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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
1.5章 閑話のような
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30話後編 領主館

「えー?トールは相変わらず辛辣だなぁ……」

 

 セリオンがわざとらしく肩を落とす。トールは眼鏡の位置を指で軽く押し上げながら淡々と返した。

「自分でもお分かりでしょう?張り切りすぎです」

「可愛い弟の仲間に会いたいだけだったのに……」

 セリオンは少し口元を尖らせながら、じろりとトールを睨む。

 だが睨まれた当人はまったく気にした様子もなく、静かな顔のままだった。

 そのあともセリオンは何やら小さく呟きながら紅茶を口に運ぶ。ぶつぶつとした抗議のような独り言が続いていた。

 

 その様子を見て、ライラの肩からふっと力が抜けた。

「……っふ……」

 思わず小さく吹き出してしまう。

 皆の視線が一斉に向き、ライラは慌てて口元を押さえた。

「す、すみません……」

 それでも笑いを堪えきれず、少しだけ声が弾む。

「……ご兄弟……仲が良いんですね」

 その言葉を聞いたセリオンはぱっと表情を明るくしてどこか誇らしげに笑う。

「そうなんだ、みんな自慢の弟たちなんだよ」

 その視線の先で、ユリウスは小さく肩をすくめていた。

 

「……私も弟が二人いるので、分かります」

 ライラがそう言って、ほんの少し遠くを見るような顔をする。セリオンが興味深そうに首を傾げた。

「おや、ライラさんも弟が?」

「……はい……もう何年も会ってないんですけど……」

 一度言葉を切り、それから続けた。

「私、隣国のガルディア連合国から来てるんです」

 その言葉に、セリオンは小さく頷く。

「あぁ、なるほど。優秀なわけだ」

 さらりと言われて、ライラは少し苦笑する。

「ここに来たのは、自由に出来るからっていうのが一番ですね。……半分、家出みたいな形であっちを出てきちゃったんで……」

 その言葉には、どこか重く聞こえないようにしているのが分かる言い方だった。

「ここは私みたいな冒険者にとっては、ダンジョンも沢山あるし……住みやすくて、気に入ってますよ」

 ライラは明るく笑った。その笑顔に、セリオンはゆっくりと目を細める。

「うん。グレイスロウを気に入ってくれて嬉しいよ」

 

「セラフィナさんはどうかな?」

 セリオンが視線を横へ移す。

 突然話を振られ、セラフィナの肩がぴくりと揺れた。少し戸惑いながら、ゆっくりと口を開く。

「……私は……エルドリアの……辺境から来ました……」

「辺境?」

 セリオンが穏やかに聞き返す。セラフィナは一瞬だけ視線を落とした。

「……故郷は……無くなってしまったので……」

 そう言って俯く。室内に短い沈黙が落ちた。

 セリオンはほんの一瞬だけ眉間に皺を寄せ、何かを思い出すような表情になるが、それもすぐに消えた。

 いつもの穏やかな顔に戻り、優しい声で言う。

「そうか……グレイスロウを第二の故郷だと思ってほしいなぁ」

 そして柔らかく微笑み、静かに言葉を紡ぐ。

「貴女みたいな優秀な冒険者の拠点として選ばれて、光栄だ」

 セラフィナは少し驚いたように顔を上げる。そして小さく頷いた。

 

「リュカ君は?」

 セリオンの視線が今度はリュカへ向く。

 少しだけ間が空いた。リュカは言葉を選ぶように視線を落とし、ゆっくりと口を開く。

「……俺は……アストレア王国から……一番遠い国だからエルドリアに」

 そして肩を軽くすくめる。

「……あとはグレイスロウに一番大きなダンジョンがあるからですね」

 その言葉を聞いたセリオンは、小さく呟いた。

「アストレアか……」

 ほんのわずかな間、考えるように視線が揺れる。だがすぐに、いつもの笑顔に戻った。

「ここはどう?」

 軽い調子の問いだった。リュカは少しだけ笑う。

「賑やかで、美味いもんいっぱいあるんで。いい所ですよね」

 その答えに、セリオンはくすりと笑った。

「ふふっ……美味いもん、ねぇ……。うん。……君が来てくれて良かったよ」

 その視線がユリウスへ向く。

「ユリウスと、これからも仲良くしてやって」

 どこか楽しそうな声だった。

 リュカは軽く頷いた。

「もちろん」


 

――領主館の玄関先。

 見送りに出てきたセリオンが、穏やかな声で言う。

「今日はここまで来てくれてありがとう」

 そして、あの整いすぎて神々しさすら感じる笑顔を浮かべた。

「君たちと話が出来て良かった」

 その瞬間、ユリウス以外の三人がぴたりと固まる。ユリウスがすぐ横で額に手を当てた。

「……セリオン兄様……」

 静かに首を横に振る。セリオンは少し眉を下げ、小さく肩をすくめた。

「おや、まだダメだったか」

 

 その横からトールが前に出る。

「こちら、お持ち帰りください」

 そう言って三人へそれぞれ手渡された紙袋はずっしりとした重さがある。焼き菓子の甘い香りがほのかに漂っていた。

 

 少し離れたところでサイレスが手を上げる。

「ユリウス、またそっちに行くからな」

 ユリウスは苦笑しながら手を振り返した。

「分かりましたよ」

 

 最後に、セリオンがもう一度穏やかな笑みを浮かべる。

 

「またおいで。君たちなら、いつでも歓迎だよ」

 

 領主館の灯りを背に、三兄弟は静かに四人を見送っていた。

兄弟仲はとても良好なご領主一家。

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