26話前編 四人で。
指名依頼から戻って三日。
約束していたその日の昼前、グレイスロウ冒険者ギルドの前広場には、すでに見慣れた顔が揃っていた。
「やっほー!」
元気よく手を振りながら駆け寄ってくるライラの姿に、広場の空気が一気に明るくなるようだった。
「一旦解散したのついこの間なのに、なんか久しぶりって感じするねー!」
その言葉に、リュカも思わず頷いた。
「確かになぁ。ダンジョンの中じゃずっと一緒だったしな。そう思うのも分かる気がする」
戦闘の緊張も、狭い通路の空気も、焚き火を囲んだ夜も。数日しか経っていないのに、妙に遠い時間のようにも感じる。
ふと、リュカの視線がセラフィナへ向いた。
「セラフィナ、あれから大丈夫か?特に変わりなかった?」
自然な流れでそう尋ねながら、少しだけ身を屈めて顔を覗き込む。思っていたより距離が近くて、セラフィナは一瞬目を丸くした。
「……!」
驚きの気配を隠すように視線を揺らし、それから小さく息を整える。
「……大丈夫。今は安定してるの」
そう言って柔らかく微笑むと、リュカの表情もすぐにほぐれた。
「そっか。良かった」
短い言葉なのに、心底安心したのが伝わる声だった。
静かに口を開いたのはユリウスだった。
「……あれから大ダンジョンに何か進展があったのかは気になるが……また指名依頼があるとは限らんからな」
その言葉に、四人の間に少しだけ沈黙が落ちる。
四人とも、あの依頼でまだ見えていない部分、最後まで確認しきれなかった未練があるとも言えた。けれど、今ここで分かることは何もない。
「そうよねぇ……」
ライラが小さく肩をすくめる。
重くなりかけた空気を、彼女はすぐに切り替えた。
「あ、ねぇ」
ぱっと顔を上げ、ギルドの向かいを指さす。
「みんなお昼ご飯食べてきちゃった?もし良かったら何か食べながら話そ!」
指の先には見覚えのある看板。“深層の灯”が見える。
「賛成!実は腹減ってきたなって思ってたんだよな」
リュカがすぐに頷いた。それを聞いたライラが笑う。セラフィナとユリウスも自然と頷き、四人はそのまま店へ向かった。
店の中は昼時らしい賑わいだったが、運よく以前使った半個室が空いていたため、そこで席に着く。
今回も自然な流れで、リュカの隣にセラフィナ。向かいにユリウス、その隣にライラ。前と同じ配置に、誰も特に違和感を持たなかった。
昼限定のランチプレートを四人とも注文する。やがて運ばれてきた料理は、評判通りの豪華さだった。
皿の中央には、香ばしく炒めた穀物“ライマイ”を卵でふんわり包んだ料理。上からたっぷりとかけられたトマトソースが鮮やかな色をしている。周囲にはサラダ、小さく切られた鶏の揚げ物、温かなオニオンコンソメスープ。さらに小さなプディングまで添えられていた。飲み物は全員ノンアルコールだ。
料理を一口食べた瞬間、リュカの目がぱっと輝く。
「美味っ!!」思わず声が出る。
「このライマイ?っていうの初めて食べたけど、すげー美味い!」
スプーンを持ったまま感動していると、ライラが驚いたように目を瞬かせた。
「えっ、初めてなの!?この辺じゃ結構当たり前にある穀物なのに……」
とライラが首を傾げている。
「あー……俺、結構遠くからここに来てるからな」
と頭を掻きながらリュカは答えた。
「あぁ、なるほどね。ライマイは色々アレンジ料理があるからさ。また食べてみるといいわよ。」
ライラは納得したように頷き、そう言った。リュカはその言葉に嬉しそうに笑う。
「そうする。……また楽しみが増えたなぁ」
そう言いながら、スプーンを進める手は止まらない。
「……リュカは」
ふと、静かな声が聞こえた。セラフィナだった。
「食べることが好きなの?」
思いがけない質問に、リュカは一瞬だけ目を丸くする。セラフィナから自分に問いかけられることが少し新鮮で、リュカは嬉しくなってすぐに笑顔になった。
「そうだなぁ……」
少し考えてから頷く。
「うん。食べるのは好きだよ。料理作るのも」
スープを一口飲みながら続ける。
「前はさ、食える時に食えるもん食っとかないとって思ってたけど、この街に来てからは食事も楽しみの一つになったな」
軽い口調でそう言っているが、その奥にあるものは決して軽くなく、過去が随分と過酷な環境だったと思わせるような言葉だった。リュカは皿の料理を見渡し、しみじみと言う。
「美味いもんがありすぎるんだよなぁ……ここは……」
その様子を見て、ユリウスが静かに口を開く。
「この国は貿易が盛んでもあるからな。探せば結構なんでも手に入るぞ」
フォークを鶏の揚げ物に刺しながらライラが頷いた。
「そうよねぇ……ダンジョンだけじゃなくて、一攫千金夢見てここに来る人も沢山いるもんね」
穏やかな空気のまま、食事は続いていく。戦闘も依頼もない時間。けれどそれは、確かに四人の距離を少しずつ縮めていた。テーブルの上にはまだ温かい料理と、ゆっくり流れる会話。
そんな昼のひとときが、静かに広がっていた。
ライマイ(ライス&米)つまりご飯です。




