33話 道中にて
指名依頼を受けてから三日後。四人はすでにエルドリア王国とガルディア連合国の国境付近まで来ていた。
今回要請があったのは、ガルディア連合国の首都フェンリスにある冒険者ギルド。
グレイスロウからフェンリスまでは馬車で四日はかかる距離だ。
山間の細い街道を進み、日が傾く頃には野営の準備を始めていた。
「明日には着きそうね」
荷物を降ろしながらライラが言う。
「そうだな。このまま順調に行けば明日の昼までには首都に到着出来そうだ」
ユリウスが周囲を見回して頷いた。ライラは馬車を引いてくれている馬の首筋を軽く撫でながら、ぽつりと呟く。
「ギルドがこんな大きい馬車まで貸してくれるなんて思わなかったけど……」
隣ではセラフィナが餌を差し出していた。馬は嬉しそうに鼻を鳴らし、セラフィナの手から大人しく食べている。その様子にセラフィナは少し頬を染め、鬣をそっと撫でた。
野営の準備が整う頃にはすっかり日も落ちていた。
四人は焚き火を囲み、簡単な炊き出しを食べ終える。温かいお茶を飲みながら、他愛のない話を続けていた。
「ってか、ユリウスはまぁ分かるんだけど、リュカが馬に乗れるだけじゃなくて馬車も操縦出来るの意外だったわ……そのおかげで快適な旅になったけど!」
ライラが湯気の立つカップを揺らしながら言う。
「あー、うん。…俺の場合は必要に駆られてってとこだけどね」
リュカは苦笑した。
「ふーん。なんでも出来るようになっとくに越したことは無いわねー。冒険者してると乗馬はなかなか機会が無いけど……」
ライラは頷きながら一口お茶を飲む。その横で、セラフィナがぽつりと呟いた。
「……馬可愛い……」
その声にライラがセラフィナへ顔を向けた。
「そういえば馬たちもセラフィナに懐いてる感じがしたわね。動物好きなの?」
「うん……好きみたい」
セラフィナは嬉しそうに笑った。それを見ていたユリウスが顎に手を当てる。
「実家の方に何頭か俺の馬がいるんだが、グレイスロウに帰ったら良ければ二人とも乗馬をしてみるか?」
「え!?それはありがたいけど……馬……何頭もいるのね……」
ライラは少し遠い目になったが、セラフィナは逆に目を輝かせていた。
しばらくして、焚き火の火も落ち着いてきた頃、ライラがふと思い出したように言った。
「そういえばいっつも私達だけ馬車の中で寝させて貰ってるけど本当にいいの?」
「構わないよ。明日には街に着くし。そういうのは女の子達優先」
リュカが笑う。ユリウスも静かに頷いた。
「寝る時は内鍵をかけるんだぞ」
「毎晩そればっか言ってるよね」
ライラが肩をすくめる。
「……ユリウスってお母さんみたい」
「なんだそれは……」
ユリウスががっくり肩を落とした。それを見たライラは楽しそうに笑う。
「まぁいいや。気を使ってくれてありがと!じゃあおやすみ」
「……おやすみなさい」
セラフィナも小さく頭を下げる。
二人は馬車に乗り込み、扉を閉めた。しばらくして、内鍵のかかる音が小さく響く。
それを確認してから、リュカとユリウスは焚き火の前に戻った。
星の出ている、静かな夜だった。
しばらく火の番をしながら穏やかに雑談をしていたが、二人の間に一陣の風が吹き、同時に会話が途切れる。
そして無言で立ち上がり、それぞれ武器を手に取った。
リュカは小さく息を吐き魔力を巡らせると、守護結界が広がり、馬車と馬達を包むように淡く半円状に張っていく。
街道から少し外れた前方の暗がり。そこから、ゆっくりと人影が現れた。
汚れた衣服、錆びた武器、品定めするような嫌な笑み。
現れたのは腹を空かせた野生動物ではなく、十数人の破落戸だった。
「……破落戸はどこにでも出てくるものだな」
ユリウスが小さく呟く。リュカは目を細めた。さっきまでの穏やかな空気は消え、表情が抜け落ちていく。
「……敵、って事でいいよな?」
「相手は二人、女は馬車だ!やっ……」
最後まで言葉は続かなかった。
声を張り上げた男は、次の瞬間には地面に伏せていた。
「二人が起きてしまうだろう?」
ユリウスが男の頭を踏みつけながら静かに言う。
「黙っててくれないか?」
「なっん……!!」
別の男が声を上げかけるが、その口はリュカに塞がれ、体ごと地面に叩きつけられていた。
リュカは無表情で男を見下ろす。
「……お前らはこれ以上は進ませないし、彼女達の目にも入れない」
それからはあっという間だった。
気付けば奴らは逃げる間もなく、十数人いた破落戸は全員地面に倒れていた。
二人は淡々と縄で縛り上げる。野営地から離れた場所まで引きずり、立ち上がれないよう木に括りつけた。口には猿轡も噛ませる。
「……後でフェンリスのギルドに報告しておこう」
ユリウスが縄の結び目を確認しながら言う。
「まぁ、野生動物に襲われない事を祈っとけよ」
リュカが破落戸を一瞥し肩をすくめた。
翌朝、馬車の扉が開き、ライラとセラフィナが外に出てくる。
「おはよー。ぐっすり寝ちゃったわ。夜なんも無かった?」
「おはよう。なんも無かったよ」
リュカは鍋をかき混ぜながら笑顔で振り向いた。
「とりあえず朝飯食おう」
焚き火の上で湯気が静かに揺れていた。
リュカとユリウスは女性に対して紳士なのです。
斥候のライラがなんで気づいてないの?となりそうだけど、ぐっすり寝た後の出来事+守護結界の影響で気づきませんでした。男性陣をそれだけ信用してるとも言える。




