへ向く。

「フードでよく見えなかったけど、連れのこっちの子もすごい可愛いねぇ。名前なんて言うの?」

 突然話しかけられ、セラフィナは固まる。

 ライラが立ち上がり、セラフィナに近づこうとしたイタチ系獣人を手で制した。

「あんた達に名乗る名前なんて無いわ。彼女に近づかないで」

 イタチ系獣人が肩をすくめる。

「いやいや、名前ぐらい良くない?」

「良くないから言ってんのよ。とっとと失せて。こっちは人待ってんの」

 ライラはセラフィナを庇いながら獣人の二人を睨みつけた。

「えぇー?そんな嘘つかなくっても良くない?」

「うるさい」

「久しぶりなんだから一緒に遊ぼうよー」

「遊ぶわけないでしょ」

 猫系獣人が手を伸ばし、ライラの腕を掴む。

 その瞬間、セラフィナは立ち上がりかけるが、ライラがちらりと視線で止める。

 ライラは大きくため息をついた。

「ホントしつこい!!」

 腕を振り払うと猫系獣人は苦笑した。

「もー。ホント僕には冷たいよね、ライラは」

 そして再び手を伸ばす。その手が途中で大きな手に止められた。

 

「え……?」

 猫獣人が手の先を見る。その手の主は、紺色の髪の背が高い彫刻のような顔の男だった。

 無表情のまま、猫系獣人の腕を掴んでいる。静かな声が落ちる。

 

「俺たちのツレに何か用か?」

 

 握る指に、わずかに力が入る。猫系獣人の顔が歪んだ。

「!っ……!!」

 

 ユリウスに怯んだイタチ系獣人が一歩後ずさると、次の瞬間、後ろから肩を組まれていた。黒髪で長身の優しそうな男。

 肩に回した腕は力も入っていない、ただ置かれているだけなのに、何故か逃げ道は完全に塞がれているような……。

 

「よぉ、どこ行くんだよ。なんか用事があるんだろ?」

 

 薄ら笑いを浮かべているが、その笑みには全く温度がない。

 

 獣人の二人は一瞬で理解した。目の前の二人がどれほど危険な相手かを。

 空気が凍り、言葉にならない圧力が降りかかる。身体が震え冷や汗が止まらない。

 猫系獣人が何とか声を絞り出す。

「あ……い……え……」

 喉が乾いて仕方がない。

「道を……聞いてた……だけなんで……」

 そこからは声が出なかった。

 数秒後、獣人の二人は同時に頭を下げた。

「………………すいませんでした!!!」

 そしてそのまま脱兎のごとく逃げていった。

 

 ライラが大きく息を吐く。

「助かったわ!しつこくて困ってたの。こんな所でぶん殴ってのしちゃう訳にもいかないし……」

「遅くなってすまなかったな。知り合いだったのか?」

 ライラは肩を落とすと眉を下げ、少し困った顔をする。

「……昔ね、フェンリスを出る前にずっと言い寄られてたの。七年も経ってるのにまた絡まれるとは思わなかったわ」

 リュカとユリウスが顔を見合わせ、そして小さく頷いた。

「そうか……今後は二人に害がないように俺達も気をつけておこう」

「……過保護ね……」

 ライラは苦笑して肩をすくめた。

「……ライラ、ごめんね……なんも出来なかった……」

 セラフィナがしゅんと俯き小さく謝るが、ライラはすぐに首を横に振る。

「いいのよ。セラフィナもよく我慢してくれたわ」

 少し考えた後、遠慮がちに聞いた。

「……でもちょっとハグしてもいい?」

「え……!」

 セラフィナは一瞬驚いたが、数秒迷ってそっと両手を差し出す。

「…………はい」

 ライラは嬉しそうに笑い、セラフィナをそっと優しく抱きしめた。

「……うぅ……癒される……」

 半分泣きそうな声でセラフィナの頭を撫でた。

 少しして離れると、ライラはくるりと振り返って親指を立てる。

「二人ともありがとね!かっこよかったわよ!」

怖いお兄さんズ。

ライラはモテますが、本人がそんなに相手に執着をしないので長続きしないという、軽いお付き合い程度は昔ありました(今回の猫とイタチではない)

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