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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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37話 精霊魔法の特訓


「……少しだけ、力を貸してくれる……?」


 その言葉を口にした瞬間だった。胸の奥へ、何かが一気に流れ込んでくる。

 思わず息を呑む。それは熱でも冷たさでもない。ただ膨大な力が、奔流のように自分の中へ注ぎ込まれてくる感覚だった。

 同時に、温かく柔らかな光がセラフィナの身体を包む。金色が混じる、淡い緑色の魔力。リュカの魔力だ。

 風が巻き起こるように、二人の周囲で魔力がゆっくりと渦を描いていた。

 セラフィナはその中心に立っている。けれど不思議なことに、苦しくない。むしろ凪いだ湖のように静かだった。

 これまでなら、その膨大な魔力に翻弄されていたはずだ。自分の中に収まりきらず、溢れ出して暴れ回る感覚があった。

 でも今は違う。流れ込んでくる魔力が、きちんと自分の中に留まっているのが分かる。逃げない、暴れない、ただそこに在る。

 

「うん。いいね。安定してるじゃないか」

 ファイフの声が聞こえた。

「セラフィナ、あんたの中にある別の魔力。それが精霊魔法の源だ。分かるかい?」

 セラフィナはゆっくりと頷いた。確かにある。自分の魔力とは少し違う、もう一つの魔力の流れ。

「その源を、自分の魔力制御を行う時と同じように、少しずつ自分に巡らせていってみな」

 言われた通り、セラフィナは目を閉じた。胸元へ手を置く。

 精霊から送られてきた魔力が、そこに静かに集まっているのを感じる。

 怖くない、ゆっくりでいい。いつも魔力を巡らせる時と同じように、慎重に、丁寧に少しずつ、自分の身体の中へ広げていく。

 腕へ。

 背中へ。

 指先へ。

 温かな流れが、体の奥をゆっくり満たしていく。

「上手いじゃないか。さすが四属性魔法を手足のように使えるだけあるね」

 ファイフが満足そうに言った。

「隅々まで巡らせると、自分の魔力と馴染んでいくのが分かるかい?」

 セラフィナはゆっくりと目を開いた。そして、自分の手のひらを見つめる。指を開いたり閉じたりしてその感覚を確かめるように。

「……分かる……」

 それは、とても不思議な感覚だった。

 ついさっきまで精霊から送られてきた魔力のはずなのに、今はまるで最初から自分のものだったかのように馴染んでいる。身体の一部のようだった。

「さぁ。魔法を使ってみようか。ライラ、人型持ってきな」

「はいはい」

 ライラとユリウスが訓練用の人型をいくつか並べていく。

 セラフィナは深く息を吸ったあと、杖を構える。

 胸の奥にある魔力を感じる。自分の魔力と、精霊から借りた力。それが一つに溶け合っている。

 怖くない。……もう、逃げない。


「……炎弾(ファイアバレッド)


 杖が赤く光った。

 次の瞬間、魔力が弾ける。放たれた炎の弾は、いつもより大きく、速く、一直線に人型へと飛んでいく。そして人型は一瞬で砕け散った。木片が床へばらばらと落ちる。

 その威力は、いつもより明らかに強力になっていた。

「すご……」

 リュカがぽつりと呟く。

 セラフィナは呆然と砕けた人型を見ていた。

 

「……使え……た?」

 

 信じられないように呟く。

「やるじゃないか!」

 ファイフが笑った。

「適応が早いね。グスタフに聞いてたとおり、セラフィナは根っからの魔法使いなんだな」

 その言葉に、胸が少し温かくなる。

「リュカ、少しずつ治癒魔法をかける速度を落としていってみるんだよ」

 ファイフの言葉に、セラフィナは思わず不安そうにリュカを見る。

 するとリュカは小さく笑った。

 

「……大丈夫だよ。ここにいる。魔力が乱れたらすぐ対処するさ」

 

 柔らかな声だった。その言葉に背中を押される。

 セラフィナはもう一度、魔力の流れに集中した。

 少しずつ、少しずつ、リュカの魔力が薄くなっていく。

 けれど魔力は乱れない。自分の中で、きちんと流れている。

 やがて、リュカの魔力が完全に消えた。それでも、セラフィナの魔力は静かに安定していた。

 

「……制御、出来てる……」

 

 思わず呟く。自分の手を見つめると、まだ少し震えている。

 けれど、それは恐怖ではなかった。

「コツさえ掴んでしまえば、あんたなら出来ると思ってたさ」

 ファイフがにっこり笑う。

「なんせ魔力制御が抜群に上手いんだからね」

 胸の奥に、小さな喜びが灯る。

 

「力を貸してくれた精霊を労ってやりな」

 ファイフの言葉に、セラフィナはおずおずと手を伸ばした。目の前に漂う赤い綿毛。

「ルビー……」

 そっと呼びかける。

「力貸してくれてありがと……」

 ルビーがふわりと近づき、セラフィナの手に擦り寄る。

 

 その瞬間、ふわっとした感触が手のひらに伝わった。

「……!!えっ……!?」

 セラフィナは目を見開いた。驚きの声が漏れ、身体が固まる。

「どうした?」

 リュカが顔を覗き込む。セラフィナは呆然と呟いた。

 

「……触れた……」

 

「え!ホントに!?やったな!」

 リュカが嬉しそうに笑う。

 

 セラフィナは恐る恐るルビーを見つめた。手のひらの上に乗る、小さな赤い綿毛。

 そっと指先でつつくとふわふわした柔らかな感触。

 確かに、そこにいる。触れている。

 

 すると他の精霊たちも集まってきた。

 青や緑や黄色の綿毛が、我も我もと手のひらへ寄ってくる。

 くすぐったい。

 でも、温かい。

 

「ふわふわしてる……すごい……」

 

 セラフィナは驚いたまま、頬をほんのり染めていた。そっと、指先で精霊たちを撫でる。精霊たちは嬉しそうに揺れていた。

 

「もう怖くないね?」

 ファイフが優しく笑う。

「あの変人エルフも言ってたろ?精霊はパートナーだって」

 セラフィナは小さく笑った。そして、静かに頷く。

 怖くない、もう、この子たちは……。

「これから慣れていくだけさ。なにかあればリュカが抑えることができるし、セラフィナならすぐモノに出来るはずだよ」

「……ありがとうございました……」

 セラフィナは深く頭を下げた。

 ずっと胸の奥にあった鉛のように重たいものが、少し軽くなっていた。

 

「いいんだよ。あの変人エルフ以外で生きてる間に同じ精霊魔法使いに会えるなんて。しかも四属性同時に!こっちこそいいもん見た気分だ」

 ファイフが朗らかに笑い、そして手をひらりと振る。

「さぁ、今日はこれで解散だよ!明日からは依頼に集中して貰うからね」

 そう言うと、ファイフは颯爽と訓練所を出ていった。

 

「セラフィナ良かったねーー!」

 ライラが勢いよく駆け寄ってくる。

「心配事が減って!師匠もたまには役に立つじゃない!」

「やはりセラフィナは魔法使いとして一流だったな」

 ユリウスが砕けた人型を片付けながら言った。

「また詳しく話を聞かせてくれ」

「ホント、すごいよセラフィナは」

 リュカも笑いながら手伝っている。

「今日のところはもう飯食って休もうな」

 セラフィナはみんなを見渡した。胸の奥が、じんわりと温かい。手のひらの上では、精霊たちがふわふわと揺れている。

「うん……」

 小さく頷く。そして柔らかく笑った。

「……ありがと……みんな」

一歩前進。

セラフィナにとっても師匠と呼べる人が出来ました。


☆補足☆

ファイフがセラフィナの能力について知っていたのは、今回フェンリスに派遣される冒険者の情報を、グレイスロウのギルマス、グスタフからある程度聞いていたからです。

冒険者ギルドは各国にあり、横の繋がりが強固のため、国の思惑に左右される事は少ないと思っていただけたら。

ギルマスになるほどの冒険者は、かなり有能な人物である事が多いのです。

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