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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
59/103

39話 予想に過ぎないが。

 宿に戻った頃には、街の賑わいも少し落ち着いていた。

 案内された部屋へ入った瞬間、セラフィナとライラが同時に足を止める。

「……広い……」

「え、ちょっと待って。何ここ」

 窓際にはふかふかそうなベッドが二台。床には厚い絨毯が敷かれ、部屋の壁際に大きめのテーブル、その横にはゆったりとした椅子まで置かれている。 

 どう見ても、普通の旅人向けの宿より一段格が高い。ライラがぐるりと見回す。

「リュカ達、いつもこんな所泊まってるの?」

「いや、俺達も初めてだよ。ファイフさんが手配してくれたからさ…」

 リュカは苦笑しながら答えた。

 

 とりあえず四人は一度集まり、明日からの依頼について話すことにした。セラフィナとライラはベッドに腰掛け、リュカとユリウスは備え付けの椅子に座る。

 少し間を置き、ユリウスが口を開いた。

「女将が聞いた噂話、どう思った?」

 その問いに、リュカが顎に手を当てて考え込む。

「……急激な眠気、って言ってたな。……これ、もしかしたら結構厄介かもしれないぞ」

「どういう事?」

 ライラが首を傾げた。リュカは視線を少し落とす。

「医療班にいた時の話なんだけどさ。錯乱して暴れる患者を寝かしつけるためとか、外科手術の時に闇魔法を使うんだよ」

 三人の視線が自然と集まる。

 

「闇魔法って、鑑定、催眠、睡眠、混乱……そういう系統の魔法だからさ。医療現場じゃ結構重要なんだ」

 

 ユリウスが静かに言葉を継いだ。

「……闇魔法を悪用している可能性がある、と」

「うん……あくまで予想だけどさ。親子で眠気に襲われた時、闇魔法使いと対峙してると思うんだよな」

 リュカは指先で椅子の肘掛けを軽く叩く。

「睡眠の魔法にしたって、居場所がバレないようにって離れた場所から使える魔法じゃないはずなんだ」

 ユリウスが腕を組む。

「……被害者は痕跡は無いと言っていたな。催眠での記憶の改ざんがされているという事かもしれん」

 

「そう。もし悪用されてたら……子供達は催眠状態で、自分から出ていった可能性もある」

 

 その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が重くなる。三人の顔色が目に見えて変わっていった。ライラがぽつりと呟く。

「……そんな事出来るの?闇魔法って……」

 リュカは少し困ったように笑う。

「……出来ない事は無い、としか言いようが無いな。俺が知ってる闇魔法使いは、患者に寄り添える人達だったけど……」

 誰もすぐには言葉を続けなかった。沈黙のあと、ユリウスが口を開く。

「神隠し、と言われていたが……背景にあるのは、やはり人身売買の可能性が高くなってきたな」

 三人が小さく頷く。

 

「明日からは、女将が言っていた商人に話を聞こう。その後、実際の現場へ向かう」

「北の辺境だったら、ここから馬車で二日ってとこね」

 するとユリウスが口元に手を当てた。

「馬車を使わず馬だけで向かえば、休憩を挟んでも一日で行けそうだな」

「え……?」

 ライラが瞬きをする。セラフィナも同じ顔をしていた。

「幸い、俺とリュカは乗馬が出来る。二人はそれぞれに乗って行けば問題無いだろ」

「え……??」

 二人の困惑が深くなる。その様子を見て、リュカが眉を下げた。

「あー……ユリウス」

 リュカが気まずそうに小さく手を挙げた。

「それ、結構問題じゃね?二人とも仲間だけどさ。二人とも年頃の娘さんだぞ?」

 その瞬間、ユリウスの動きが止まった。

「……………………!」

 数秒の沈黙のあと、彼は勢いよく額に手を当てた。

「はっ!!……そうだな……悪かった……つい効率を考えてしまって……」

 顔がみるみる赤くなって、しゅんとしていく様子を見ていたライラが吹き出した。

「ぷっ……ふふっ……あははははは!!おっかしー!!今更照れちゃうんだ!!」

 ライラの大笑いが部屋に響く。

「良いのよ別に乗ったって。その方が早く着くのは着くし」

 ライラは肩をすくめた。

「ただねぇ……実際乗ったことないからさー」

 隣のセラフィナを見る。

「ねー」

 セラフィナも頷く。

「ちゃんと乗れるか心配なだけ……」

「……まぁ二人が良いなら俺はどっちでもいいんだけどさ……」

 リュカはそう言って頭を搔いた。ユリウスはまだ額に手を当てたまま顔を赤くして俯いていた。

「……落としたりしないからそれは安心して欲しいが…でも…」

「じゃあそれで行きましょ。決まりね!」

 ライラはボソボソ喋るユリウスの声を笑顔で遮った。立ち上がり、ぱん、と手を叩く。

「明日に備えてそろそろ部屋戻るわ!朝の七の刻に受付前集合ってことで!」

 セラフィナも立ち上がり、二人はそのまま部屋を出ていった。

 

 残されたリュカとユリウスの間に沈黙が広がっていた。

 ユリウスは両手で顔を覆い、深く項垂れている。

 

「……俺ってヤツは……」

 

 リュカは苦笑して、ユリウスの肩に手を置いた。

「お前、何故か時々ポンコツになるよな……さっきのはまぁ、気にすんなよ」

 再び静かになった部屋で、ユリウスは小さくため息をついた。

 

 その頃、一番奥の部屋では、セラフィナとライラがそれぞれシャワーを浴び終え、寝る準備を整えていた。

 ベッドサイドに座り、セラフィナは枕を抱きしめている。ライラが笑いながらセラフィナに話しかけた。

「明日乗馬出来るの楽しみだね!」

 セラフィナは少し不安そうに頷いた。

「うん……ちゃんと乗れるかなぁ……」

「私はユリウスと乗るからね。精霊の事もあるし……」

 ライラは少しだけ口元をにやけさせ、ちらりとセラフィナを見る。

「セラフィナはリュカとの方が安心でしょ?」

「えっ……!」

 セラフィナの顔が一気に熱くなる。

「あ、そっか……そうだった……」

 二人乗り。その事実を思い出した瞬間、慌てて枕に顔を埋めた。

「えー?なぁに?セラフィナも今更照れちゃうの?」

「……だって……」

セラフィナは小さく呟く。少し間を置いて、ぽつりと言葉を続けた。

 

「……ちょっと前にね。色んな感情があるんだって……ちゃんと分かったの」

 

 ライラは優しく頷く。

「うんうん。いい事ね。それからどうしたの?」

「なんもしてない……」

「うーん……そっかぁ……(まぁリュカも朴念仁っぽいもんなぁ……)」

 ライラは腕を組み、少し考えてすぐに顔を上げる。

「まぁいいんじゃない?これも経験よ経験!」

 指先を振りながらベッドに寝転んだ。

「明日はさ、私達ってば乗馬に必死でそれどころじゃなくなりそうじゃない?」

 セラフィナも想像してみる。馬の背中、揺れる体、必死にしがみつく自分。

「……たしかに……」

 二人は顔を見合わせた。そして同時に笑い出す。

 

 夜は静かに更けていった。それぞれの部屋で、明日を思いながら。

色々不穏な雰囲気ぶち壊していく、そっち方面はポンコツな男性陣。

女性陣の方がそういう所は大人ですね。

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