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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1.5章 閑話のような
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31話前編 居場所

 領主館を出た帰りの馬車の中は、妙なほど静かだった。誰も何も言わない。揺れる車内で、四人はそれぞれぐったりと座席に身体を預けている。

 重たい沈黙のまま馬車は貴族街を抜け、やがてユリウスの屋敷の前で止まった。そのまま流れるように屋敷へ入り、リビングへ移動する。

 誰からともなくソファーに腰を下ろすが、やはり誰も口を開かない。沈黙の空気の中、ユリウスが立ち上がった。

「……とりあえず、茶を入れてくる」

 しばらくして湯気の立つカップを載せた盆を持って戻ってくる。テーブルに置いた、その瞬間だった。

 

「……ちょっとユリウス」

 

 口を開いたのはライラだった。

 普段よりずっと静かな声。だが息継ぎも挟まず、凄まじい速度で言葉が続く。

 

「なんでこんな事になってんのか説明してマジでどういうことマジで意味わかんないしマジで」

 

 ぴたり、と空気が固まった次の瞬間。

 

「……本当にすまなかった!!」

 

 ユリウスが勢いよく立ち上がり、そのまま床へ膝をついた。深々と頭を下げる。

「決して騙そうとかそういう事ではなかったんだ……本当に申し訳ない……」

 その様子を見たリュカはソロソロと立ち上がり、ユリウスの横へ座る。

「……あのさ、俺も知ってて黙ってたし……二人ともごめんな……」

 そう言うと肩をすくめながら頭を下げる。

 ライラとセラフィナは同時に目を瞬かせ、顔を見合わせる。

 

「「……はぁぁぁ……」」

 

 二人揃って大きく息を吐いた。ライラが天井を仰ぎながら思っている事をぶち撒けた。

「このパーティならいつかは貴族と会うことになるかもとは思ってたけどさ!最初がまさかの領主様って!!」

「……ホントに緊張した……」

 セラフィナも小さく呟き、ギュッと胸を押さえた。

「しかもあんた、領主の息子って!!せめて事前に言っといてよ!!こちとら庶民だっつーの!!」

 横でセラフィナがこくこくと力強く頷く。

「……申し訳ない……」

 掠れた声でユリウスが呟く。頭はまだ床につきそうなほど深く下がったままだ。

 リュカも同じ姿勢で並んでいる。

 二人並んで謝罪するその姿を見て、ライラは眉を下げた。

 

「……はぁ、まぁいいけどさ。言いづらいのもわかるし」

 

 呆れたように肩をすくめる。

 そして次の瞬間、びしっと二人へ指を突きつけた。

 

「お詫びに私とセラフィナの分、あんた達が美味しいご飯と、美味しいデザート、それと高いワイン奢りなさいよ!」

 

 ユリウスが顔を上げた。ライラは片目を瞑りニヤリと笑う。

「それでチャラね!」

 隣でセラフィナも、こくりと頷いた。

「……! もちろんだ!……二人ともありがとう……」

 安堵が滲んだその表情は、今にも泣き出しそうにも見えた。リュカが横から軽く肩を小突く。

「良かったな」

「……あぁ」

 ユリウスが小さく笑う。

 ひとまず落ち着こうということで、四人は改めて席に座り直した。

 テーブルの上には先ほどトールからそれぞれ渡された土産の紙袋が置かれている。リュカがそれを開けた。

「おぉ、めっちゃ美味そう!たくさん入ってるな!」

 紙袋の中には、アイシングの上にナッツが散らされたドライフルーツ入りのパウンドケーキ。

 さらにいくつかの包みを開くと、色とりどりのクッキーが現れた。

 透き通った飴をはめ込んだステンドグラスクッキー、雪玉のようなスノーボールクッキー、香ばしいフロランタン、丸くて可愛らしいジャムサンドクッキー。

 瓶の中には、宝石のように輝く色とりどりの飴。

「……これ、高級菓子店のやつじゃない……?流石領主様……」

 ライラが遠い目をして呟いた。その横でリュカはもうパウンドケーキを切り分けて口に入れていた。

「うまっ」

 間髪入れずもう一口。その様子を見てライラが笑う。

「で、どこ連れてってくれんの?」

 フロランタンをかじりながら尋ねる。

 ユリウスは顎に手を当てた。

「ふむ……色々あるが、お詫びになるような店は予約がいるな。今日はいつもの所へ行って、別日にそちらへ行こうか」

 するとリュカがすぐに言った。

「よし。いつもの所なら俺が奢るわ」

 パウンドケーキを頬張りながらの発言である。

「これマジで美味っ」

「まったく、調子いいんだから!」

 ライラが笑いながら立ち上がる。

「じゃあ行こうか!」

 

 外に出ると、すでに空は夜の色に染まっていた。

 街灯がぽつぽつと灯り始め、石畳の道を柔らかく照らしている。

 四人が向かったのは、ギルド直営のいつもの酒場。“深層の灯”だ。店に入ると、ちょうど入れ違いで客が出てきた。

「あ、空いてる」

 いつもの半個室の席だ。

「ちょうど良かったな」

「ホント、ここの席に縁があるわね!」

 笑いながら席に座る。メニューを開いたライラは遠慮がなかった。

「これとこれと……あとこれも。あ、こっちも」

 高めの料理が次々と注文されていく。

 セラフィナはシードル、他の三人はエール。グラスが掲げられる。

 ライラが満面の笑みで言った。

 

「じゃあ今日はリュカの奢りにかんぱーい!」

何事もポジティブなライラ姐さん。

大人なのです。

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