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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
2章 ガルディア連合国
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36話 精霊との関わり方

「……ここは話をするには人が多いね。場所を移そう。着いてきな」

 そう言って、ファイフはまるで稽古などなかったかのように軽やかな足取りで歩き出した。つい先ほどまで激しく打ち合っていたとは思えないほど、背筋はしゃんと伸びている。

「……マジでどういう状況?」

 後ろでリュカが小さく呟く。

 

 四人はファイフの後を追い、ギルドの奥へと進んでいく。先ほどの応接室ではなく、さらに奥の扉の前でファイフは立ち止まった。

「ここだ」

 そう言って扉を開ける。中は質素だが整えられた部屋だった。大きな机と書棚、そして来客用のソファー。どうやらここがギルドマスターの執務室らしい。

 促されるまま、セラフィナたちはソファーへ腰を下ろした。ファイフは向かい側にどっかりと座る。

「さて、セラフィナ。あんたのことはここにいる三人にも話していいことなんだね?」

 突然の問いに、セラフィナは少しだけ背筋を伸ばした。

「はい……。みんな知ってます」

「ならよし。私に聞きたいことがありそうだね」

 ファイフがそう言った瞬間、横から怪訝な顔をしたユリウスが口を挟んだ。

「ちょっと待て。なんの話だ?」

「私の精霊をセラフィナが見えたようでね。その話だよ」

 その一言で、空気が固まった。

「……は?」

 次の瞬間、ライラが勢いよく立ち上がる。

「師匠も精霊魔法使ってるって事!?初耳なんですけど!」

 ソファー越しに身を乗り出すライラに、ファイフは肩をすくめた。

「言ってないからね。だってよく考えてごらんよ。精霊が見えて会話してる姿なんて、傍から見たら空中に向かって話しかけてる変なヤツじゃないか」

「いやそうかもしれないけど……」

 ライラは深くため息をつきながら、力なくソファーへ座り直した。

「はぁ……相変わらずなんだから師匠は……」

 

 そのやり取りを聞きながら、セラフィナの胸は少しだけ高鳴っていた。

 ファイフにも、精霊がいる。あの小さなモグラのような精霊。

 それはどこか嬉しくて、同時に少しだけ安心する事実だった。

「ファイフさんも精霊魔法が使えるってことは、セラフィナの精霊も見えてるって事ですか?」

 リュカが静かに問いかける。

「ああ、見えてるよ。さっきはその子たちが隠れてて気づかなかったけどね。私の精霊に影響を受けたみたいで出てきてくれたようだ」

 そう言って、ファイフの視線がセラフィナに向く。その目は、観察するようにゆっくりとセラフィナの周囲を見渡した。

「……四属性全部契約してるのかい。凄まじいね」

 その言葉に、セラフィナは思わず俯いた。褒められているはずなのに、胸が重くなる。

「……あの……私、見えるようになったの、本当に最近で……」

 指先をぎゅっと握る。

「まだ、会話どころか……触れる事も出来なくて……」

 精霊たちは、いつも近くにいる。ふわふわと漂い、時には肩に寄り添うように集まる。

 けれど、触れることができない。手をすり抜ける光達、どうしていいか分からない距離があった。

「……お願いして、力を貸してもらうことが……怖いんです……」

 声が自然と小さくなる。

 

「そうかい。力を持て余してるんだね」 

 ファイフの声は、思ったよりも柔らかかった。

「……はい……少し前に……魔力暴走みたいになってしまって……もし……」

 視界の端にリュカの姿が映る。あの日の記憶が蘇ってくる。

「……リュカがいなかったら……」

 胸の奥がきゅっと痛み、そこから先の言葉が出なかった。

 怖かった。もし、あの時、本当に誰かを傷つけていたら…。

 

「その子たちに名前はあげたのかい?」

 ファイフが穏やかに尋ねる。

「はい……それぞれ、宝石にちなんで……」

「良いじゃないか」

 ファイフはそう言うと、肩にしがみついているモグラの頭を撫でた。

 小さな精霊は、くすぐったそうに体を揺らしている。どこか嬉しそうにも見えた。

 

「ゆっくり可愛がってあげな。精霊は怖いものじゃないんだよ」

 

 その言葉に、胸の奥が少しだけほどける。

「……リシェルさんも、同じ事言ってました」

「うわ、あの変人エルフに会ったのかい!?」

 その名前を出した瞬間、ファイフが目を丸くした。

「はい……。リシェルさんが言うには、私は精霊に好かれすぎてるんだそうです……」

「ははぁ……なるほどねぇ……納得だよ」

 ファイフは腕を組みながら深く頷く。

 

「力を持て余してるのは多分それが原因だね」

「好かれすぎてることがですか?」

 リュカが首を傾げる。

「ああ。ほら、孫みたいな子にねだられると、つい甘やかして菓子を与えすぎちまうことがあるだろう?そんな感じさ」

「……あぁ、なるほどねぇ……わかるわぁ……」

 ライラが大きく頷く。

 

「あの……」

 セラフィナは勇気を振り絞って口を開く。

「どうしたら……ファイフさんやリシェルさんみたいに……精霊に触れる事ができる様になりますか……?」

 ファイフの目が、静かに細められる。

「セラフィナはどうして触れたいと思うんだい?」

 優しい声だった。試すようでも、責めるようでもなく、ただ理由を知ろうとしている声。

 セラフィナは少しだけ視線を落とした。胸の奥にあるものを、言葉にする。

 

「……みんなを傷つけない様に……制御したいんです……」

 

 精霊たちは自分を慕ってくれている。それは分かるからこそ。

 

「私を好きだって思ってくれてる精霊達を……怖いって思いたくないから……」

 

 唇を噛む。それでも、もう一つの本音が零れた。

 

「…………もう……独りになるのはイヤ……」

 

 声は小さすぎて、誰にも届かなかったけれど、自分の胸の中では、はっきり響いていた。

 ファイフはしばらく黙っていたが、ゆっくり頷く。

「うん。そうかい。分かった。……リュカがいなかったら魔力暴走していたかも、と言っていたね?」

 セラフィナはファイフの言葉に頷いた。それを見て腕を組み、天井を見上げる。

 少し考え込んだあと、ファイフはセラフィナをまっすぐ見た。

「……よし。少し特訓しようじゃないか」

 その言葉に、セラフィナは目を瞬いた。

「あんた達も参加しな」

 そう言ってファイフは立ち上がる。四人を連れて、再び訓練所へと戻っていった。

「さぁさぁ、今日は今からここは立ち入り禁止だよ!お前たちは依頼に行きな!!」

 突然の宣言に、訓練していた冒険者たちが一斉に不満の声を上げる。

 だがギルドマスターの一言に逆らえる者はいない。渋々と全員が出ていった。

 広い訓練場には、セラフィナたちだけが残った。

 

「セラフィナ」

 ファイフがゆっくり振り返る。

「あんたは根本的に魔力を恐れている所がある。それを強制的に直していくよ」

「強制的……?」

 思わず聞き返す。

「そうさ」

 ファイフはニヤリと笑った。

「力を貸してもらう感覚を掴むために、今から精霊魔法を使う」

 そう言って、今度はリュカを見る。

「リュカ、セラフィナに対して常時魔力の乱れを治す事ができるかい?」

「あぁ、出来る」

「上等だ」

 リュカの迷いのない返事にファイフが楽しそうに笑った。

「セラフィナ、あんたが一番得意な属性は?」

「……火属性……」

「じゃあ火の精霊に呼びかけて力を貸して貰うんだよ。リュカ、あんたは常に治癒魔法を」

 リュカは静かに頷いた。そしてセラフィナの方へ歩み寄り、視線を合わせた。まっすぐな緑の瞳。

「セラフィナ、大丈夫だ」

 その一言だけだった。でも、それだけで胸の奥の震えが少しだけ落ち着く。セラフィナは小さく頷いた。

 視線をゆっくりと前へ向ける。そこには、ふわりと漂う赤い光。綿毛のような、小さな精霊。

「……ルビー」

 名前を呼ぶ。すると赤い光は嬉しそうにふわりと近づいてきた。

 胸がどきどきする。

 怖い。

 もし、また暴走したら。

 もし、みんなを傷つけたら。

 指先が小さく震える。

 セラフィナは一度大きく深呼吸をした。そして、そっと手を伸ばす。

 

「……少しだけ……力を貸してくれる……?」

 

 祈るように、静かに問いかけた。

師匠はやっぱり師匠なのです。

変人エルフのリシェルさんは19話から少しだけ出ています。

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